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⑥
真っ赤なカーペットが敷かれたロビーの、人気のないグランドピアノの陰を選んで、そっと潜り込む。
「ここなら音楽も聴こえるし。間違えても平気」
「は、はい……。その、よろしくお願いします」
彼は微笑んで、恭しく手を差し出し。
その仕草がワインのように気分を乗せて、わたしは演劇部時代を思い出して、お姫様役の子がやっていたようなお辞儀をしてみせたりして。
抱きしめられるように囲われるのは。
身体を揺らされるのは。
なんだか本格的に、酔ったような心地になるもんだ。
小さく、顔を寄せてくる彼に、訊いてみる。
「あの。あたしちゃんと踊れてるかな」
「……」
あれ。
はっと我に返るような声がする。
「すみません。その。少し……見惚れていました」
「……」
だからそのさりげなくぶっこんでくる甘ゼリフ、やめろ……。
「とても、上手ですよ。主様」
「フフフ。ハーヴェイはいつだって、あたしを嬉しくさせるのが上手だね」
「俺は心からの言葉しか口にしたことはありません。素敵です。……ずっとこの時が続けばいいと思ってしまうほど」
「——」
不覚にも今、同じことを思った。




