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第12章 主様、執事の世界へ①

 ハワイアンミュージックの流れるカフェのソファで、ランチ時に友達と二人、向かい合う。

 梅ちゃんの恋のその後・報告会である。

 夢の国で購入したパープルのリップが香る唇。

 夏のブーゲンビリアが飾られたブラウスに空色のスカート。

 相変わらずのおしゃれと、その華やかな雰囲気から結果はもうわかる。



「ってわけで、ボイスさんと花鳥園デートに行ってきました!」

 見せられたのは、ブーゲンビリアの咲き乱れる中、インコさんを肩に乗せてピースする梅ちゃんの写メ。相変わらず、ボイスは仏頂面で顔もぶれてるが。

「ボイスさんって、動物や植物に優しいんですよー。ギャップ萌えの嵐でますます好きになったちゃいます」

「うまくいってるみたいだね」

 チークのせいばかりではなく赤らんだ頬を抑えて、梅ちゃんは興奮気味だ。

「もう、なにもかもほのさんのおかげですー」

「はい。それはよかったですなぁ」

「今日はお祝いです! ケーキも頼んじゃおうっと。ほのさんは?」

「あ。あたしは……今日はデザートはいいや」

「えー?」



 窺うように小首をかしげて、梅ちゃんがのぞき込んでくる。

「なんかおかしいな。いつもならいっしょにお祝いしてくれるのに……はっ。もしや」

 真剣な顔で、彼女は声を潜める。

「ダイエットですか?」

「うっ」

 なんでこう、恋する女子は勘が鋭いのだろう。

「そう言うほどちゃんとしたもんじゃないけどさ……」

 しおしおとうつむいた拍子に目に入る自分のファッションは、体形がカバーできるジャンパースカートだ。

 ……ちょっとだけ綺麗になりたい欲が強まっていたりはする。




「そんなに根詰めて頑張りすぎることないと思いますけど。ハーヴェイ似カレシさん、ほのさんを溺愛じゃないですか」

「いや、それが……」

「なになに、なんか悩んじゃってる感じですか?」

 包んだ両こぶしのあいだに顎を乗せ、聴く体制に入った梅ちゃんに、しぶしぶ告げる。

 なぜか、メイナード豹変事件があってから、ハーヴェイがまた、著しく元気ない。

 ゲームモードで言うシリアスな雰囲気に入っている。

 理由を訊いても話してくれないし。



「あたしにとって彼は頼れる執事でも。彼にとってはやっぱりあたしなんかあてにならないのかなって」

「なるほど……それで美貌でひきつけようと」

「いやだから、そこまでたいそれたもんじゃないんだけどさぁ。それくらいの悪あがきしか、思いつかなくて……」

 すっと、長い梅ちゃんのまつ毛が伏せられる。

「わかりました。この梅ちゃん、とことん協力しちゃいます」

「え、ほんと?」

「まっかせてください! ほのさんをぴっかぴかの美女に磨いてあげます!」

 おー、心強い。

「さっそくですが、ハーヴェイさんと出かける予定を組んでください。三週間後に」

「ええっ。三週間じゃダイエットに効果なんて……」

「姿勢と心持ち、それに伴って、ファッションが変われば、見栄えはずいぶんと代わります。体重を落とす必要はありません」

「そ、そうかなぁ……?」



 これだけ堂々としたおしゃれ女子にはっきり言われると、そうかもという気もしてくるが。

「場所はできるだけロマンチックで、時間帯は夜にしましょう。できればフォーマルな服装でいくようなところがいいですね」

「えっ。うーんでも」

 そういう場には詳しくないし……。

 マナーとかも未知だけど。

「まぁそこはおいおい考えましょう」

 フリルのついた袖をまくり、梅ちゃんは雄々しくもガッツポーズをとる。

「それまでにファッションもメイクも美容健康も、みっちりマスターしてもらいます!」

「うん」

 なんかわかんないけど、うまくいきそうな気がしてきた。

 わたしは師匠に向かって頭を下げた。

「よろしくお願いします、梅先生!」



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