③
数分後。
わたしとハーヴェイは、メイナードに向きあっていた。
「そうですか。前髪が落ちて、わたくしはまた豹変してしまったのですね……」
「……」
なんだこの設定! 運営さーーん!
「すみません、豹変中のことはまったく覚えていないのです」
すっかり紳士モードに戻り、知的な口調も生還した彼にはアンバランスで悪いが、くまちゃんコームはそのままとさせていただいている。
「まぁ、野性味あふれるメイナードも普段とのギャップ大きすぎて、ちょっとかっこよかったけど。……うかつにもドキドキしたし」
とうっかりこぼしてしまうと、
「なんと、本当ですか?」
メイナードは心から嬉しそうに笑う。
「フフフ。厄介なこの習性ですが、主様にそう言っていただけるのであれば、時々なら発動してもかまわないという気持ちにすらなろうものですね」
「主様、ほんとうにやめてください。あんなメイナードと二度も争いたくありません」
「あ、はい、すみません」
ハーヴェイにしっかり注意されてしまった。
「それに……ひどいです」
ん?
なぜそこで顔を赤らめてそっぽを向く?
「主様に物騒な物言いをして襲い掛かったメイナードにドキドキした、なんて。俺は、主様の身に危険が及んでいると、必死の思いで戦ったのに……」
「ああ、ごめんごめん」
いじけるところもかわいいなちくしょう。
「フフフ。これはこれは。いつも完璧で頼もしいかぎりのハーヴェイさんをすねさせることができようとは。今宵はささやかな一勝と思ってもよろしいんでしょうか?」
「くっ……」
なんだか悔しそうなハーヴェイを見て微笑み、メイナードは続ける。
「ところで、夕餉の時刻もとっくに過ぎてしまいましたが、よろしければお詫びに、わたくしが準備しましょうか?」
「しまった……! 仕事帰りに買ってきた食材をまだ冷蔵庫に入れていない。主様、俺がすぐ準備しますので――」
「ええっ」
だいじょうぶかな料理苦手なのに。
だが、キッチンに向かうハーヴェイを追おうとする手をそっと掴まれてしまった。
「変貌中、わたくしがどんなことを言ったかはわかりませんが、ほの様」
心持ち、首をかしげて。
下から、メイナードがのぞき込んでいる。
「その、改めてお伝えしなくてはならないことがあります」
「ん?」
内緒話を囁くように、身を寄せられて――。
なんかかすかに頬が紅いような気がするが――。
「ハーヴェイさんとの恋のご協力。どうももう、できなくなってしまったようです」
「え?」
頬は相変わらず蒸気したまま、そっとわたしの手から手を離し、メイナードは自らの胸にあてた。
「これからは別の人物との恋を、主様に切におすすめすることになるでしょう」
「……」
あのー。なんですか?
恋愛マニアが高じてマッチングアプリ運営でもはじめたんですか、メイナード。
「フフフ。なぜそうなってしまうのやら……ですがそんなところが主様の魅力でございますから、仕方ありませんね」
おかしそうにそう評した後、急にメイナードに真面目な顔をされて、なぜだか背筋が伸びる。
「すべてはわたくしの都合です。誠に申しわけない限りではありますが。その代わり」
「——ひゃ」
キッチンからは見えない部屋の角に抱き込まれて一言だけ、告げられた。
「新たな恋に進まれた場合——後悔は決してさせませんのでどうか、ご容赦を」




