②
最初に向かったのは、このあたりでは一番大きなファッションビルだった。
まぁ普通より数段チープめのお店にはさせてもらったが。
「予算内なら好きなのいいから、選びなよ」
と言ったものの、ハーヴェイは、
「そうおっしゃられましても。服を選ぶ、というのは、なかなか難しいですね……」
と、どれを手に取るか、そこからつまずいているのを見て、ぷっと噴出した。
「そういえばハーヴェイって、センスも残念だったね」
「えっ」
驚いた顔をしてこちらを見る。
「それはいったい、誰から聞いたのですか」
「いや公式設定から――こほん、仲介所の運営さんからですが」
「また運営さんですか……」
むっとした顔をして、
「俺だってセンスくらいあります。そうだ。これなんかどうでしょうか」
掲げたのは真っ黒いティーシャツに、神々しい龍と桜吹雪が待っているものだった。
どこのやくざだ。
やれやれ。案外負けず嫌いなんだよな。
「無理しなくていいから。わかった。あたしが選んであげよう」
「あ、主様が……俺の服を……!」
……しまった。
顔を赤らめて躊躇するから、思わずキュンときそうになった。
いけないいけない。
彼はそもそもユーザーをときめかせようという運営さんの策略によって作られた存在なのだ。だからこういうのは通常運転。騙されてはいけない。
「はぁ、とはいえ……」
わたしも男性の服なんてほぼ選んだことない。
ちらとまだ顔を赤らめている隣人を見るに、そこそこなんでも様になっちゃいそうではあるし。
せっかくだ。予算の範囲内で好みで固めさせてもらった。
持ってきたのは、オリーブグリーンのセータージャケットに、ローズグレイのマフラー。同じ系統のグレイのスラックスに、ベルトを締めたスタイルだ。
試着室から出て来たハーヴェイはさすが、モデルのように着こなしていた。
「……なんだか、少し恥ずかしいですね」
そんなふうに言いながら落ち着かなげに鏡を見ているが、こちらから言わせてもらえば、さっきの燕尾服ほうがよっぽど恥ずかしいですが。
「主様、なにかおっしゃいましたか……?」
「いえ、なんでもございません」
そのあと、きちんと言ってやる。
「よく似合ってるよ。それにしよう」