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 念には念をということで、メイナードはアパートではなく、電車で一時間かかる地まで連れてきてくれたようだ。

 半年に一度くらいしか来ない都市の景色がぼんやり映る。

 小さな公園のベンチに座ると、ぽつりと言葉が口をついて出る。



「大丈夫かな、ハーヴェイ」

「ご心配には及びません。なんの武術の心得もない力任せの暴力に、ハーヴェイさんが負けると思いますか」

「それは、そうだけど……」

 ベンチの前に日ざまづき、メイナードはにっこりと笑った。

「もうだいじょうぶですよ、ほの様。わたくしたちがあるかぎり、あの方にはあなたに指一本触れさせません」

「……」



 その姿から、さきほどの怪力や殺気は想像できない。

「びっくりした。強いんだね、メイナード」

「フフフフ。ついでだから明かしてしまいましょうかね」

 楽し気に笑うと、メイナードは、笑顔で、

「わたくしはこちらの世界で言う、そうですね――マフィア一族の出身なのです」

 爆弾、落とした。




 え。

 待ってその設定まだ未攻略のやつ。

「とはいっても、汚職にまみれた政治家や、悪質な詐欺グループだけを狙う義賊と囁く人もある一族で。わたくし自身もそう、自負しておりますが」

「……」

「とは言え……一族の習わしにすっかり染まり、血染めの道を歩んだ罪に、変わりはありません」



 言葉が出ず、ただ跪くメイナードの手をとり、隣に座らせる。

 すると彼はどこか切なげに微笑んだ。




「ほの様は、すごいです」

「え?」

「あのようなご一家で育ったのに、まるでそれを感じさせない。過酷な環境下で、酷い人々の中にあってそれに染まらず、自身の尊厳を保ち続ける。並みの人間にはまず、できないことです。このわたくしにも、成し得なかったことですから」



 触れていたメイナードの手がかすかに開き、宙を向いた。

「美しい物語やあたたかな温度を生み出すほの様のその手とは違ってこの手は、血にまみれ、襲い掛かる者を殴打することしか知りません……」

「メイナード……」



 彼の笑顔に隠れた影を、こんなタイミングで知ってしまうなんて。

 どうにも切なくて、メイナードを見つめることしかできないでいると、彼は切ない表情を消してまた、 花開くように笑んだ。

 急に、はっとひらめく。

 食欲がなくほぼ食べられないのは。

 血の味しかしないから、とか……?

 いかにも運営さんが設定しそう。ありえそうで怖い……。



「ねぇメイナード」

 たまらず、声をかけていた。

「オランジェット作った、残りのオレンジでね、搾りたてのジュースをつくるつもりなの。食欲がわかないときにいいってきいて」

 言っているうちに、自分が考えていた計画の些末さにだんだん語尾がしぼんでいく。

「よかったら、飲んでほしくて……」

「ありがたき幸せです、ほの様」



 それでもメイナードはそう請け負った。

「水や最低限のパン以外あまり口にしたことがないわたくしでも、きっとそのジュースは美味に感じられるでしょうね」



 目を細めるメイナードの隣で、何とも言えないもどかしさを噛み締めながら、わたしはベンチを立った。



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