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 わたし、ほのの父親は三か月前、わたしの職場で大事件を起こした。

 わたしの身内ということもあり、主任は訴えることはしないと言ってくれている。

 そうなると、警察もそう長くは拘留してくれない。

 一カ月ほど前から、留置所から出て来た父から何度も、スマホに着信履歴があるということは――。



 しゃんと前を向く。

 この道を行き、角を曲がれば家だ。

 本来ならもう関わり合いになりたくないところだけど、もはや自分だけでなく、大事な人たちにまで被 害が及びだしてしまったのだから、やむをえない。

 やっぱり、父に言っておかなくてはならないことがある――。

 自宅に向かって一歩踏み出す。

 拒否反応で、身体は震えるけど。

 ぜったい、負けない。



「負けない……」

 呟きながら歩いている、その肩を。

 後ろから抱き留められた。




「……え……?」


「ほの様」



 低い、クリアな。

 隔たっていたのはたった三週間程度なのにもう、懐かしく感じる。

 耳障り柔らかなその声を、間違えようがない。



「ハーヴェイ……?」



「一人にして、というご命令でしたが。この時期にはどうしてもお一人にできず、来てしまいました。逆らってしまい申し訳ありません……」


 ……もしかして。

 そろそろ父親の拘留が解かれる時期だと察して。

 そしてあたしが実家に行くことも、わかってて。



「執事として主様にこのようなこと。申し上げるべきではないのでしょうが」

「……あ……」


 がしっと、抱き留める腕が強くなる。


 絞り出すような声が耳元で囁かれる。


「行かないで、ください……」



「……え……?」



「あなたのために、などとは言いません。ただ俺のわがままのため。そう思っていただいて結構です」

 その声はあまりに必死で切実で。

 なんだか泣き出しそうにも思える。


「すみません。最近気持ちが、乱れていて……。ほの様がまた、危険な目に遭われたり。そうでなくても辛い思いをするかもしれないと思うと、苦しくて。……狂おしいんです」

「……」

 そっと、首元にかけられた腕に手をあてる。

 こんなにも大事にしてくれる人がいるなんて。

 奇蹟みたいだ。


「ハーヴェイ。ありがとう。でも」



 だからこそ。



「やっぱり、行かせて」


 そっと首だけ振り返り、彼の耳元に口づけると、すぐそばで息が吸い込まれるのが感触でわかる。


「あ、主様……!」

「ごめんね」

 彼が狼狽えた一瞬をついて、走り出した。


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