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「ったく、クズが」

 吐き捨てると、ボイスは梅ちゃんを振り返った。

「怪我はねーか?」

「あ、は、はい……」

「そうか。ほいじゃ、そろそろ帰るか」

「あの。あの。ボイスさん……」



 ふらふらりと立ち上がると、梅ちゃんは頭を下げた。

「……ありがとう。助けてくれて」

「ん? ああ」

 ボイスは相変わらず首筋をかいている。

「あの。また、会ってくれますか……?」

「……」

 そして怪訝そうな顔を彼女に向けた。

「梅ちゃん、俺とまた会いたいのか。ふん。他人事ながら心配になってくるな。あんたほんとうに趣味嗜好だいじょうぶか」

 梅ちゃんは息を吸い、両手でハンドバッグを握りしめる。



「わたしは、ボイスさんだから、また会いたいんです……! 今日すごく楽しかったし、公園までわざわざ出てつきあってくれたのも、婚活のこときっぱり意見してくれたのも……あの人に怒ってくれたのもすごく、嬉しかった。だから……」



「……ま、気が向いたらな」

 そう言ってそっぽを向くが。

 あれ?

 ボイス……ちょっと頬赤くないか?



「やばーっ!」

「これにて一件落着でございますね」



 傍らにやってきたメイナードを、わたしはしげしげと見上げる。

「でもさ、ちょっと気になってることがあって」

「おや」

「ピローンピローンって、さっきのクズ男の婚活アプリの着信音が鳴ったの。あれタイミングよすぎだなって……」

 ふっと微笑んで、メイナードはそろえた指先を胸に当てた。



「ばれてしまいましたか。わたくしでございます」

「やっぱり!」

「あの男性、お連れの女性のお名前を間違えて呼んでいたり、ぞんざいに腕をひっぱったり。

登場したときから、とても恋人を大事にしているようにはお見受けしませんでしたので」

「ふむ。それで?」

「即座に、婚活アプリでほかの女性とコンタクトをとっていてもおかしくないと踏み、すれ違いざまスマホの側面の消音モードを切らせていただいたというわけです。ふふふ、ビンゴでしたね」

「……すごい……」

 メイナード、策略家だ。



 連れ立って駅へと向かう梅ちゃんとボイスを見送りつつ、わたしはメイナードに告げる。

「でも、だいじょうぶ? 復讐とかされないかな」

「そうですね。ほの様も梅様もしばらくは我々のうちだれかを側においていただくのがいいかもしれません」

「いやー、ボイスもメイナードも、顔をばっちり見られてるし」

「そちらは不要なご心配です。ボイスさんもわたくしも、あの程度の輩を返り討ちにできないほどやわではありませんよ」

 にっこりとメイナードは微笑む。



「ですが、そのお気遣いだけで、この心にぱっと華やかな明かりが灯ると言うものです」

「……ごめんね。大変なことにつきあってもらっちゃって」

 申し訳なさはありつつ、今心に満ちるのはほのかな達成感と、ぬくもりだ。

「梅ちゃん幸せそうだったし。よかったよ。ほんとに、ありがとう」



「……ほんとうに、あなたという人は」



「ん?」

 メイナードの微笑に、いつの間にかどこか困ったような色が混じっている。

「与えることしか念頭にないと言わんばかりです。奪うことはぎとること専門の者たちが横行する世の中で――ハーヴェイさんが心配するのも道理ですね」

 いきなりなにを言ってるんだろう。

 とまどっていると、みょうに真剣な顔をしてメイナードは前を向いてしまう。



「先頃。梅様のためにとっさに動いたのは主様。あなたです」

「いやーなんかむかついて黙ってられなくて。でも結局梅ちゃんを助けたのはボイスだし。追い払ったのはメイナードの作戦だし」

「いいえ。主様があそこで動かなければ、あの輩はさらにひどいことを梅様にしていたやもしれないのです。……それに引き換えわたくしは。もっとも効率的な方法を計算するばかりに後れをとりました……。なんとも、反省することしきりです」

「ふむ……」

 ふと、アプリ『癒執事』の設定が頭に浮かぶ。

 メイナードはアプリストーリー内で戦いで戦略も担当する。 

 けっこう頭脳派なんだっけ。



「そんなこと、ないよ。メイナードがあたしの友達のために、今日一日、すっごい考えてくれてたの、伝わってきたし」

 あえて鷹揚に笑って、宣言した。

「ほら、世の中にはいろんな人がいなくちゃ。お互いに補い合って回ってるんだから」

「フフフ。ほの様はほんとうに、素敵な方です」

「お礼に今度、この世界でメイナードが行ってみたいところ、連れてくよ。どこがいい?」

 そう言ってわたしはメイナードに合図し歩き出す――。


~メイナード視点~


 そう、ほの様に言われたとき。

 やめておけ、と脳内で警報が鳴った気がしました。

 なぜかはわかりませんが、これ以上進んだら危険なような、勘が働いたのです。

 それなのに。

 初々しい二人を応援で来た達成感なのか。

 悪を成敗した高揚なのか。



「そうですね……主様は――どこがおすすめですか」


 こんなことは初めてです。

 それを押し切ってしまいました――。


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