⑤
~メイナード視点~
ついでにすぐそこのコンビニで糖分補給できるものも買うというボイスさんに先回りして、深緑薫るかぐわしい公園に戻ったときのことです。
わたくし、メイナードはほの様と二人、公園のベンチの裏で引き続き恋の応援裏方組に徹しておりました。
「にしてもカップルが多いね。なんかちょっと目のやり場に困る……」
「ふふふ。それもまたよきかな。幸せな春気分をおすそ分けいただいた心地というものです」
「メイナード。ポジティブ思考だね……」
ほの様が苦笑されたとき、ふいに不穏な空気を感じて、わたくしは指を口元にあてました。
こう見えて、過去はなかなかハードな環境に身を置いていたこともあり、こういう勘は働くほうなのです。
「りさー。ちょっとこっち来いよ」
「わたしりなだよ?」
「いいじゃん、そんなこと」
「いたっ」
噴水のほうから、歩いてくるカップルはどうも、梅様のほうに向かっています。
「ほの様。少し、様子がおかしいようです」
とくに、男性のほうは、梅様を見ているような。
その視線の中にどことなく――卑しい獣が纏うような空気を感じ取ったのです。
「梅原さん。どうもこんにちは。こんなところでお会いするなんてねぇ」
男性に話しかけられた梅様は警戒するように身をこわばらせ、反射的に傍らのバッグを庇うように手に取りました。
「あなたは……っ」
「何の脈絡もなしに連絡絶たれたときはさすがにちょっと傷つきましたけど。今はおかげさまで、幸せにやってますよ」
そう言って乱暴に傍らの女性を抱き寄せます。
「見たところそっちは一人みたいですね。こう言っちゃなんだけど……婚活アプリでもあんな上からの対応じゃ、男はみんな逃げるんじゃないっすか?」
ふむ。
状況を観測しつつ、思考を素早く巡らせます。
どうやら、以前婚活アプリで知り合った方が梅様にいちゃもんをつけてきている、と考えるのが妥当そうですね。
早急にお帰りいただかなくては。
力づくという手段もありますがそれは避けるべきでしょう。あの手の輩にうっかりスイッチが入ったらわたくしは静止がきかなくなります。ここは騒ぎを最小限に抑えるために、通りすがりの人に扮して、なにか突飛な行動で場を攪乱させるか。
もしくは――。
「ちょっと、やめてもらえますか!」
おっと。どうやら、わたくしの脳内で答えが出る前に、行動を起こしてしまった方がいたようです。
「ほの様……!」
これは、先に主様を止めておくべきでしたね。
「なにがあったかは知りませんけど、男はみんな逃げるとか、あんまり失礼じゃないですか?」
男性はあざけるような笑みでほの様と、そして梅さまを交互に見ます。
「あんだよあんた。……ふーん。そうなんだ。男が寄り付かないんでそっちに走ったってわけか。くくっ、かわいそうな人たちだよね」
「はぁ? ばっかにすんな。今どき同性同士だからって変とか言うやつがだっさくておくれてるんです!」
「ほのさん。論点がずれて……」
「おい」
ひときわ低く通る声がしました。
「人の連れに何してくれてる」
ダークパープルのジャケットに眼帯姿。
人知れず小さく息をつきます。
ボイスさんが戻って来たようです。
ぎろりと本格的に睨みをきかせています。
片目だから、いやだからこそといいますが、相当な迫力です。
「こっわ。なに、こいつあんたの女かよ」
男性はすごんで一歩前に出てみせます。
「違うな。そいつは梅ちゃんだ。誰の女でもねー。どうやらこの世界のクソみたいな男連中には、任せられやしねーみてーだからな」
「ふん。そんなたいそれた女かね?」
男性はさらに言い募ります。
「ちょっと移動しようって誘っただけで、ハンドバック振り回してきやがって。凶暴なじゃじゃ馬にしか見えねーな」
「あ?」
その瞬間、あたりが凍り付いたのをわたくしは悟りました。
長年戦闘をともにしてきたからこそわかるのですがこれは、ふだんやる気のないボイスさんの闘志が一気に張りつめてしまった瞬間、というものです。
「……そういうことかよ。てめぇが梅ちゃんを車に押し込めようとした輩なんだな」
かすかに半歩下がりながらも、男性はまだ吠えていました。
「な。なんだよ、やるってのか?」
「上等だ」
こうなればもう、吐息しかありません。
やれやれと、私は宙を仰ぎました――。




