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 ゴンドラを降りた梅ちゃんはまだ湖の上にいるようにゆらゆら揺れていたので、休憩がてらレストランでお昼を挟んで、アトラクションにいくつか並んだら、あっという間に夕暮れ時になってしまった。

「時間的にあともう一か所くらいかな。梅ちゃん、なんかやり残したことある?」

「あ。えっと……」

 胸に手をあて、梅ちゃんは小さく囁く。

「ほのさん。わたし、どうしても欲しいものがあって……」

「ふぅん。じゃ目的はあそこか」

 ボイスが顎で示した先は、キュートな夢の国女の子キャラクターが描かれた、女性用のショップだった。



「あ。ええっと……」

「とっとと行くぞ。任務終わらして早く酒が飲みてーんだ」

 とか言うとボイスはすたこら歩き出してしまった。

「やれやれ。まったくあいつは……」

 ハーヴェイがため息交じりに言うのが聞こえる。

 ううん、恋の手助けってなかなか難しいな。

 ひとまずわたしらはボイスを追って、そのおしゃれなショップに入ったのだった。



 とはいえ、近頃の夢の国のお土産屋はすごいなと、入ったら入ったで感心してしまった。

 香水やリップなんかもあってデザインが凝っている。

 まぁお値段もそれなりなんだが。

「このベビーピンクのリップ、いいかも……」

 梅ちゃんも心が躍るようで、テスターを手に取っている。

「それいいね。普段使いしやすそう」

「香り付きみたいですよ」

「へぇ」



 女子二人で盛り上がっていると、急にぬっと後ろから人影が現れたのでぎゃっと声を上げそうになった。



「おせっかいかもしれねーが、梅ちゃんにはこっちのがいいと思うぞ」



「ぼ、ボイスさん……」

 ボイスが手に取っていたのは、華やかなパープル系のリップだった。

「そう、ですか……? でも、ちょっと色味が強すぎませんかね」

 一見、そう見えるけど。

「待って。ちょっと梅ちゃんこっち向いて」

 テスターを使ってその小さな唇を彩ってみると――。

「ほんとだ! すごい似合ってる」

 その色味はパッケージほど強烈ではなく、ほどよく華やかかつ上品で、かわいい系の梅ちゃんを大人っぽく引き立てている。

「すごいねボイス。なんでこれがいいってわかったの?」

「ん? 別にどうってことはねー。以前こんな感じの店で働いてたってだけだ」

「……!」



 思わず梅ちゃんと目を見かわす。

 そうだった。

 アプリ『癒執事』おタクのわたしらは知っている。

 ボイスは夫人高級洋品店のコンシェルジュだったという過去がある(公式設定)。

 くぅぅ、ギャップ萌え設定がうまいんだよなぁ、運営は。

 すぐ後でハーヴェイも感心している。



「ボイス。お前も案外やるな……。見直した」

「あ? なんのことだが知らねーが上から目線で言うんじゃねー」

「なっ。俺は素直にほめて……」

「いちいち言い方がむかつくんだよ」



 うん。雲行きが怪しい。

「……くっ」

 ハーヴェイはつかつかとレースがかぶされたレジに歩み寄ったかと思うと、メイド姿のスタッフさんに声をかけた。

「このショーケースにあるもの、すべてもらえるか」

 ……え⁉

 ショーケースの中には凝ったアンティークやらアクセサリーやらが敷き詰められている。




「はぁ? なに言い出してんだお前」

 もっともなつっこみをするボイスを振り返りざま、ハーヴェイがきっと睨んだ。

「主様のためなら俺だってそれくらいは捧げられる」

「ふん。上等じゃねーか」

 ボイスは在庫整理をしていたスーツ姿の男性店員さんを呼び止めた。

「おい、そっちのクローゼットにあるドレスで、梅ちゃんに合ううサイズのもの全部よこしな」

 当然、店員さんはきょとんである。

「え、ええと、お客様……?」

「そう来るなら俺は、この店のもの全部だ」

「ふん。園内の各店の商品かたっぱしから持って来やがれ」

「ちょっと二人とも!」



 あああ、始まってしまった。

 アプリのストーリーモードではお決まりのパターンだ。

 いつも大人なハーヴェイもボイス相手だと超くだらないことでむきになってしまう。

「そんなお金あるわけないじゃん!」

 一喝したつもり、だったが。

「主様、お言葉ですが、主様がいざとなった時用に、それなりにたくわえてあります」

「ふん。男の懐具合の心配なんかするもんじゃねー」

 やばい火に油だった。

 だが――いきがるボイスの肩に、そっと触れた手があった。

「ボイスさん、やめて。あの。わたしがどうしてもほしいものは、ここにはないんです……!」

「あ? ……そうなのか」

「あの、わたし。わたしは……」

 苦しそうに肩を上下させながら、決意したように、梅ちゃんは言った。

「ボイスさんと、写真が撮りたい……です……」


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