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~ハーヴェイ視点~


 ほの様の父親と、二人、子ども園の中で。

 俺、ハーヴェイはやみくもに交わされる拳をただひたすら、交わす戦法を選んだ。

 部屋全体を、なるべく大移動させるようよけ続け、相手の息がきれるタイミングを見計らって飛び掛かり、その首元の横に手刀をかざす。

「お前がしたことは許されないが」

思った以上に、戦術も基礎もなにもない、力任せの攻撃だった。

このまま順当にしとめられればいいが――。

「今すぐここから手を引き、大人しく身柄を引き渡すのなら、これ以上の攻撃はしないが、どうする」

 腐っても、彼が主様の身内だということが、どうにか俺の平静を保っていた。

「ふっざけんじゃねーぞ」

 男は息は切れているが、まだ威勢はいい。

「あの娘が。今まで誰も掴めなかったと思ったら、ろくでもない男装備しやがって」

 警戒せずに手刀で一撃すると、うめいたあと、男はまた吠えた。

「ふん。好きにほざきやがれ。あいつはな、結局は俺のいうことには逆らわねーんだよ。当然だろ。この手で育ててやったんだ」

 どうにも素直に言う事をききそうにないので、これ以上面倒を起こされる前にいっそ、気絶させようかとも思った。

 ——が、次の瞬間だった。

 ぎらついた瞳と共に男が発した言葉を、どうしても聞き流せなかった。

「……あの娘に、強制的に稼がせるための手筈だってな、こっちはもう整えてんだ……!」

「……どういうことだ」

「んなこともわかんねーのかよ」

 背中への拳を、ためらってしまった。

「小説で食べていくだかなんだかしらねーが、んなもんどーせなんの役にも立たねーんだ。もっと手っ取り早く稼がせるに決まってんだろーが。女だったらあんなできそこないでもすぐ金を生む方法があんだろ」

 ぷつんと、自分の中の何かが切れるような音を聞いた。

「お前……!」

 脳裏に、あの方の笑顔が浮かんでくる。


『よくがんばってきたね。——もう、いいんだよ』


『ハーヴェイが大変なのは、それだけ正しいからだよ。まっとうな人ほど、苦しいの。こっちの世界も、向こうの世界もそう』


『だいじょうぶ。だいじょうぶ――』



 主様は、ほの様はずっと、こんな人間のために苦しんで。

 それでも、ただひたすらひたむきで。

 同じように苦しんでいる人の力になりたいと、物語と紡ぎ続けて。

 なのにこの父親は。

 尊いあの方を、ただ金を生む駒だとしか見ていない。

 それどころか――。



「前言撤回だ。クズめ。死を覚悟しろ」


 大きく身を振り上げ男に殴りかかる。

 立ち上がった男も遮二無二拳を繰り出してくる。

 それを受け止めては、着実に、ダメージを与えていく。

 背中にひとつきをあたえ、もはや戦闘不能すれすれになった主様の父親が這うようにして近づいて行ったのは――古いガス性のヒーターだった。

 灯油を取り出し、頭の上に掲げ、笑う。



「バカが。死ぬのは……てめえのほうなんだよ‼」


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