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 小熊ほの住むアパート内は今無人である。

 机に無左座に転がっているスマホから声が聞こえる。



「ハーヴェイさん、そちらにいらっしゃいますか? 聞こえたら返答願います!」

 しばらくして二色の光がさし、二つの人影が現れた。

「一足、遅かったようですね……」

 そのうちの一人、オレンジ色の髪にヘテクロミアの瞳の執事は、瞳を曇らせる。

「ハーヴェイの奴がここにいないからどうしたってんだ、メイナード。また買い物にでも行ったんだろ」

 眼帯に黒髪を束ねた執事がそう応じるが、

「いいえ、ボイスさん。これはゆゆしき事態ですよ」

 メイナードと呼ばれた執事は神妙な表情で言う。




「先ほど、屋敷の地下を確認したら――悪魔の卵たちを閉じ込めておく、あの紋章を入れた箱が空になっていたのです」



 それを聞いた途端、ボイスと呼ばれた執事の顔色が変わった。

「なんだって? ちっ。ハーヴェイのやつめ」

「おそらく、こちらの世界で行使するつもりでしょうね……」

「くそ。手間取らせやがって」

 部屋の戸口に向けて駆け出す彼に、メイナードが呼びかける。



「ボイスさん、どこへ」

「手あたり次第探して止めるっきゃねえだろ! でなきゃあいつは」

 そこへ玄関のチャイムが鳴った。

 インターホンから、ハイトーンの女性の声が響く。

『ほのさん? ほのさ~ん。おかしいな。この時間であってるはずなのに……』

「はん。なんか知らんが渡りに船だ」

 ボイスは勢いよく戸を開け放つと、マロンブラウンの髪にパステルカラーのワンピースを着た女性が、玄関先でひっと息を飲んだ。




「おう。あんた主の友達か?」

「え? え……? あ、あなたは……」

 青ざめていた女性の顔色だったが、徐々に赤味の方が強くなっていく。

 とうとう彼女はネイルのついた手で口元を覆った。

「嘘……推しそっくり……」

「あ? 悪いが時間がないんでな。ほのの友達なのかどうなんだ?」

「は、はい……。ほのさんのオタ活友達の、その、梅ちゃん、です……」

「そうか」

 ボイスはあごで室内をしゃくる。

「ならちっとばかしここで、留守番頼めるか」

「えっ、いい、ですけど……」

「緊急事態なんでな。すまねぇ。——おい」

 ボイスがメイナードに合図すると、

「ご挨拶もせずに申し訳ありません。ご婦人。留守は任せました」

 二人は連れだって外へ繰り出す――。

「あの、ほのさんになにか……? だいじょうぶなんでしょうか」

 心から心配そうに眉を顰める彼女に振り返り、ボイスは言った。

「まぁ、ねえっつったら嘘になるな。だが俺らの主だ。ぜったいどうにかすっからよ」

 コワモテのまま、ボイスは親指を立てる。

「安心して待っててくれや。梅ちゃん」

 言葉と同時にがたりと扉が閉まる。

「……っ」

 後に残されたのは、ぎゅっとワンピースの胸の部分を握り、かすかに頬を上気させた梅ちゃんだった。


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