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「ただのごろつきなら見逃してやってもいいが、お前らはこの方に汚い口をきいたばかりではく、危害を加えた。逃げられると思うなよ」

 そう言って、切れ長の目を細める――それは信じられないくらい整った顔。

 はっと、思い至る。

 きっと通りすがりの親切な、ちょっと変わった服装の趣味の方が助けてくれたのだ。

 世の中、捨てたもんじゃない。



「ふっざけんなよ。邪魔すんなボケ」

「ブス女庇って楽しいかよ?」

 ブス女でもなんでもいいからとにかくこの場からさよならさせてもらいたい、と思ったが。

「……なんだと」



 どうしてなのか、燕尾服のイケメン親切さんのスイッチが入ってしまったようだ。

 その、気の強そうな言い方にデジャブを覚えるような――。

 だが、そのセリフをどこで聞いたのか、思い出すまで考えているひまはなかった。

 力任せに襲ってくる一人に蹴りとパンチまで加え、その隙に逃げようとしたもう一人を、なぜだか近くに転がっていた白い巨大な棒を軽々と掲げて頭を打ってしまった。

 その速度、一瞬。

 なんて鮮やかな手並み。

 と、ひとしきり感心した直後、転がってぴくりとも動かない二人を見て、これはこれでやばく思えてくる。



「あの……ありがとうございます。でも――大丈夫ですかね?」

 倒れた二人を示すと、イケメンさんは胸に右手をあててひざまづいた。

「ご安心を。急所は外してあります」

「はぁ……」



 直後、イケメンさんは優し気な微笑みを消し、伸びている二人に呼びかけた。

「お前ら、死にたくなかったら訂正しろ。この方はブスなどではない」

 いい感じに低い声が、真冬の澄んだ空気によく響くこと。

 うん、顔もいいけど、声もいいな。

 とか、思ってる場合じゃないか。

「あ、あの」

 わたしはおずおずと、イケメンさんに話しかけた。

「えっと、お気遣いはどうも。でも、あんまり刺激しないほうが……」

 案の定、二人組は今ので目を覚ましてしまった。

 が。

「なんなんだよ、こいつ」

「あんなでかい棒振り回しやがって。化け物か……?」

 分が悪いと判断したのか、逃げていってくれたので心からほっとする。




 残されたイケメンさんは彼らを追うでもなく、こちらの方に実に気遣わし気な眼差しを寄越してきた。

「お怪我はありませんか」

「はぁ、まぁ。わたしのほうは、おかげさまで。それより、あの、お兄さんは大丈夫ですか?」

 彼はふっと涼し気に微笑むと、深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。あの程度の輩に後れをとるなど、完全に俺の失態です」

 極めて自然にそう告げると、

「遅くなりましたがお迎えに上がりました。帰りましょう。お荷物をお持ちします」

 極めて自然に転がっていたスーパーの袋を軽々持ち上げる。

 ……ん?


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