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 というわけで、三十分くらい街中でウィンドーショッピングしてから指定のお店に入ると、ハーヴェイたち三人が飲んでいた。

 すっかりいい感じの空気だ。

 出て行こうとしたら、メイナードが目で合図してくる。

 ん? もう少し待てってことかな?

 ちょっと様子を見てみるか……。



「いやはやそれにしても、ほの様は素晴らしい主様でございますね」

 盛り上げ役に徹するメイナード。

「……。ああ、そうだな」

 その横でハーヴェイは、相槌を打っている。

「お仕事も頑張られて、そのうえあのように歌声もお美しいとは! いかがでしょうみなさん。このあとカラオケにまた参上するというのは」

「俺はパスするぜ。飲んでるほうがいい」

 ボイスがすげなく断る。

「おやそうですか。ではハーヴェイさんはいかがでしょう」

「……俺も、遠慮させてもらおうかと思う」

 ハーヴェイは何故か、シリアスな表情だ。




「あの声を聴いていると……なんというか。妙な気持ちになる。美しい声に違いはないんだが。その、身体の内側からぞくっとするような」

「はん」

 ボイスがイケボ低声で言う。

 ニヒルに、口の端を上げて。

「色気があるって素直に言ったらどうだ。めんどくせー奴だな」

 ずっきゅん。

 ボイスファンの梅ちゃんの気持ちが今わかった……!

 なんだこの愚直な口調なのにときめかせる殺し文句。

「なっ。ボイス、俺はそういうつもりでは……」

 ハーヴェイも赤くなってる。

 くっ、かわいいやつめ……。



「主様と執事の関係でそんな、ことを……」

「んっとに手間のかかる野郎だな。てめーの色恋なんざてめーでどうにかしろってんだ」

「言われなくてもそうする。誰も頼んでないだろ」

 わわわ、やばい。

 そういえばハーヴェイとボイスは執事の中では同期で、けんか仲間だったっけ。

 言い争いを始めるとお互いムキになってしまう……。

 おろおろしていたら、メイナードが目で合図してきた。

 今ってことか。

 よし。緊張するけど、作戦通り、行くぞ!




「あらみなさん、お揃いなのね。遅れてごめんなさ~い」

 最初からハイテンション、強めのキャラ、大事。

「あ、主様……なんだか、いつもと様子が……」

 これも打ち合わせたとおり、戸惑うハーヴェイの横に座る。

「さあさ我らの主様、ぐいっといってください!」

 メイナードが並々と継いだノンアルをごくごく飲む。

「あ、主様。たしかお酒はあまり得意ではないと……。そんなスピードで。無茶です。おやめください」

「っぷはー」

 よし、ここからだ。

 エンタメ小説家にかかればこれくらいお安いものだ。

 ようはキャバ嬢キャラでいけばいいんだろう。

 そそっと、メイナードにすりよる。

「ねぇメイナード。カラオケでのあなたの声すてきだったわ~ぁ」




「芸術に秀でた男の人ってすてきよね~ぇ」

「ふふふ。おほめにあずかり光栄でございます」

「あ、主様。メイナードと少し距離が近すぎです」

「けっ。茶番のはじまりか」

「茶番……?」

「あら~。武骨でつれない殿方もすてき」

 ボイスのたくましい肩にもたれかかれば、

「主様……」

 ハーヴェイが狙い通りの切なそうな顔をしてくれる。

 なんだかだんだんほんとうに酔っているような心地になってきた。

 キャラ設定だとわかっていてもキュンとくるぜちくしょう。

「でも……真面目でストイックな人が、やっぱり好み」

 とんっとハーヴェイの肩を叩く。

 それだけでふらりとよろけたところを見ると、相当飲まされたらしい。

 その隙を逃さず、真上から迫る。




「ねぇ、ハーヴェイ……」

「主、様……?」

「あたしのこと、どう思う?」

「そ、それは……」

「さっきの言葉がほんとうなら」

 彼の胸に手を当て、身体を寄せる。

「証拠を見せて。今ここで」

「いいぞほの。もっと言ってやれ」




 ボイスがいい感じにはやし立ててくれる。

 顔を赤らめ目をぱちくりさせるハーヴェイに、囁く。

「亡くなったご家族への花束もいいけど。あたしだってほしい。ハーヴェイから、花束……」

 あ。まずい。

 飲んでないはずなのに、くらりと眩暈がして――。

 そのまま倒れ込んだ。

「主様! だいじょうぶですか⁉」

「うーん、ハーヴェイ、証拠を……見せて……」

「それは……」

 この腕を支える彼の腕を感じながら、急激に、眠くなってくる……。

「なんと! このメイナード痛恨のミス! 主様に飲ませたのは、アルコール度数の強いカクテルでございました!」

 メイナードがなんか言っているが、聞こえない。

 ただ目の前で囁く声だけ。




「今はこれで、お許しいただけますか」




 額に柔い感触を感じたのを最後に、わたしは目を閉じた。


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