②
「ふぅむ、思いのほか時間が経ってしまいました。主様、コップが空になっていますね。ドリンクをとってまいりますゆえ、しばしお待ちを」
「ありがとう……」
メイナードに空のプラスチックのグラスをわたし、カラオケルームの天井を見上げる。
……ふう。ソフトドリンクしか飲んでないとはいえ、雰囲気に酔ってしまった。
時計を見ると、もう十九時前だ。二時間近く歌ってたんだな。
「そろそろ帰らなきゃね。ハーヴェイ、一曲も歌ってなかったけどいいの? もったいないよ」
さきほどから直立で座っている彼に水を向けると、
「いえ……そのなんというか。圧倒されてしまって、それどころでは……」
なんだか余裕なさそうな声が返ってきた。
「あ。もしかして、こういうところ苦手だった?」
うむ、公式設定に『カラオケが苦手』はないが、そりゃ当たり前か。中世ヨーロッパふうのハーヴェイたちの世界にカラオケはないだろう。
「ごめん、気づかなくて。無理させちゃったね」
「いえ、決してそういうことではなく……その」
きわめて言いづらそうに指の甲を顎に当て、ハーヴェイはうつむいた。
「……主様の声は、ふしぎですね。とても耳に心地よいのですが、なんというか。普段のお声とは違って、心がぞくっとするようななにかがあります」
「……ん?」
……ふふん。そうか。
顔はともかく声だけはいいって、昔から言われてきたからな。
セクシーボイスもいける。
ちょっとふざけてみるか。
そっと、ハーヴェイの手に、手を重ねてみる。
「あ、主様……?」
「いつでも甘えていいのよ……坊や」
「……からかわないでください……」
赤くなっちゃうところが、かわいいなこいつ。
「それに、メイナード……。あいつの芸事の実力も相当で。引けをとらない主様もすばらしかったですが……」
ふふふ、もっと褒めろ。
「ですが……その」
称えよ……ふっふっふ。
「メイナードと楽しそうにされているところを見ると。なぜか、モヤモヤして……」
ふっふっ、っふ……?
「よく、わからないのですが……。心がざわつくんです」
あ……。
ずっきゅんと脳内で音がした気がする。
――はい、嫉妬される台詞大好物ですけどなにか?
「主様のお世話は……ほかの誰にも、任せたくありません……」




