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 広間の片隅に設けられた簡易テーブルに、ずらりと並ぶイケメン執事たちの商品。

最後のミッション・グッズ購入。

 ハーヴェイはまた調査とやらをしたいらしくどっかへ行ってしまった。

 まぁいい。

 ここは存分に、推しグッズを集めよう。

 それにしても、さすが人気アプリのイベント。混雑してる。

 気になるのは、明らかにみんなを押しのけて大量にグッズを手にしてる人が二人、いることだ。

 よく見たらあれ、イベント中も音を立ててた男性二人組じゃないか。

 うーんなんか、複雑な心境だな。

 などと思っていると、男性の一人が勢いよく掲げた腕に、どんっと、一人の女の子があったってしまった。



「きゃっ……」

 倒れたのを慌てて支える。

 ホワイトピンクのショルダーバッグを見て、気が付く。

 さっきのボイス推しの女子だ!

「大丈夫ですか?」

「あ、さっきの……。ありがとう。えへへ。二度も助けられちゃいました……」

 と、女子は笑っているけど……。

「あの!」

 どうにも我慢できず、わたしは腕を掲げた男性に声を上げた。



「この人、怪我しそうになったんですが」

 思った以上の大声が出た。

「ああ? んだようっせーな」

 振り返った男性は思った以上に柄が悪い。

 仲間も剣呑な表情で言ってくる。 

「二次元の男にしか相手にされないおタク女子どもが。ひっこんでろ」

「な……っ」

 なんだって……!



 震えるボイス推し女子をとっさに後ろに庇う。

 なにか言い返したい。

 他の女性たちも彼らに迷惑そうな視線を向けるが、屈強な男たちを前にみなうつむいてしまっている。

 もしも暴れられたりしたら被害者がでるかもしれないし……。

 ここはひっこんで、後で事務局に報告するくらいしか。

 ぐっとわたしは、人知れず感情をのみ込んだ。




「世の中に害をなしているのはどちらか、よく考えてみるんだな」

 はっと顔を上げる。

 この声……!

「はぁ? なんだてめぇ」

「んな恰好して。てめえもだっせーおタクかよ」

「やるかこら?」

 執事服を着たハーヴェイは、襲ってくる二人を躱して蹴りを二つ。

 それだけであっという間に迷惑な二人組をのしてしまった。

 なぜかその拍子に、彼らの荷物もはぎとっている。



「悪いが少し調べさせてもらうぞ」

「おい、ふざけんなよ!」

「やめろ! お前っ」 

 ハーヴェイはかまわず、荷物の中にあったスマホを操作しだした。

「……やはりな」

 その画面を、掲げてみせる。

「!」

 それを見てわたしは――いな、周りのみんなは息を呑んだ。



 物品を売買できるアプリのページが表示されたそこには、大量の『癒執事』の商品や舞台チケットを売った記録がある。

 グッズの転売は禁止されてるのに……!

「このことは、『運営さん』とやらに報告させてもらう。覚悟しておけ」

「ちっ」

「ったく……なんでばれたんだよ」



 毒づく二人組に、ハーヴェイは続ける。

「少し観察すればわかることだ。ここに来る人たちを小ばかにする言動を繰り返しながら、この会場特有の販売物のその購入量。少し不自然じゃないか?」

 スマホを掲げた手をひらりと器用に翻し、決めの一言。

「頭も力も、もう少し違った方向に使うんだな」

 そうこうしているうちに迷惑二人組は、騒ぎをききつけた係の人に連れられていった。

 なんというか、鮮やかとしか言いようがない。



「すごいよ、ハーヴェイ! お手柄だね!」

「いえ、このくらい」

 そう言って彼は微笑み、胸に手をあてる。

「怪しく思って調べたかいがありました。主様のご無事を守れたのなら、なによりです」

「怪しいって、あの二人組のことだったんだ」

「はい。念入りにはって、指の動きでスマホの暗証番号を割り出しました」

 な、なんと。

 さすが、戦略に長けた執事たちのリーダーと言うべきか……。

「主様と推し活されるみなさんの喜びを、俺は守りたいですから」

 ううっ、笑顔がまぶしいぞ……!

 えらいえらいと興奮していると、なにやらまばゆい感じの視線を感じる。



「なにあの人、かっこいい……!」

「コスプレだけじゃなく、よく見たら顔もキャラ完コピじゃない? やば推せる……!」

 なんか他の女性のハートもがっちりつかんじゃってるけど……。



 そんなふうに言っていると、ハーヴェイが口元に指を押し当てて、囁いてきた。

「どなたかのハートをつかんだのは、主様のようですよ」

「え?」

 見ると、先ほどのボイス推しお洒落女子がもじもじと手をこすりあわせて話しかけて来た。

「あの……。さっき、つきとばされたとき、意見してくれてありがとう」

「あ、いえいえ。当然のことをしたまでです」



 なんて。ちょっとハーヴェイみたいにイケボで言えたかな?

 当然だなんて……と女子は顔を赤らめはにかむ。

「あの……よ、よかったら連絡先とか、交換しませんか?」

 ん?

「その、『癒執事』について、語りたいし……。オタ活友達、欲しくて……」

 恥ずかしそうに言う姿にきゅんときた。

「そういうことなら、もちろんです。アプリのID出せますか?」

「えっ。ほんとですか? いいんですか……?」



 ぱぁぁっと輝くように微笑んだ、その子は梅原美玖(うめはらみく)さんというらしい。年齢は一つ下で、呼んでほしいあだ名は梅ちゃんだそうだ。

「わたしは小熊です。小熊ほの。よろしくです」

「ほのさん……! よろしくお願いします! 推し友、初めてできちゃった。ラッキー!」

 スマホを掲げて喜ぶ。茶目っ気のある人だな。

 お互い近辺の住民ということも知り、近いうちにお茶をという約束をして手を振って別れた。



「思わぬ大収穫でしたね」

「うん……そうかも」

 手元には、どうにかゲットした推し執事アクリルスタンドがあるとはいえ。

 推し作品をともに語れる仲間なんて、願ってもなかった……!

「それから……主様」

 わたしの手元に視線を落として、ふいにハーヴェイが言う。

「ん?」

 複雑そうにそっぽを向いて、頬を染めて。



「その……他の執事のグッズは、あまり……買わないでくださいね……」


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