③
ついに。
ついに来たよ握手会。
わたしは今、舞台上に続く長蛇の三列のうち、左の花谷さんの列に並んで、どきどきわくわく状態である。
列は順調に進み、やばい、前に残すはあと3名……!
「主様」
「うわっ。は、ハーヴェイ……」
こういう心境のとき急に声をかけないでほしい。
ハーヴェイは難しい顔をしてたたずんでいる。
調査とやらは終わったんだろうか。
「やはりここ、怪しいです。グッズ売り場と書かれた場所で……身体を縮められた執事たちがケースの中に閉じ込められていて。悪魔たちの仕業かと……」
「あ、ああ~」
「くっ。……あいつらもきっと懸命に戦ったんだろうに。リーダーの俺がついていさえすれば」
「うーんそれは、フィギュアって言ってね……」
「かわいいね、その髪飾り」
「もうハーヴェイはまた、そういうのいきなりやめてよ」
「主様。俺はなにも言っていませんが」
「……ん?」
ハーヴェイと同じ声が、話しかけて……。
わぁぁぁぁ。
気が付いたら目の前に、柔らかさわやか茶髪のイケメン、花谷さんが微笑みながら、わたしの前髪に留めた青い花のピンを指示していた。
順番来てたぁぁぁ。
「は、はい! ハーヴェイのイメージカラーの濃紺で……!」
推しの声優さんだ……! 感激過ぎる。
「おいお前。主様になれなれしい口をきくな」
ぎょっとする。
ハーヴェイが鋭い目つきで、花谷さんにくってかかっている。
「ちょっと、このお方は我々がおいそれと話しかけていい方じゃないから!」
「わぁ、すごい完成度のコスチューム。ハーヴェイそのものだね。嬉しいな」
だが花谷さんは一向に気を悪くしたふうもなく、目を細めてハーヴェイに応対してくださっている。
「なっ、オレと声が全く同じ……⁉ まさか主様をかく乱させようと。さてはお前、悪魔の首領だな。なにか特殊な術でも使ったのか!」
「うーんきみ、ほんとにハーヴェイにそっくりだね! 声まで似せてくれるなんて。これからも『癒執事』をよろしくね」
「オレのほうが術を使っただと? 曲者! やはり悪魔族の一人か……!」
「ハーヴェイ、だから違うってば」
「悪魔族の設定まで知ってくださっているんだね。すごいなぁ」
「あの、この人のことは気にしないでください」
無理やりハーヴェイを押しのけ、ドキドキしながら花谷さんの差し出された手を握る。
「ずっと声に癒されてました! ありがとうございました!」
言えた……!
「それはよかった。これからもよろしくね」
「あ、主様。なぜそんな怪しい男と……!」
ハーヴェイは複雑そうに顔を顰めているが、こういうちょっとあれなファンも中にはいるのか、花谷さんは戸惑いすらせず通常対応してくださった。
ああ、なんとお礼を。
他作品も推し続けます。声優様。
わたしはこれにて、大大満足なはず、だった。




