第2章 執事と主様、オタ活に行く①
「ぶーーぐがーー」
朝日を反射してオレンジの光が、揺れる。
「主様。朝です。起きてください」
「ぐほっ?」
飛び起きた拍子にキャンドルナイトが大きく波打った。
目の前にはすっかり馴染んだイケメンが微笑んでいる。
ミッドナイトブルーの燕尾服にピュアブラックのネクタイ。
襟の折り返しには、モーヴシルバーの蔦模様。
久々に見た、通常キャラ装備。
……やばい、間違いなくいびきかいてた。
しかも口からよだれ。最悪だ。
「おはようございます。主様。朝の支度をお手伝いします」
「いや、その。いいから。ちょっと向こう向いてて……」
「なぜですか? 主様は今日もほんとうに素敵です」
「う……」
そう言って優し気に見つめてくる紺の瞳には、一点の曇りもない。
「あ、あのさぁ……」
とりあえず頭を手櫛で整えながら言う。
たしかに、癒しアプリのキャラクター的には正解なんだろうけど。
「素敵とか美しいとか、気持ちは嬉しいんだけど。こっちの世界では時と場合によっては嫌味になるから、気をつけたほうがいいかも……」
「なっ、嫌味? そんなはずは……」
驚いたように紺の瞳が見開かれる。
「俺は本心から、主様のことをそう思っていますよ」
うんまぁ、あんたはアプリのキャラだからそうなんだろうが。
「いつも凛としてお仕事に望む姿は美しいですが。……そうですね、さっきまでの姿はこう、胸がきゅっと苦しくなるというか。ふにゃっと緩んだ目元とぽかんとした口元が……その、かわいい、です」
「……っ」
反射的に両耳を塞いで、ベッドに突っ伏す。
うわぁぁぁ、やめろー!
その絶妙な間と声音やめろーー!
余計自分がみじめで死にたくなるーー‼
「って、なにを言っているんだ俺は……。すみません。今日はこちらに来て初めて主様と本格的なお出かけなので。きっと気分が高揚しているんですね」
「んあ……?」
お出かけに思考が移ったことで、どうにかこうにか平静を取り戻し、ベッドから生還する。
そういえばそうだった!
今日は大事な、遠征日……。
スマホで時間を確認すると、もう出発の三十分前じゃないか。やばい。
ハーヴェイがもう着替えて荷物も完璧なのも道理だ。
「すみません。もう少し早く起こそうかと思ったのですが。主様の寝顔が、あまりに可愛らしくて……」
視線を逸らして、かすかに頬を赤らめ……。
う~ん。
このキャラ、なんとかならないかな。
そりゃ、アプリでそういう感じのイベント起きるたび「きゃー」とか一人でテンションだだあがってたけどさ。
「癒し」「励まし」「ドキドキ」の中で「ドキドキ」モードの台詞何回もリピートしてたのは自分だけどさ。
実際にいる人間に言われるとどうも、勝手が違って戸惑う。
などと考えながら、着替えと申し訳程度の化粧と、簡単な朝食を済ませた。
「……とにかく、いこっか」
「はい」
部屋の鍵を鞄に入れていると、すっとそろえた長い指が差し出された。
「お手をどうぞ、ほの様」




