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其処に草が生えている 緑之章—踏み潰す—  作者: 宮林 實
第三章『出会いは縁』
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第三章『出会いは縁』(6)

 均は呟く。

「――優香は、自然の使者だったんだ」


 それなら全て合点がいくのだ。

 だから優香の数珠を持っていた均を、雪は協力しろと聴こえたのだ。


 このタイミングで出会ったあの男は、優香と何か関係があるのではないだろうか。

 あの男は優香の事を知っているのではないだろうか。少なくとも、この数珠と関係はある筈だ。


「……優香? その人が何か関係があるの?」

 雪は首をかしげ不思議そうに問い掛ける。


「これは優香って同級生から預かった数珠なんだ」

 数珠を触る。

 雪に数珠を手に入れた顛末を話した。


 話を聞いた雪は、驚いているのか怒っているのかよく判らない表情を浮かべていた。

「それって一体どういう状況なの? この数珠に何かあるって事は明白でしょ。貴方に押し付けたんじゃないの? 貴方は縁が効かないから」


「違う。優香がそんなことするわけがない」

「なんで言い切れるの? 逃げたとは思わないの? 耳を塞ぐ使者もいるんだよ」

「思わない」


 逃げた筈はない。最後に見せたあの悲しみに満ちた顔を思い出すたび胸が締め付けられるのだ。

 数珠を預けたのも、この数珠を守るためだと均は信じて疑わなかった。きっと数珠を守るために必要な事をしに東京へ行ったのだ。


 手紙がその証拠だ。『もう東京には来ないで』という言葉と『絶対に持っていてほしい』という言葉が使われていた。『きっと後悔する』というのも、この事だったのだ。均を巻き込むという意味だ。


 このタイミングで聴こえたあの男が優香と関係があり、雪に会えたことにも意味があるのだ。 

 状況がわかってくれば、きっと優香に会える。

 優香に会いたい。


「もしかしたら、あの男は優香の行方を知っているのかもしれない。優香が見ていた世界を俺は知らなきゃいけないんだ」


 そうしなければ、本当の意味で胸を張って東京にいることができない気がした。


「優香が時折見せた表情を君がしたんだ。ずっと聞きたくても聞けなかった」

 均はまっすぐ雪を見た。


「だから、君のことが知りたい。君は何を見ていて、何を想っているんだ?」


 初対面で恐ろしいことを言っているという自覚はあった。

 でも後悔したくない。もう均は後悔なんてしたくないのだ。


 ――此処はもうあの田舎町ではないのだ。

 案の定、雪は固まっていた。困惑しているのだろう。でも均の本心だった。


 均から目をそらすと、

「……携帯番号とアドレス教えて。また連絡するから」

 と言って、髪の毛で顔を隠すように下を向いた。


「わかった」

 均はそう言って鞄から携帯を取り出す。雪も鞄から携帯を出した。雪の携帯には数枚のプリクラが貼られていた。そこには雪を含めて四人の制服を着た学生が映っていた。


 視線に気づいた雪は言った。

「これ? これは友達と最近撮ったやつだよ」

「最近?」

「うん」

 「二週間くらい前だったかな?」とプリクラを見ながら雪は言う。


「……今何歳なの?」

「十六歳だよ。今高二だし」

「え! 大学生じゃないの?」


 均は驚きを隠せなかった。どう見ても、今の格好は高校生に見えなかった。普通に大学生で同級生か一、二歳年上くらいだと思っていた。


 均の通っていた高校はこんな垢抜けていて、大人びた女子は少なかった。やはり都会に住んでいる子は違うのか、と内心で感嘆をもらす。


 それと同時に自分の携帯画面に目をやると、夜十一時を少し回っていた。

「家とか大丈夫なの? 高校生の女子が一人でこんな時間まで外うろついてたらまずいんじゃ……」


「大丈夫だよ。親は心配しない」

 均の顔をちらりと見て、雪は言う。


「これも縁の力でどうにかなる。使者っていうのは、人の縁や気持ちを左右させてしまう。だから辻褄が合わないことでも、使者に都合が悪い時は、違和感のあまりない範囲で合わせることができる。というか、いつの間にかそうなってる事も多い。違和感があっても、使者の私が都合の良いように他人の思考を無意識の中で削除させる。だから私が遅くに帰宅しても親は何も言わない。笑顔でおかえりって言ってくれるか、帰ってきた時には寝てるよ。だから親と仲が悪いとかじゃないからそんな顔しないで」


 それはある意味では仲が悪いことよりもつらいのではないのか、と思った。でも雪が至極普通に言うものだから、均は何も言えなかった。


 電話番号とアドレスを交換した。

「また連絡する。あの男が世界の異物なら、きっとまた接触するはずだから。私の力がそうさせる」

「わかった」


「今日はもう帰るね」

 雪がそう言ったのを皮切りに、解散する事にした。二人はそのままファミレスを後にした。駅に向かいながら均は言う。


「何線で帰るんだ? 家の近くまで送ってくよ」

「……え」

「そんな話聞かせられたって、こんな遅い時間に高校生の女子を一人で帰せるわけないだろ」

 雪は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「……女子……一人……」

 雪は均が聞き取れないくらい小さな声で呟いた。


 そして雪はこちらを見て早口で言った。

「終電近いしわざわざ送らなくていいから。それと、これから私のこと、雪って呼んでいいから。――じゃあね、均!」

 そう言って、雪は走っていった。


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