七話 星を受け止めた二人の手
/* 太古より定められし世界の理――純なる心がこの地を満たすとき、星々はその秘めたる光を解き放ち、川と海はその澄み渡る姿を取り戻し、すべての命は豊かに芽吹くでしょう。 */
あの激しい雨と雷を乗り越え、互いの気持ちを確かめ合ったスイとフウ。
そっと夕日が沈む空を見上げると、まるでふたりを祝福するかのように、一筋の光がほのかに瞬いていました。その輝きは、これまでとは違う希望の兆しにも見えます。
「スイ、見て! あそこに星が……!」
フウが指さす方を見ると、確かにまだ薄明の空に、小さくきらりと光る星が見えます。
夕暮れの空に星が出るなんて、めずらしい光景でした。スイはその星を見つめながら、胸がドキドキするのを感じます。
「これが、星の精霊様が言っていた“心をひとつにすれば降りてくる星”……?」
すると、星がすうっと動きはじめました。信じられないほど静かな光のすじが、昼と夜が混ざり合った空から、夜のとばりに向かって一直線です。
スイとフウは、その動く星をめがけて、思わず両手を伸ばしました。すると、その星は進む方向を変えて、導かれるようにまっすぐに、二人に向かってきます。
「あ……! ほら、フウ、星がこっちに来る……!」
流れ星のようにきらめきながら、その星は二人の前へ降り立つと、自然とスイとフウはお互いの手を重ねる様にして、星を受け止めます。
手に収まった星は、まるで手の中で鼓動しているかのような、小さな結晶のように見えます。
星の精霊に言われたとおり、互いの心を信じ合ったからこそ、この星が姿を現してくれたのかもしれません。
「フウ、見て!流れ星を捕まえちゃった!」
「う、うん。本当に捕まっちゃったね。これが星の精霊様が言ってた事なんだね」
「だったらあとは泉に投げ込めばいいんだね!」
スイは興奮ぎみに叫ぶと、フウも笑顔でうなずきます。
二人は、星を抱きしめるようにして村へと向かいました。ここまでくれば村まではもうすぐです。
夕闇が深まるころ、ようやく二人は村に戻ってきました。
そこには、心配そうに待っていた村人たちの姿があります。スイとフウの姿を見つけると、みんな一斉に駆け寄ってきました。
「スイ、フウ!だいじょうぶかい?怪我はしていないかい?」
口々に問いかける村人たちに、スイは手のひらの光をそっと見せました。驚いた声があちらこちらから上がります。星が形となって人の手の中にあるなんて、誰も想像していなかったからです。
フウは静かに言いました。
「この流れ星は、村の泉を救うために、ぼくたちのもとに降りてきてくれたんだ。さっそく、泉に入れてみよう!」
二人は星を抱いて、泉へと向かいます。
濁った水面は、相変わらず底が見えないほど暗く、不安を誘う色をしています。でも、スイは恐れず、そっと星を水面に沈めました。
すると――。
眩い光と共に、水の流れが一瞬で変わりました。濁りきっていたはずの泉の水が、見る見るうちに澄んでいきます。光のような波紋が泉全体に広がり、やがて泉の奥底までくっきり見えるようになりました。
まばゆいほどの透明感に、村人たちからは歓声が上がります。
「ああ、こんなにきれいな泉、いつぶりだろう……!」
「星に願いが届いたんだ……本当にありがとう、スイ、フウ……!」
村人たちは喜びのあまり、スイとフウを取り囲み、口々にお礼を言いました。
体調が悪かった人々も、透きとおった泉の水を飲むと、顔色が少しずつ良くなっていきます。
枯れかけていた畑の作物にも、水をかけると元気を取り戻しました。これこそ、星がもたらしてくれた奇跡なのでしょう。
スイはうれしさで胸がいっぱいになりながら、ふと夜空を見上げます。すると、今までほとんど見えなくなっていた流れ星が、一筋、また一筋と尾をひいて走り始めるではありませんか。
流れ星たちが戻ってきた――そう確信したスイは、フウにやさしく呼びかけました。
「フウ、ありがとう。私、フウがいなかったら、ここまでがんばれなかったよ」
フウも照れたように笑いながら言います。
「ぼくもスイと一緒だから勇気を出せたんだ。これからも、ぼくたちは力を合わせていけると思う」
お互いの気持ちを大切にしながら、星の不思議な力を信じ続けた二人。
こうしてスイとフウは、ただの幼なじみから、“本当の仲間”へと成長したのです。
――村の泉はかつてないほど美しく透きとおり、星空は再びきらめきを取り戻しました。
誰もが笑顔を取り戻し、夜空を見上げては、流れ星に「ありがとう」とささやきます。スイとフウもまた、そっと手をつないで夜空に向かって微笑みました。
「星って、何度見てもすごいね。大変な大冒険だったけど、ふたりでがんばったね」
「うん、ぼくたち、ふたりでがんばったね」
二人は目を合わせ、にっこりと笑いあいます。
/* スイとフウの純な心が世界を満たして、新しい星を芽吹かせました。こちらこそありがとうと伝えたいです。その絆と勇気を誇りに思ってください。生まれたばかりの星にも、また新たな生命があふれ、純な心で満ちていくことを願っています。スイとフウの冒険はこれで終わりではありません。互いを信じ、支え合いながら、この先も進んでください。星はいつも見ています。 */