一話 星が降り注ぐ村
/* 遠い昔、星は山々に抱かれた村を見守り、命を育む光を届けていました。しかし、星の輝きが弱まったとき、勇気と希望に満ちた二つの心が星を求めて旅立ちます。*/
緑の山々にかこまれた小さな村がありました。その村は空気が澄んでいて、夜になれば星がたくさん見えます。特に、流れ星がたくさん降り注ぐことで有名なのですが――。
「ねえ、フウ。流れ星、見つからないね」
星空を見上げた活発そうな少女がそう言うと、となりで同じように見上げた物静かな少年はうなずきます。
「うん、スイ。まえはこうして見上げてたら、すぐに何本も流れ星が見えたよね」
「スイ」という名前の少女は、短く切りそろえた髪と日焼けした肌が、まるで元気そのものを表しているようで、村一番の活発な子です。
その隣の「フウ」という名前の少年は、大きな瞳は目じりが下がっていて、さらさらと長めの髪が風に揺れるたび、どこか物静かで優しい雰囲気を感じさせる子です。
二人が言うように、以前はもっとたくさんの流れ星がきらきらしていたはずなのですが、今年になってから、夜空に流れる星の数が減りはじめ、村の人たち心配するようになっていました。
この村にとって流れ星は特別な意味があります。と、言うのも、昔から村に伝わる言い伝えを村のみんなが大切にしているからです。
言い伝えは『空に走る流れ星は、泉の精霊が流す涙。その涙が村の泉に落ちて、清らかな水をもたらし、人々の命を支えてくれる』というものです。
この村の生活や農業を支えているのは村の近くにある泉から滾々と湧き出る清らかな水です。
しかし、流れ星を見なくなったころと時を同じくして、徐々に濁っていったのです。濁っていても、生活のためにはその水を飲んだり野菜に撒いたりしなくてはいけません。
するとどうでしょうか、まずは作物がうまく育たなくなっていき、それにともない、人々も体調を崩すことが多くなったのです。
だから、村の人たちは「泉の水が濁ったのは、流れ星がへったからだろう」と言っています。
村の人たちはそう言いながらも、しかし流れ星は遠い空から降ってくるものですから、人の手はどうすることもできません。
だから、どうすればよいか途方にくれていました。
病気の人が増えているのに、泉の水は汲んでも汲んでもにごったまま。昔のように水が透きとおる日は、はたして戻ってくるのか。誰もが心配で胸がいっぱいでした。
スイはそんな村の様子を見るのがつらくてなりませんでした。
自分が大好きな村が、苦しんでいるのです。もし本当に流れ星に泉を清める不思議な力があるのなら、自分が何とかしないといけない。スイはそう強く思いました。
スイはぱっと顔をあげました。決心したように、目を輝かせて言います。
「よし、流れ星を捕まえよう!」
思いきりのいい宣言に、フウは一瞬、目をまるくしましたが、やがて小さくため息をつきました。
「スイ、そんなことできるはずないよ……」
それでも、スイは胸を張って言い切ります。
「だからってあきらめたら、何も始まらないじゃない。流れ星を待ってるだけじゃ、みんなが病気になっちゃう!」
フウはその言葉に答えるかわりに、夜空を仰ぎました。声には出さなくても、スイと同じく流れ星が減っていることを不安に思っていたのです。
「流れ星を捕まえて、泉を元にもどしたいの!みんなを元気にしたいの!」
スイはあらためて夜空を見つめます。その目には強い決意の光が宿っていました。その横顔を見たフウは、少し目を伏せて言いました。
「……スイがそう言うなら、ぼくも協力するよ。何もしないよりは、ずっといいかもしれない」
スイはちょっと驚いた表情を浮かべます。普段のフウは、どちらかというと消極的で、大それた冒険なんてしないタイプだったからです。
「フウが賛成してくれるなんて、めずらしいね。いつも、もっと落ち着いて考えようって言うのに」
フウは照れくさそうに小さく笑いました。
「……ぼくも、村のためにどうにかしたいって気持ちはあるし、冒険に憧れる気持ちはあるんだよ」
その言葉を聞いて、スイはニッと笑います。
「そっか。じゃあ、二人で一緒に流れ星を捕まえよう!村のみんなを助けられるように、がんばろうね!」
どんな困難が待ち受けているかもわからないし、そもそもどうやって流れ星を捕まえるのか、二人は具体的な作戦も立てていませんでした。それでも、行動しなければ何も手に入らないという思いで胸がいっぱい。幼なじみの二人の心は、初めて同じ方向を向いていたのです。
「スイ、いつ出発しようか?」
「明日の朝がいいね。夜になったら流れ星が見られる場所を探したいし。少しでも早く行動しなくちゃ!」
/* こうしてスイとフウの冒険は始まりました。試練が二人を待ち受けていますが、星は夜空からその一歩を見守っています。 */