08 話 襲撃
6日目。
遂に明日、予定では帰還できる日である。
つまり魔力を使い切る修行も最後ということだ。
やっと帰れるという気持ちと、寂しいという気持ち半々だ。
師匠といつも通り朝ごはんを食べていると。
「今日は午前中町のほうへ少し行ってくる。多分私が帰ってくる前にフリップスという、知り合いの冒険者が来るから出迎えてやってくれ。」
「はい。分かりました。それにしても、冒険者の人が来るなんてなにかあったんですか?」
「町のほうの森からオークの群れがこっちに来ている可能性があるらしくてな、だから今日は森の見回りはそいつに任せる。」
師匠が眼帯を外してこちらを見た。
「順調にスキルが回復してきてるな今日魔力を使い切れば明日にはたぶん帰れるぞ。」
「本当ですか!」
「ああ、明日はスキルの使い方を教えるそこでお前は元の世界に帰れる。」
最初に師匠が言ってた通りやはり明日には帰れるらしい。
本当に一週間で帰れるとは・・・。
師匠様様である。
「それじゃあ、私は出かけるから留守番頼んだぞ。」
「はい!行ってらっしゃい師匠!」
師匠が出かけてからはいつも通りだ。
部屋に戻り本を読む。今日は勇者アガルと魔王の戦いがあった人魔戦争についての本だ。
本を手に取り部屋に戻り窓際の椅子に腰を掛けようとしたとき、外から子供の元気に遊んでいる声が聞こえた。
子供は元気が一番だからな。いいことだ。
そんなことを思いながら、本を開こうとすると、窓をコンコンと叩かれた。
外で遊んでいた3人組だ。
「ねえねえ、お兄さんってフェリアおばさんの弟子なの?」
「ああ、そうだよ俺はフェリア師匠の一番弟子だよ。」
「じゃあさ、お兄さんの魔法見せてよ。」
師匠の許可なく魔法を撃っても大丈夫だろうか。
まあ、攻撃魔法じゃなくて生活魔法なら大丈夫か。
あれなら軽く水が出るくらいだし。
「よし、じゃあ俺が外に出るまでそこで待っとけよ。」
「やったー!お兄さんありがとう。待ってるね!」
外に出ると、ちゃんと待っていた。
「お待たせ。そういえば君たち名前は?」
「俺は、ダリア。」
「僕は、オキア。」
「私は、メリア。」
「俺は、優真よろしくな3人とも!」
自己紹介を終え、ふと3人の手元を見ると、ダリアが手にサッカーボールほどの大きさのボールを持っていた。
「その手に持ってるのは、ボール?」
「うん、そうだよ。蹴ったりして遊ぶの。」
この世界にもサッカーに似たスポーツがあるのかもな。
しかし魔法や魔力による身体能力強化があるこの世界でスポーツってなるとあんまり想像つかないな。
某超次元サッカーみたいな感じになってしまうのだろうか。
まあ、気になるが今はこの子たちに魔法を見せるんだった。
「攻撃魔法は危ないから、生活魔法でもいい?」
「うん、いいよ!」
「よし!じゃあ手から水を出すからよく見とけよ~。」
バコンッ!!
手に魔力を込め魔法を出そうとした時、近くから物が壊れる音がした。
その方向を見ると家が壊されていた。
そして中出てきたのは、豚のような顔をした、元の世界でも知ってる人は多いオークだった。
そして、手には大き目な斧を持っている。
武器持ちの魔物だ。
しかも最悪なことに、こっちに気づいたのか、俺たちに襲い掛かってきた。
「おい!俺が時間を稼ぐから逃げて助けを呼んできてくれ!!」
「でも、それだとお兄さんが!!」
「大丈夫だ!なんてったって俺はあのフェリア師匠の弟子だぞ。安心して逃げろ。」
もちろん、大丈夫じゃない。
魔物と戦闘なんてしたことないうえに、相手は武器持ちの魔物だ。
でも、ここに戦えるのは俺しかいない。
やるしかない。
ここで俺も一緒に逃げても今度は他の人が襲われるだけだ。
「うん、分かった絶対助け呼んでくるからね!」
そして3人の逃げる方向とは別の方向に走りつつ、地面の土を取り風魔法でオークに向けてぶつけた。
「こっちだ!豚野郎!!」
挑発に乗ったのかこちらに向かってオークは襲い掛かってきた。
後は一定の距離を取りつつ時間を稼ぐだけだ。
体に魔力を流し、オーラを作り身体能力を強化する。
よし、この速度ならあいつには追い付かれることはないだろう。
そう思ったのも束の間、オークのスピードが上がった。
まじかよ、もしかして魔物も魔力で身体能力の強化とかするのか?
しかし、こっちはランニングくらいに対しオークは全力疾走。
以前有利だ。
そして、土を拾い風魔法でぶつけて逃げるを繰り返していると。
オークが走りながらこちらに右手を向けてきた。
なんだ?不思議に思いながら逃げていると、目の前に土の壁が現れた。
!?まさか、魔法!?
気づいた時には遅く、思いっきり壁に激突してしまった。
「痛ってえ。武器持ちなうえに魔法まで使うのかよ・・・。」
こちらの足が止まっている間にオークは斧を構えすぐ近くまで来ている。
急いで魔法の詠唱をする。
そして、オークが目の前で斧を振りかぶった時に詠唱が完了した。
「ノックウインド!!」
間一髪、自分を吹き飛ばしオークから離れることに成功した。
3人は、村から離れ森に走り逃げた。
ただひたすらに「助けてください!」と言いながら走り回った。
近くの森で狩りをしてきた冒険者が村に何日間か滞在しているのを知っていたため、それを求めて森を駆け回っているのだ。
「ねえ、本当に冒険者の人いるかな?」
「分かんねえけど見つけないとお兄さんが死んじまうだろうが!!」
すでに2時間以上走っている。幼い3人には体力の限界だった。
もう諦めてこのままどこかで、時間が過ぎるのを待っていようか。
そんな考えが3人の脳裏によぎる。
だが誰もそれを口にしなかった。
しかし、呼ぶ声に答えるのは、人だけではない。
キュルシャアアア!!
走る3人の横から蜘蛛の魔物ビックスパイダーが現れた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!逃げろー!!」
慌てて逃げる3人だが既に3人の体力は底を尽きフラフラだった。
逃げる最中メリアが転んでしまった。
「メリア!!」
「くそ!おい蜘蛛こっちを見ろ!!」
そう言い、ダリアが足元の石ころを投げ、その隙にオキアがメリアをおんぶして逃げようとしたが、石を投げるダリアに目もくれず逃げる2人にクモ糸を巻き付けて捕食しようとした。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
「「お母さん助けてぇぇぇぇぇ!!」」
「よっこらせぇぇぇい!!」
突如横から、一人の男がビックスパイダーを大剣で叩き切った。
「おい。大丈夫かガキンチョども。」
「「「フリップスおじさん!!」」」
「おい、おじさんじゃなくてお兄さんな。」
「あのね、村にオークが来てお兄さんが、お兄さんが・・・。うわーん」
助けてもらった安心感と探していた人を見つけた。達成感で3人は泣き出してしまった。
「おいおい泣くなよ。分かった俺に任せろ。お前らは安全な場所にでも居てな。昼過ぎたら村に戻ってこい。」
そう言うと、フリップスは全速力で村に向かった。