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第33話「メッサー:上」

空はとうに白み始めているというのに、朝霧の立ち込める街中はまだ薄暗く、等間隔で並ぶ街灯の明かりは霧を淡く照らすばかりだ。

辺りの住居はところどころ明かりが入っているのを見かけはするが、住宅街にはまだ人一人出歩く気配はない。


人目につかずに済んでいることを思えば幸いだろう。

もしその辺りを人や動物が歩いていようものなら、"奴"は必要に応じて手をかけていたかもしれないからだ。


だが一方で、この状況は俺にしてみれば不利でもある。

"奴"が俺の姿を捉えている今、俺にできることは好機を目指してひた走るのみだ。


どこかに身を隠すことができれば、その隙に黒霧に紛れてこの場を離れることができる。

しかし、俺が考えていることなど"奴"にはすでに見切られているだろう。

何せ、"奴"――マシェットは、かつてツーマンセルを組んでいた相棒なのだから。


家々の屋根を駆け抜け執拗に追い回してくるマシェットは、高らかに笑い声を上げながら、鉤爪のように指に食い込ませたナイフを放つ機会チャンスを狙っている。

俺に目掛けて放つ、機会チャンスを。


「相変わらず逃げ足だけは早いね、メッサー!

さすがのあんたも、黒門の使いとの戦いで魔力を削られてるせいで、そろそろ限界なんじゃない?俺もいい加減足がクタクタなんだけど!」


かくいう奴はクタクタだという割には軽快だ。

徐々にではあるが、それを証するように俺との距離を少しずつ詰めてきている。


それだけではない。

奴の見立て通り、俺の足は間もなく限界を迎えつつある。

だが、俺はまだ足を止めるわけにはいかない。

観念して奴の刃を受けたところで、ふたたびあの黒い炎の間から"軌跡"を辿り直すことになるのだ。

もはや、行く末を求め続けることしか俺に残された道はない。


心臓を破らんばかりのこの息苦しさも、走り疲れて間接の痛みさえ曖昧なこの足も、"あの子"をあるべき未来へと導くためだと思えばこそ、どうということはない。


「まだ笑う元気があるのか」


悔しげに茶化す声が届き、自分が笑みを浮かべていることに気づく。


「……お前には、到底及びもつかないことだ。気にするな」


「その余裕な目に、いつもイライラさせられてた。あんたの始末を任されたとき、胸が震えたよ。ようやく意趣を晴らせるときが来たってね!」


恨み節とともに、三本のナイフが矢の如く飛んでくる。

身を捻らせながらすんでのところで飛びかわし、ナイフ目掛けて魔法の球を放つ。

着地するなり瞬時に体勢を整え直し、ふたたび走り出す。


俺の放った魔法の球があたったナイフは、砂のように粉々に散った。

それを悔しそうに見届けるマシェットの視線が逸れている隙に角を曲がり、黒霧に紛れた。


マシェットがようやく俺に追いつき、その燃えるような赤い眼差しが絡むころには、俺の体はすでに霧に紛れ、次の瞬間、俺の姿に驚くアネリとその一行が目の前に現れた。



第33話「メッサー」 終

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