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第23話「ジェレマイア村:2」

リオラとかいうこのいけ好かない男は、さっきからわざと僕の声掛けを無視して、通路の奥へと早足に歩いてゆく。

引き離されないようにとついて来てはみたが、張り合っているうちにだんだんと冷静になってくる。

思えば咄嗟の勢いで奴を追いかけてきたものの、僕はなぜここまでムキになってるんだろう。

こいつが、あの子の頬に口付けたから何だって言うんだ。

そう切り捨てようとした途端にまた光景が思い出され、沸々と苛立ちが沸き起こってくる。

クソ、何なんだこの感情は。


何だか馬鹿馬鹿しくなって、足を止める。

すると、僕が追ってこないことに気づいてか、リオラは少し先でこちらの様子を伺うように足を止めた。


「やっと落ち着いた?」


怒りの原因を作った張本人にそう言われるのは正直癪だ。

答えてやるのも馬鹿馬鹿しくて、わざと顔を反らせてやった。


だが、この男にはこういう反応は通用しないだろうということもわかっていた。

その証拠に、こいつは僕の反応を見てクスクスと噛み殺したような笑みを浮かべている。

本当に、気に入らない。


ただでさえ印象が良くないというのに、こいつはどこまでも土足で踏み込んでくることを辞さない。


「……あの子に惹かれてるんだろ?」


不躾な問いに、今度こそ引っ捕まえて張り倒してやりたいぐらいの羞恥が芽生える。

何か言い返してやりたいが、どうしてか言葉が出てこない。


「その顔、まんざらでもないみたいだな」


「は、はあ?何言ってんの、君……」


やっと絞り出した声は、情けないことにつっかえてしまった。

こんな反応、僕が彼でも見抜いただろう。

てっきりからかわれるだろうと思っていたが、リオラは茶化すような言動を取りはしなかった。

ちらりと見やった顔には柔和な笑みが浮かび、その透き通った水辺のような瞳は僕のことを微笑ましげに見つめていた。

なぜそんな顔をするのか、まったく理解できない。


何だか無性にむずがゆい感覚を覚え、気を紛らわすべく話題を変えることにした。


「僕のことはいい。君こそ、髪をマフラー代わりにするなんてずいぶん変わってるじゃないか」


ずっと気にかかっていたことを何とはなしに口にしただけだが、リオラの表情に影が差した。

悪いことを言っただろうか。

だが、寂しげに思えた表情はすぐに一変し、どこか懐かしむように三つ編みの先の結び目をなで始めた。


「よく言われる。けど、こうするのがお気に入りなんだ。君が自分の名を気に入ってるのと同じようにね」


「……ふーん、あっそう」


「フィオン、俺は君のその歯に衣着せぬ物言いは嫌いじゃない。けど、誰にでもそういう言動ばかり取ってたら女の子に嫌われてしまうよ。特に、アネリには」


「好感を持たれずとも結構だ。何のことだかさっぱりわからないね!」


皆まで言われる前に先手を打ち、さっさと引き返すことにした。

これ以上余計な会話を続けてぼろが出てしまう前に。


「変わらないなあ……"アルベール"」


去り際に僕の背に向かって彼が何かをつぶやいた気がしたが、今の僕には関係のないことだ。

今はとにかく、頭から冷たい水をかぶりたい。

そうでもしないと、平静さを欠いて多分余計なことをしてしまう。


そうして自分のためにと思い取った行動が、まさかあんな事態を引き起こすなんて。

このときの僕は、愚かにも考えさえしなかった。



第23話「ジェレマイア村:2」 終

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