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第14話「村の宿にて:下」

 話に夢中になりすぎて、椅子にもたれるアネリがうつらうつらとしているのに気づくのが遅れた。

 つい長々と話し込んでしまった。

 こんなに長い時間を人と過ごしたのはいつ振りだろう。


「気を許しすぎたな……」


 なんて口では言ってみたものの、そんなに悪い気はしない。

 むしろ、"あの場所"を出たときの、くびきから解き放たれた感覚がまた蘇っている。


「アネリ」


 声をかけるが、すでに寝入っているらしく僕の呼びかけに気づく様子はない。


「そんなところで寝たら体を痛めてしまうよ」


 肩を揺さぶるが、小さく呻くのみで目覚める気配はない。


「……やれやれ」


 仕方なく、仕方なくだ。

 椅子から落ちないよう細心の注意を払いながら、アネリの身体を横抱きに抱える。


 その瞬間、連れ立っているのが女であるということを思い出した。

 髪からほのかに漂う甘い香り。服越しにもわかる柔らかな感触。

 薄く開かれた唇が艶めき、そこから微かに漏れる吐息が僕の頬をなでるように掠める。


 何も考えるな。


 そう言い聞かせ、心を無にしてベッドに敷かれた寝具をめくる。

 極力刺激を与えないようそっと寝かせると、アネリの身体がベッドの弾力でくったりと沈み込んだ。

 そっと寝具をかけ終えると、窓辺にもたれながら髪を掻きあげ、一息つく。


 穏やかに寝息を立てる姿はどこかあどけなく見える。

 そういえば、この子はいくつなのだろう。

 僕よりも若く見えはするが……まさか子どもじゃないだろうな。


 そこで、はたと酒場でのことを思い出す。

 フェルナヴァーレンのあの酒場には、呼子がいるはずだ。

 子どもならまず店内に入らせはしないだろう。


 それに、彼女は確か、正魔法使いになるための試験を受けに行ったとも言っていた。

 その試験の受験用件も確か成人である必要があったはずだ。


 ……待て。

 そもそもこの子が大人だからと言って何になる。僕には何の関係もないはずだ。


 思考を振り払い窓の外に意識を向けるが、彼女が時折小さく声を漏らすたびに変な気分に駆られる。

 なるべく見ないように意識しているが、その声につられて思わず視線を向けてしまった。

 ほんのりと赤く色づいた頬につい釘付けになってしまう。


 少しだけ。重々言い聞かせ、彼女の頬に手を伸ばす。

 ややしっとりとして滑らかな手触り。

 いつまでも触れていたくなるような、そんな感覚になってしまいそうだ。


「こんな無防備な寝姿を晒すなんて、見くびられたもんだね。……僕も一応、男なんだけど」


 だが、これ以上はだめだ。

 僕を信頼してこそ晒している姿なのだ。


「……おやすみ、アネリ」


 聴こえないようそっと一声かけると、マントと剣を手に部屋をあとにする。

 村のなかとはいえ外は少しは冷えるだろうが、森に比べればまだ幾分かマシだろう。



第14話「村の宿にて:下」 終

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