犯人を見つけよう
アリアに事情を話し特訓のやり方を聞くが戦闘方面のことは知らないという。
グリフならどうだという助言に従い会いに行くと、庭でシャーンと一緒に居るのを発見した。
私はグリフに事情を話し、多数を相手にしてはどうかということを実行した。
シャーンも見に来ている中ガッチガチに緊張しているけれど、それも訓練だということで続けていく。
そしてトーナメント当日。
会場は大いに盛り上がり、シャーンやそのお母さんも見に来ている。
開会を終えて第一試合、プラムは一回戦を順当に突破した。
二回戦三回戦とガチガチになっている相手を叩きのめし、ついに決勝。
相手も中々やるようだけど、プラムは隙を突き勝利を収めた。
だけどその夜、ボロボロになったプラムが私の部屋に。
睡眠中に襲われて賞金を奪われてしまったのだとか。
私は心からわき出た魔法でプリムを回復させ、犯人を捜しに行くのだった。
私は城内を走り回った。
でもいきなり飛びだしたから、
「御主人、どうしよう! 何処か分からない!」
プラムの泊まっていた部屋というのが分からない。
でも今更戻るのはちょっと格好悪い。
(まああの状況だったからね、仕方ないよ。夜だしちょっと迷惑になるかもしれないけれど、アリアに聞いてみようか)
「そうするー!」
御主人の言葉に従い、友達のアリアに声をかけてみようと、お城にあるアリアの部屋の扉を叩く。
「アリア、アリアー! 起きて―、起きて―!」
中々起きて来なかったけど、
「何ですか夜中に、くだらない用件だったら流石に怒りますからね」
少し眠そうな目をして扉を開けてくれた。
無理やり起こしたからちょっと機嫌が悪そうだ。
でも、くだらない話じゃないから大丈夫。
私はアリアに今までの事情を説明した。
「……許せません、そんなの絶対許しておけません! モモさん、絶対に犯人を見つけ出しましょう!」
それを知るとすごく怒り出す。
手を貸してくれるみたいだ。
「場所はわかるのー?」
「ええ、城内でも色々と噂されていましたからね、優勝者が特別に泊まる部屋は知っておりますよ。さあこちらです、着いて来てください!」
アリアは率先して進み、私を案内してくれた。
まだ分からない場所を通り過ぎ、お城にある塔の一つ、その一番上に造られた部屋の前。
「さあここです」
開け放たれた扉、中は夜なのに眩しいぐらいに物が散乱してグチャグチャに荒らされていた。
壁の絵画は切り裂かれ、鏡とか壺とかもバラバラだ。
天蓋付きのベッドには所々血が飛んでいる。
何も無ければとても綺麗で豪華な部屋だったのだろう。
「何者かが侵入したのは明らかですね。寝ている所を襲われたというのならこの惨状は後から行われたものですか。何らかの腹いせでしょうか?」
(こんなところに入れるのはお城の人しかいないよね。やっぱりあのトーナメントの参加者かな? もしかして決勝で戦った人だったりして)
「あー、あの人すごく悔しがっていたよ! 決勝の相手! ……名前? 名前……」
名前はなんだったっけ?
ム……ド……デ?
うーん、どんな名前だったか思い出せない。
(あー、僕もちゃんとは聞いていなかったな)
「モモさん、名前が出て来ないんですか? 決勝戦で戦ったのはグロー・ジャッカル様ですよ」
「あー、そんな感じ! 流石アリア!」
「あの方は名門貴族の出のはず。まだ分かりませんが、もしやったのであればとても悔しかったのかもしれませんね」
(証拠はないし決めつけるのは早いよね。誰か見ていたりすればいいんだけど、こんな場所だと捜すのは難しいね……)
誰か見ていればいいのか。
「ちょっと目撃者を捜してみるー!」
私は感覚を研ぎ澄まし気配を探った。
でもこの部屋の中には生き物の気配は虫とか動物ぐらいしかない。
言葉が話せれば良いんだけれど、私は猫以外の言葉を理解できない。
困った、他にもっと何か?
もうちょっと範囲を広げて見てみようかな。
「あ、見つけたー!」
頑張って集中してみると、確かに人の気配を感じ取れた。
指の先、窓の向こう側。
お隣の塔の中だ。
こちらに向いたバルコニーと窓もあるし、今でも灯りが付いている。
距離もあんまり遠くない。
犯行を見ていても不思議じゃない。
「あそこは……ルシフェリア様のおられる塔。例え目撃されていても教えてはくださらないでしょう。残念ですけれど」
「ルシフェリア様?」
聞いたことのない名前だ。
「シャーン殿下の妹君よ。でもあの塔の中に引きこもられておられるの。これも前国王陛下が狂われてしまった影響かしら」
「私ちょっと会ってくる!」
「たぶん扉を開いてもくださいませんわよ」
「入れないの?」
「ええ、母君であらせられる陛下でさえもお会いになられませんもの。会った事もないモモさんなら猶更でしょう」
入れないのなら話す事ができない。
(これは困ったね、唯一の目撃者がそれじゃあ。どうにもならないよ)
扉から入れないのなら、
「だったらあの窓から入ればいいんだよー!」
「え?」
私はこの部屋の窓を開き、
「ええええ、モモさん!?」
(うわあ、いきなりはやめてー!)
アリアの声を聞きながら、御主人を持ってピョ―ンと飛びおりた。
「シュタっと着地!」
もちろん全然大丈夫!
屋根の上に無音で着地した。
(モモ、僕本当に怖いから声をかけてからにして。前にも言ったよね)
「ごめんね御主人。今度から気を付けるね」
怖くなりそうだったから御主人に謝った。
「大丈夫ですか!?」
上からは顔をちょこんと出して覗き込んでいるアリアの小さな声。
周りを気にしているようだ。
私は手で返事を返し、お隣の塔の前まで走っていく。
そして隣の塔の前。
見上げると二十メートルぐらいあるようだ。
飛び上がれるのか試してみないと分からない。
とりあえず思いっきりジャーンプ!
思ったよりも高く飛べて丁度良くバルコニーの縁に手をかけることができた。
私は先に御主人を入れてから両腕でよじ登ってゆく。
「到着したよー!」
(僕はちょっと疲れたよ)
そのままバルコニーを歩き、先にある窓に手をかけた。
こんな高所だから鍵はかかっていない。
「だ、だれ!?」
開けると部屋の隅で震えている黒髪の少女が見えた。
目が大きくて、お人形さんみたいに可愛らしい。
綺麗なドレスを着ているから余計にそう感じる。
シャーンより二つ三つ下ぐらいかな。
突然入って来た私に怯えている。
「私モモだよ。こっちは御主人。シャーンのお友達なの。あなたはルシフェリア?」
返事は返ってこない。
ゆっくり近づいてもダッと別の場所に逃げてゆく。
やっぱり話してくれないのかな。
(知らない人が突然入って来たらそりゃあ怖いよ。僕が行ってくる、ちょっと待っていて)
「うん、御主人がんばれ!」
御主人は警戒心を持たれないようにトコトコと歩いてゆく。
「猫ちゃん……か、可愛い」
(うん、可愛いよ!)
御主人の魅力にルシフェリアの顔がちょっとだけ緩んだ。
やっぱり大きな人間より小さな猫の方が気を許せるのかも。
そのまま畳み掛けるように御主人はお腹を見せたり、足元でスリスリしたりしながら愛らしさを伝えまくっている。
御主人、がんばれ!
「さ、触っていい?」
「うん、いいよー!」
私の許しを得ると、ルシフェリアは身をかがめて御主人の頭を優しく触った。
もう少し顔が明るくなり、御主人の方も気持ちよさそうだ。
私も一緒に入りたい。
「抱っこしても良いんだよ!」
「抱っこ……」
ルシフェリアは小さな手で御主人の体を持ち上げた。
御主人は頬に自分の頬を合わせている。
「わぁ、温かい」
もうすっごくほわほわな笑顔だ。
「私ちょっと聞きたい事があるだけなの。ねぇ、ルシフェリア、あっちの塔で何か見たり聞いたりしなかった?」
また警戒されないように、その場から動かず窓の外にあるアリアがいる塔を指さした。
「あ……さっきの」
「知っているなら教えて!」
「ち、近づかないで!」
やっぱり近づくと拒否感を示すようだ。
また無言になって動かない。
もう思い切って近づいてみるよう。
私はルシフェリアの不意をつくように、床に背中を預けて滑るように移動した。
予想外の行動に、ビクっとしても避けるという行為が思い浮かばなかったみたい。
「つかまえた!」
「ひっ……」
優しく触った両足はプルプルと震えている。
「大丈夫、私も御主人も何にもしないよ。ね!」
(うん、しないよ)
「だから教えてくれるだけでいいの」
このままの状態で話してくれるのを待ったのだけど、何だろう、静かすぎるからちょっと眠くなってきた。
ダメだ、目が明かない。
プラムのために頑張ってあげたいけれど、眠気には勝てないよー。
もう明日頑張ろう……。
っと、そのままほぼ眠りかけた時、突然けたたましい声が聞こえてくる。
「ルシフェリア様、ルシフェリア様。そちらに変な人が来ませんでしたか。その人悪い人じゃないんです、どうぞお許しを!」
扉を勢いよく叩くアリアの声だ。
折角寝ようと思ったのに、もう!
……ああ、違う、犯人を見つけるんだった。
よだれを拭いルシフェリアの顔を見上げると、
「ねぇ、何で寝ちゃうの」
何だかちょっと楽しそうだ。
アリアのうるささに気がまぎれたのかも?
これは仲良くなれそうな気配だ。
だったら行動あるのみ。
私はガバッと身を起こし、
「うわ!?」
ルシフェリアをむぎゅッと抱きしめた。
「私は敵じゃないよ!」
「……うん」
ちょっと驚いていたけれど受け入れてくれたみたい。
そして仲良しのペロペロ……は御主人に怒られたんだっけ。
じゃあやっぱり、
「お友達になろう!」
私はルシフェリアに手を差し伸べた。
ちょっとだけ戸惑いながら、恐る恐る手が進んでくる。
今度は眠らずにちゃんと待ち、手の平に触れた手を優しく握り込んだ。
これで私とお友達。
(よかったね)
「そうだねー!」
「ルシフェリア様、お返事を!?」
でもアリアはやっぱりうるさい。
あんまり大きな声を出すと皆起きてきちゃうよ。
「ルシフェリア、アリアがすごくうるさいから、お部屋に入れてあげてもいい?」
「……いいよ」
ちょっと悩みながらもアリアも部屋に入れてもらえた。
ガチャッと扉を開けると私を無視してルシフェリアに思いっきり頭を下げている。
「突然申し訳ございません。この人ちょっと常識というものがなくって。ほらモモさんも謝って!」
「えー、大丈夫だよ。ルシフェリアもお友達だもん。ね!」
「う、うん、お友達」
笑顔を向けるとルシフェリアも照れたような笑顔が。
「そう、なんですか?」
「ほら、仲良しー!」
繋いでいる手をプランプランした。
「それは良かったですけれど、結局犯人を目撃していたんですか?」
「……あ、まだ聞いていない!」
「忘れないでください!」
「忘れてないよ、聞いてないだけー!」
「ではルシフェリア様、隣の塔で起こっていたことをお聞かせください」
「待って、その前にアリアもお友達になろー! ルシフェリア、アリアも私のお友達なんだー!」
「え、私みたいなものが王族のお友達になるなんて……それはあまりに畏れ多いのでは」
「えっと、どうしよう……」
二人とも素直に手を繋げばいいのに。
私はアリアの手を掴み、ルシフェリアの手も掴む。
それをちょっと引っ張って二つの手が繋がった。
「これでお友達!」
「……うん」
「それでよろしいのなら」
二人とも笑い合っている。
私もちょっと嬉しい。
それから一度落ち着いて話そうと、ルシフェリアからお茶とお菓子が提供された。
これでようやく話しを聞けるみたいだ。
でもこのクッキーはとても美味しい。
もし夢中になって聞き逃したらアリアに聞いてみよう。
「えっと……向こうの塔のことだよね? 私見ていたよ」
「ルシフェリア様、どんなことを見たのでしょうか?」
「遠くて顔はあんまりよく分からなかったけど、あれはたぶん女の人だよ」
「女? それはあの部屋に泊まられていた青い髪のプリム様では?」
「違う、あれは金髪の女だった。鎧に特徴的な狼の紋章があったし、胸も大きかったから、あれはたぶん――」
「天狼ジャックスロー隊の紋章ですね。自分の隊が負けたのがよっぽど悔しかったのでしょうか。不意打ちをしてお金まで奪って、絶対許しておけません! そうですよね、モモさん!」
「うん、すぐ行こう!」
私はお菓子を頬張りながら椅子から立ち上がった。
御主人は……今日はルシフェリアに貸してあげよう。
ずいぶん気に入っているみたいだし。
「モモ、アリア、また来てね……」
恥ずかしそうにルシフェリアは小さな声でそう呟いた。
すごく勇気を振り絞っている感じだ。
「もちろんですルシフェリア様、絶対にお約束します!」
「ねぇルシフェリア、一緒に行こ―!」
だから私は、その体をひょいっと持ち上げた。
「え?」
「ちょっと、モモさん、流石にそれは失礼なのでは!? 何かあったら、何も無くても陛下に叱られてしまいますよ!?」
叱られるのは嫌だけど、
(でもいい機会かもしれないね。何年もこんな所に居たら自分で出られなくなっちゃうからさ。強引でも連れだしちゃおう!)
「うん、そうするー!」
私はルシフェリアを部屋の外へ連れ出すことに。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




