いけプラム、トーナメントに出陣だ
私の部屋にやってきた青鎧のブルース。
今日は私に頼みがあるらしい。
私はそれを引き受け、二百人ばかりの見習い兵士達と戦い勝利した。
そして訓練をしてくれと言うから、私は猫についての常識を教え導いた。
それで力を増した見習いの人達。
で、またブルースに頼まれごとをされ、今度は兵士の新人トーナメントに出るプラムという人物を訓練して欲しいという。
私は頑張って急流に流したり、お城の天辺から突き落としたりしながら凶悪な特訓をほどこした。
どうもついて来れないみたいで、音を上げてしまう。
私もこれは違うかもしれないと思い始め、プラムの事情を聞いてみた。
生まれ故郷の村のためにもトーナメントで優勝して賞金を復興にあてたいということだった。
私はプラムの想いに応えるように、特訓が得意そうなアリアに声をかけた。
「え、兵士のための特訓ですか? そういうのはちょっと分からないですね。そういうことはブルース様に……あ、でもブルース様に頼まれたことですよね。ならグリフ様なら何か知っているのではないでしょうか」
でも兵士のことは分からないと云うので、
「そっか、行ってみるー!」
今度はグリフのいる場所へ。
シャーンと一緒に庭にいるのを発見し声をかけてみた。
「何、トーナメントの為に兵士の特訓の方法を聞きたいですと? ふむ、基礎トレーニング……と言いたいところですが、残り数日で効果が出る訳もないですな。ふ~む、ならば多人数戦は如何でしょうか。二人三人を相手にしていけば戦闘の組み立て方や動きも理解できるのではないでしょうか。もちろん一人を相手にする時にも充分役に立ちますぞ」
(おー、流石グリフさん、伊達に歳は取ってないね)
「わかったー、私誰かに頼んで一緒にプラムと戦うー!」
「いやいや、流石にモモ殿が相手で自信を失うだけですぞ。同じレベルの相手を見つけた方が宜しいかと」
「そっかー」
(なるほど、じゃあブルースさんに頼んで誰か貸してもらおうか)
「うん、そうだね! シャーン、グリフ、またねー!」
私は手を振ったのだけど、
「あ、待ってモモお姉ちゃん、俺もそれ見てみたい。爺、いいよね!?」
「ふむ、多少なら融通も利かせられます。宜しいでしょう」
二人とも一緒に来てくれるようだ。
遊ぶわけじゃないけど、久しぶりだからちょっと嬉しかった。
「じゃあシャーン、一緒にいこー!」
「うん!」
そして私達はブルースに声をかけ、二人の人物を借りてきた。
剛剣のリーチャ、柔剣使いブラッシュ。
ほぼプラムと同格ぐらいの実力を持っているらしい。
丁度良いので早速プラムと合流し、何時もの場所で多人数での訓練を始めてもらった。
だけど三人とも見るからにガッチガチだ。
「と、とおおおお!」
剛剣を扱うというリーチャの剣はヒョロヒョロだし、
「や、やあああああ……」
柔剣使いのブラッシュは逆にガッチガチにかたまっている。
対戦しているプラムは、
「殿下が見ていらっしゃる、殿下が見ていらっしゃる、殿下が見ていらっしゃる。ふがあああ!?」
シャーンを気にしまくってそんな剣さえ避けられない。
むしろ弱くなっているんじゃ?
「ふむ、シャーン様がいらっしゃるので緊張しているようですな」
「じゃあ俺帰った方が良いかな?」
「いやいや、新人トーナメントでは大勢の観客も入ります。まあこれも訓練ということですな。このまま続けてもらいましょう」
「そっか、じゃあもう少し見ておこう」
これでいいのなら私のやることは何も無い。
シャーンの隣でゴロゴロしておこう。
私は地面に体を預けると、ふわぁっとあくびして目を閉じた。
起きた時にはシャーンはいなくなっていたけど、特訓自体は順調だ。
ちょっとずつちょっとずつプラムの動きも良くなって、二人相手にもある程度は善戦するようになっている。
次の日もちょっと、その次の日もちょっとだけ強くなり、日が流れてトーナメントの日。
盛大に鳴るラッパの音。
巻き上げられる紙吹雪、今日は大きな闘技場という場所で戦いが開催される。
相当広い砂地、その中心にはちょっとだけ高くなった舞台があった。
周りには大勢の観客が兵士の名前を叫んで応援していたりしている。
賭け事とかもしているみたいだ。
合計すれば一万人以上は入っているのかもしれない。
皆娯楽に飢えているのかな?
参加する部隊の兵士や町の住人、それに闘技場の一番見晴らしの良い場所にデーンと構えられた物見台には、シャーンのお母さんと息子のシャーン、グリフの姿もあった。
横には護衛の兵士と、誰も座っていない椅子が七つぐらいあったりする。
誰か来る予定だったのかも。
そして参加する三十二人の新兵達。
こんな観衆の前では緊張を隠せない者も多い。
他にも入れ込み過ぎてガチガチになっている者や、お腹を押さえている者もいる。
中には全く動揺も見せない者もチラホラ見える。
たぶんその人達が本命だろう。
「今日は新人トーナメント開催の日。私は楽しみで仕方ありません、将来の勇者候補が武を競い、数々の名勝負を繰り広げることを。さあ長話は終わりにしましょう。……では、ウィンディア王国、女王テルナ・グリフィス・ウィンディアが命じる。さあ新人トーナメントを開始しなさい!」
まずはシャーンのお母さんが開会の宣言をすると、ドオオオオっと一気に会場が盛り上がった。
あまりの歓声に耳が痛くなるほどだ。
「師匠、御主人、それとブルース様、行ってまいります!」
「いってらっしゃーい!」
(いってらっしゃい)
「優勝を期待しているぞ、頑張って来い!」
「ハッ!」
そして始まる最初の一回戦の戦いは、このプラムが担当をすることになった。
木剣と鉄の盾を持ち、舞台に上がってゆく。
相手は背が高く鍛え上げられた肉体を持つ男だけど、会場の雰囲気に呑まれている感じだ。
「ふっ、まだまだ青い若造よ。私の相手にはならないな」
逆にプラムの方はどっしりと落ち着いている。
今まで行って来た色々な特訓が効いたのかも?
先ずはブルービーストという部隊名とプラムの名が告げられ、それから相手の男の部隊名と名前が告げられた。
観客から歓声が沸き上がると、すぐに開始の合図が鳴り、舞台上の二人の戦いが始まる。
一気に詰め寄るプラム、防戦一方の相手の男。
ほぼ何もさせず、最後はバチンと剣を弾き飛ばし勝利を収めた。
今日はとても調子が良いみたい。
(モモ、これはいけそうだね)
「うん!」
ここで戦っている兵士は全て新兵ということで、実力の開きはそんなにない。
その中で抜き出るぐらいの力を持ったプラムは、二回戦、三回戦と順当に勝ち進み、ついに準決勝、決勝にまで勝ち上がった。
残りは後一勝。
「やった、師匠やブルース様のお陰でここまで来ることが出来ました! ありがとうございます!」
決勝前の休憩時間にプラムが私と御主人に頭を下げた。
「プラムが頑張ったからだよー!」
(だよね)
「うむ、頑張るのだぞ」
「はい、あと一つ、村の為にも、師匠の為にも、必ず勝って参ります!」
プラムがグッと拳を胸に当てて想いを固める。
「うん、いってらっしゃーい!」
(いってらっしゃい)
私達が見送るとプラムは自信満々に舞台に上がってゆく。
相手は細身で長髪の男。
この舞台に上がっても緊張している様子はない。
今回はいい勝負になるのかも。
期待していると、舞台上にグリフが足を踏み出した。
中央でプラムともう一人を見渡し、
「ここに残りし二人の勇者、決着の時は今、さあ現れよ、天狼ジャックスローを旗に持つ者、グロー・ジャッカル!」
バーンと相手の名前を宣言した。
観客のテンションも爆上がりし、グローが木剣を掲げてアピールしている。
「対するは長い牙を持つ野生の大虎、ブルービーストを旗に持つ者、この大会唯一の女性、プラム・オデッセイ!」
プラムの方は切っ先を相手に向けて歓声など聞いていない。
ちゃんと集中しているようだ。
「二人とも準備はよいな? それでは初めよ!」
グリフが舞台から降りると試合が開始された。
「てええええええい!」
「うおおおおおおお!」
二つの剣がぶつかり合う。
力は互角……とはいかない。
プラムの方が若干押され気味な感じだ。
しかしその力を受け流し、逆に反撃の機会を得たりもしている。
全く敵わないという感じでもないし、チャンスがあれば一気に叩き伏せることも出来るかも。
「思ったよりやるな。だがこれで終わりにしてやろう!」
でもグローは攻勢を強めてプラムをジワジワ追い詰め始めている。
もう少しで舞台の端だ。
あそこから落ちたらもしかして負けだったり?
「プラム、がんばれー!」
(がんばって!)
私と御主人が応援すると、
「これだけ応援されて師匠の期待を裏切る訳にはいかない。今までの特訓に比べればこのぐらいのピンチなどッ!」
プラムはグッと足を踏ん張り舞台端で耐え続けている。
「クッ、しつこい女だ。ならば思いっきり弾き飛ばしてくれる!」
グローが必殺の一撃を放つ一瞬、
「ここだあああ!」
動きを見極めたプラムは、体勢を低くしてすり抜けるように後ろに回り込む。
「うおおおおお!」
そのまま背後から剣を一撃。
「ぐおおおお!」
自分の勢いと攻撃の勢いに押され、グローは舞台上から落下してゆく。
完全に落ちたのを確認すると、
「勝負あり、勝者プラム・オデッセイ!」
グリフから勝利宣言がくだされた。
歓声と悲鳴のような声が一層増して何だか分からないぐらいだ。
「うおおおお、モモ殿、やりましたぞ! 念願の優勝ですぞ、うおおおおお!」
そして隣からも、ブルースがもの凄い声で喜んでいる。
抱き付いて来そうだったから私はヒョイっと身を躱した。
「ま、待ってくれ、落ちて負けでは納得がいかない。もう一戦、もう一戦頼む!」
落とされたグローはまだ納得していないようだ。
「ルールはルールだ、大人しく受け入れよ」
「クッ、剣では勝っていたのに!」
でもやっぱりルールは覆せなかった。
悔しがってバンと地面を叩いている。
それとは逆にプラムは笑顔になってこちらに走り寄った。
「師匠、ようやく優勝できました。これも師匠のお陰です! ありがとうございました!」
私の手を握って感謝の言葉を述べている。
「プラムが強かったからだよー」
(だよね、頑張ったのはプラムだし)
「うむ、モモ殿の云う通りだ。これからも精進するのだぞ」
「ハッ、ブルース様、必ず立派な兵士となることを誓います!」
歓声が落ち着き始めると、シャーンのお母さんから戦いに参加した人達に賛辞の言葉が与えられた。
そして賞金とトロフィーがプラムに手渡され、新兵トーナメントが閉幕となる。
こうして私の役目は終わったのだけど、その夜のことだ。
ベッドでゴロゴロしながらのんびりしていると、
「……師匠」
扉の向こうからプラムの声が聞こえてくる。
ちょっとだけ嫌な予感がする。
(こんな時間になんだろう?)
「プラム? 入って来ていいよ」
声をかけても全然入って来ない。
(モモ、何かあったのかもしれないよ。行ってみよう!)
「うん!」
私はベッドから飛び起きて扉を開けると、プラムは怪我を負って血と涙を流しながら蹲っていた。
「どうしたの!?」
「賞金が……盗まれてしまいました……力をお貸しください……」
とてもとても悔しいのだろう。
「えー!」
(それは大変だ!)
あの賞金は村の復興を手助けする物凄く大事な物だ。
頑張っていたのを知っているからちょっと胸にくる。
私はこの怪我を治してあげたい。
グッと締め付けられるような思いが私の中の何かを輝かせた。
これは前に魔法を使った時の感覚だ。
心に浮かぶ言葉を唱えればきっと願いは叶えられる。
「猫猫召喚、癒しの猫ちゃん! 出てきてー!」
私は怪我をしているプラムを思いやりながら、湧き上がるその言葉を唱えた。
すると何も無い空中に渦のような物が浮かび、御主人と同じような白い猫がくるんと回転して床に着地する。
その子はプラムにそっと近づくと、その体を一舐め。
流れた血が消えて、開いた怪我も完治してゆく。
「……治った? すごい! 師匠、すごい!」
「うん!」
誉められたのも嬉しい、怪我が治ったのも嬉しい。
私はプラムを抱きしめた。
(モモ、誰に盗まれたのか聞かないと)
「あ、そっかー、プラム、誰に盗まれたの?」
「分かりません、お城の優勝者特別室で寝ているところをいきなり襲われて。折角優勝できたのに……」
犯人は分からないのか。
でもそんな部屋に侵入したのならこのお城の人間が怪しい。
(ブルースに相談してみたらどうだろう。プラムの上司だし)
「うん、そうだね。プラム、ブルースに言ってみよう!」
「そ、それはダメです。ブルース様に伝えればきっと隊総出で犯人をみつけてくれることでしょう。しかし優勝した私が襲われて負けたことが知られればブルービースト隊の恥。それは絶対、言わないでください」
「そっか、じゃあ私が捜してあげるね!」
(うん、絶対に見つけ出さなきゃね)
「私も行きま……うッ」
立ち上がったプラムは頭をフラフラさせて膝をつく。
これはまだどこか悪いのかも?
(たぶん怪我が治っても血が足りないんだよ。まだ安静にしていなきゃ)
「じゃあプラムはここで休んでいて、私と御主人で捜してくるー!」
返事を聞く前に私は御主人を連れて部屋を飛びだした。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア