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周ってみよう町の中

 私と御主人、リーズとカリンはシャーンのお母さんに呼び出された。

 リーズとカリンは誉められたけど、何故か私は怒られてしまう。

 アリアに文句を云われるけど、最終的にはお友達になろうと握手をした。

 それからお勉強を頑張ってちょっとだけ頭が良くなった私。

 今日はシャーンとおでかけがある。

 リーズ、カリン、それとグリフと一緒に展示会という場所に向かった。

 そこで見たのは三年前に起こった大戦の英雄達の像。

 その一体がシャーンのお父さんを模った物らしい。

 悲しそうな表情を吹き飛ばすように手を引いて楽しく回ったのだった。

 展示会を出た私達。

 よく分からなかったけど、美味しい物が食べられて満足だ。

 出来るならもう少し食べたかった。


「まさか壊槍ゲイボルグのレプリカがあるなんて、あれ私に貰えないかしら?」


「お姉ちゃん、そんなの貰える訳がないでしょ。もう諦めたら」


 リーズとカリンは展示されていた武器の話で盛り上がっている。


「でもレプリカよ、ただのレプリカぐらいいいじゃない。また作ればいいんだから」


「ははは、欲しいのであれば報酬として渡すこともできるが、あれは恰好を模しただけの槍ともいえん物だぞ。宝玉はガラス、金はメッキ、穂先の刃なんぞ切れもしないからな。ただの棒として扱うなら良いかもな」


「え、そうなの、普通の槍としても使えないじゃん!」


「残念だったね、お姉ちゃん」


 と、後ろの話がひと段落したところで、


「シャルド、今度はどこへ行くのー?」


 私は次の目的地を聞いてみた。

 まだまだ時間は余っている、何処に行くのか楽しみだよ。


「えっとね、町の端の方に行ってみたいんだ。そっちはまだ行ったことがないから」


「いや、それはなりませんぞ。あそこは先の大戦から立ち直れない者達が住む場所なのです。治安は最悪、シャルド様が行かれるべき場所ではございません。アリア殿のように危ない目に遭われる危険性が高いのです。どうぞお控えを」


「爺、でも俺、行ってみたいんだ」


 シャルドは真剣な顔をしているの。

 そこまで行きたいのなら、私も連れて行ってあげたいよ。


「大丈夫、シャルドは私が護るよー、そこに行こー!」


(いや、わざわざ危険なところに行かなくても)


「御主人、大丈夫!」


「ありがとう、モモお姉ちゃん」


「当然私達もいるからね。暴漢や悪漢ぐらいどうとでもなるわよ!」


「はい、シャルド様のことは御守り致します!」


 グリフ以外はシャルドの意見を押している。


「いや、しかしですな」


「あら、揃いも揃った王国の兵士達が、ただの暴漢に負けちゃうはずはないわよね?」


「む、その通りだ! が、しかし!」


「お姉ちゃん、もしもの時はグリフ様が護ってくれますわ」


「くぅ、確かにわしであれば、暴漢如きに後れを取るはずもないが……ええい、そこまで云われては仕方がない。シャルド様の身は、このわしが護ってやろうではないか!」


 グリフは胸を叩いてやる気をだした。

 そして私達は表通りから路地を歩み、暗い雰囲気の漂う深部へ進むんだ。

 煉瓦造りの建物も、どんどんなくなり掘っ立て小屋のような物に変わっていくよ。

 石で造られていた道も、もうただの茶色い地面なの。


 ほぼ人の姿は見当たらないけど、たまに見かける人間は男も女も荒んだ目をしている。

 大通りにいる明るい人達とはまるで違う感じ。

 力がないのなら絶対に近寄らない方が良いと感覚が教えてくれた。


 でも実際には多くの兵士の人達が見張っているのだから、それ程の心配はいらないのかも?


「さて、ここが最奥ですな」


 そして更に奥。

 この町覆う壁の近くには建物なんてものはないよ。

 動物でも暮しているかのような、雪のかまくらのような小さな土の穴倉の中に人が座り込んでいる。

 それも百や二百ではきかないほど。

 でも意外と住み心地が良さそうと思うのは私が猫だからかな?


「酷い」


「シャルド様、酷くはありません。国は彼等に食料の支援もしておりますし、住居の手配もしております。まあ直ぐにとはいきませんが」


「立ち直れないのも大戦の影響よね。それでも三年も経っているんだから立ち直ってほしいんだけど」


「こればかりは本人が立ち直ってもらうしかありませんね」


(これは僕達に出来ることはなさそうだね)


 皆諦めモードだ。

 皆困っているなら私も何かやってあげたいけど、何が出来るのか分からない。

 でもきっと、きっと家族と一緒になれば幸せになれるはず。


 天使様、私を助けてくれた天使様、もうちょっと私に力を与えてください。

 皆を助けられる何かの力を!


 その願いは体に光となった。

 この暖かさは、この輝きはきっと天使様がくれたものだ。

 ドンドン大きく、ドンドン溢れて、膨らんで、膨らんで……。


「私、閃いたー!」


 ついに心の中で形となったんだ。

 新しい魔法を使えと呼びかけてくるの。


「猫猫召喚、猫いっぱーい!」


 だから私は思う存分に解き放ったんだ。

 輝く力が空に昇り、青空から光の雨が降ってくる。

 地面に落ちて弾けると、一つ一つが小さな可愛らしい猫達となったんだ。


「あ、可愛い。モモお姉ちゃんすごい」


「おお、これは一体」


「え、猫!? 何これ」


「こんな魔法はみたことがありません、一体何が?」


 その子達は自分の意思で落ち込んでいる人達の居る場所へ。

 ミィと小さな声で家族になろうと訴えた。

 手を伸ばせば本物の生命に変わる命の魔法。

 大半が消えてしまったけれど、それでも少なからず受け入れてくれた人達もいーっぱいだ。


 小さな子猫を抱きかかえて穴の中から出てきているよ。

 青いお空を見上げてちょっと眩しそう。


(こんな事が出来るなんて、モモ、天使様に感謝だね)


「うん!」


 ほんの少しだけでも、この世界のお役に立てたかな?


「お姉ちゃんすごい、すごいよ!」


「すごいわモモさん」


「本当にすごいです」


 皆に褒められてちょっと照れる。


「ふむ、こうなれば猫達の食糧も用意しませんとな」


「うん、いい考えだね。俺もそれが良いと思う」


「シャルド様ならそう仰って下さると思っていました。それでは早速戻って用意いたしましょう」


 私達は道を引き返そうとしたのだけど、


「待て!」


 突然背後から呼び止められたの。

 振り向くとシャルドぐらいの小さな子が、太い枝を握りしめて威嚇していたんだ。

 髪もボサボサで服も所々破れている、この辺りの子供だよ。

 その胸に小さな子猫を抱いている。


「お金を、お金を置いて行け!」


 これは私達を襲う気なのだろうか?

 手はブルブルと震えているの。

 切羽詰まっているという感じかな?


「シャルド様、お下がりください」


 一応グリフが前に出てシャルドを庇うように立ったの。

 リーズとカリンも武器をむけるようなことはしないけど、ちょっとだけ警戒していると、


「大丈夫、俺ちょっと話してみたいんだ」


 シャルドが自分から一歩前に。


「何のつもりだ、そんなことをしても容赦しないぞ!」


 その子は手に持った棒を振り上げる。

 言葉では威嚇しているけど、恐怖心でいっぱいのよう。

 変なことをしたらビックリして殴ってくるかもしれない。


「御主人!」


(モモ、ここは見守っておこうか。シャーンのやりたいようにしてあげよう。でも、もしもの時は助けるんだよ)


「わかったー!」


 私は御主人のいいつけ通り見守ることに決めた。


「ねぇ君、家族は?」


 そんな子相手にもシャルドは退くつもりはないみたい。


「いるように見えるか!」


「出てくる人もいないから、いないのかな。じゃあお金が欲しいのなら俺のところに来なよ。働き口を作ってあげる」


「な、なに、お前がか!?」


「そうだよ、こんなことするより良いと思わない?」


「ウソじゃないだろうな!」


「ウソじゃないよ」


 と言っても警戒は解いてくれない。


「大丈夫だよ、ね!」


 私は無造作に近づいて小さな子猫に話しかける。

 ニャアと小さな声で返事をしてくれた。


「……本当か? 本当に雇ってくれるのか? な、なら連れていけ、この子も、リロも一緒に!」


 小さな子猫を抱きしめるこの子は、絶対に良い子だ。


「連れて行くー!」


 私はこの子を優しく抱きしめ持ち上げた。


「お、おい。変なことをするなよ!」


「よしよし」


 そのまま頭を撫でてやるとちょっと大人しくなったみたい。


「モモお姉ちゃん、俺が説得していたのに」


 でもシャルドはちょっと膨れ顔だ。


「ごめんねシャルド」


「いいけど……俺も抱っこして」


「うん、いいよ!」


 私はシャルドも持ち上げた。


「じゃ、グリフ、リーズ、カリン、俺達先に帰るから。モモお姉ちゃん、走って!」


(シャーンの命令なら仕方ないね。モモ、どうせなら皆引き離しちゃおう)


「いいよー!」


 私は頷き、お城のある方向を見る。


「モモお姉ちゃん!?」


「え、私達置いて行かれるの!?」


「あのカリン達はシャルド様の護衛ですよ?」


「いかん、モモ殿は止まりそうもない。者共、急げ、急ぐのだ!」


 私は皆に追いかけられながらお城に帰った。

 到着して暫くすると皆疲れ切った表情になっていた。


「はぁはぁ、モモ殿、年寄りを走らせんでくれませんか。これは、きつい……」


「は、速すぎる……疲れた」


「ひぃひぃひぃふぅ」


 一緒に行動していた三人どころか、隠れて護ってくれていた人達もほぼダウンしている。

 ちょっと速く走り過ぎたかも?

 私はとりあえず持ち上げた二人を地面に下ろした。


「やっぱりモモお姉ちゃんはすごいな」


「えへへ!」


 シャーンに褒められるとすごく嬉しい。


「お、おい、ここは何だ、何でこんな所に連れて来た!? まさか騙したのか!?」


 もう一人の子供は凄く驚いている。


「騙してないよ、ここで働いて貰うんだ。でもその前に、君の名前を教えてよ」


「……ルーカだよ!」


「じゃあ宜しくね、ルーカ」


「よろしくねー!」


「お前は、お前の名前は何だ!」


「ん、俺、俺はね。シャーン、シャーン・デルタ・ウィーディアっていうんだ。これからよろしくね、ルーカ」


「お前、頭は大丈夫か? それはこの国の王子の名前で……」


 シャーンはフードで隠してあった顔を露にしたの。

 やっぱりこの国に住んでいるんだから顔ぐらいは知っているのかも。

 脂汗がだらだら流れていきなり頭を地面につけたんだ。


「ご、ごめんなさい。許してください。あの、あの……ごめんなさい!」


「別にいいよ。それよりまずは体を洗わないとね。さあお風呂はこっちだよ、一緒に入ろう!」


「え!? そ、それはちょっと……」


「良いから行こう」


「は、はい……」


「モモお姉ちゃん、ルーカを洗うのを手伝って」


 猫の時はお風呂が嫌いだったけれど、人の体になった今はそんなに気にならない。


「いいよー!」


 私は元気に返事をした。


「爺達は……まだ動けそうにないか。じゃあ三人で行こう!」


「うん!」


 お風呂場に到着すると、シャーンは使用人に服を脱がされるまでもなく自分で裸になった。

 私も服を脱ごうとしたけど、


「お、お姉ちゃんはいいんだよ! ルーカの体を洗ってくれるだけでいいんだからさ!」


「そっかー!」


 シャーンは赤くなって照れているようだ。

 それじゃあ二人が出たら一人で入ろうかな。


(モモ、僕は部屋に戻っているね)


「御主人も一緒に洗ってあげるー!」


(そ、それはちょっと……)


「ダメー!」


 私は逃げようとする御主人を捕まえた。

 猫の時は散々洗われたからお返ししないと!


(あの、お湯で洗ってくれるだけでいいからね)


「うん、石鹸でごしごしするね!」


(猫用の物じゃないと思うけど大丈夫かな? ちょっと心配)


 よく分からないけどたぶん大丈夫。

 御主人は元人間だし。


「じゃあルーカ、早く脱いで」


「う、うん……でもその、優しく、してください……シャーン様」


 ルーカは自分の服をゆっくり脱ぎ捨てたよ。

 小さな猫を抱えているけど、でもあれ……。

 この子、おちんちんがついてない。


「あー、女の子だー!」


「えええええええ!?」


 シャーンは逆におちんちんを隠してしまったよ。


「アタシ覚悟を決めました。お金を貰うためですもんね。シャーン様、どうぞお好きに使ってください……エッチなことも何でも……」


「違うよ、そういうのじゃないからね! そういうことで雇った訳じゃないんだからね! 普通にお風呂入るだけ……いや俺入らないから。モモお姉ちゃん、綺麗に洗ってあげて!」


 シャーンはパッと服を持って何処かへ行ってしまった。


「……逃げた……折角」


 なんか残念そうな嬉しそうなそんな顔だ。


「ルーカ、お風呂!」


「そうだな。ちゃんと綺麗にしてから再挑戦だ。目指せ、将来の玉の輿。王子のお側室! アタシの未来は明るいぞ、おー!」


 そしてパッと明るくなり、何か企てているようだ。

 まあそれはそれ、シャーンが居ないのなら私も服は必要ない。

 ルーカと一緒にお風呂に入り、御主人と子猫を洗ってあげたのだった。

家猫のモモ

御主人ごしゅじん(ヒロ)

王子シャーン

シャーンのお母さんテルナ

グリフ・リスマイヤー

青鎧のブルース・グライブス

教育係アリア・ファイリーズ

赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)

桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)

ルーカ(孤児)


剣と魔法の世界 ミドレイス

翼の生えた子供 ウリエリア

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