二つの国で起こった危険
私は御主人を抱っこしてベノムと一緒に走り出した。
向かうのは魔導国家マグナストリス。
道中で町に寝泊まりしながら四日目のお昼に到着したよ。
ベノムは変身魔法ってので別人の姿になってディズって名乗るんだって。
それから拠点を探そうってことになって冒険者ギルドに向かうことになったんだ。
私は入った途端にメニューを見せてもらうことにして、魔法使い風の女の人に冒険者カードを見せたんだよ。
それから美味しいご飯を食べて代金を払おうとしたんだけれど、さっきのお姉さんがお代は要らないって云ってきたんだ。
その代わりに依頼を受けて欲しいんだって。
泊る所も提供してくれるみたいで受け入れることにしたんだよ。
話によればこの国にも火事とかが起こっているんだそう。
これは丁度いいのかも?
ベッドの上のふとんにダイブしてフカフカの感覚を楽しんでいると、
「おい、何寛いでるんだ、まだ日中なんだから町ん中を調べるぞ!」
ディズが私に声をかけたんだ。
もうちょっとゴロゴロしていたいけど、ここに居る為にはお仕事をしなきゃいけないんだよ。
「はーい!」
だから私は元気に返事をしたの。
(モモ、僕はここで待ってようか?)
「えー、御主人だけ休んでるのはズルいよー。一緒に行こー!」
(うん、じゃあ一緒に行くよ)
それから御主人を抱っこしたんだ。
「あのハーミットってギルドの女に現場の場所は聞いてある。まずはそこに行ってみるぜ」
「うん!」
私達は火事があった現場に向かったんだよ。
そこは焦げ焦げになった五階建てぐらいの長ぼそくて大きな建物があった。
これが起こったのはほんの三日前なんだって。
ハーミットの云った通り誰も調べたりしてないし、誰かが入らないように塞いだりすることもしていないみたい。
たまにチラチラ見ている人や噂している人も居るんだけれど、ほとんどは何事もないぐらいに素通りして行くよ。
「頑丈そうな建物ではあるが崩れたら大惨事だぜ。調べないにしても立ち入り禁止にしとくべきだとは思うんだが」
「うーん、面倒くさいからからしないのかな?」
私は思ったことを伝えてみたよ。
「そんな訳があるか、お前はもうちょっと考えろ!」
(まあ面倒くさいからって理由じゃないとは思うよ?)
「えー!」
せっかく考えたのになー。
「とにかくだ、一度入ってみるか。何か手掛かりがあるかもしれねぇしな」
「分かったよー!」
私達は人目を見計らいながら焦げた建物の中へ。
あんまり広くはないけれど、漂ってくる焦げた臭いがまだ残っている。
それと一番上の階に気配があるみたい。
……小さいけれど、これは炎の妖精のものじゃないかも?
たぶん人の子供のものかな。
「ディズ、上に気配があるよ。妖精じゃないみたい」
「あん? もしかしてこの建物の関係者か? おし、行ってみるぜ!」
焦げた階段をタタッとあがって最上階。
その部屋に居たのは両手で蹲った子供だったよ。
煤で顔も衣服も真っ黒になって体を震わせて声も無く泣いているみたい。
「大丈夫?」
私は思わず声をかけたんだ。
「お前、この建物に住んでたのか? もしそうだったら聞きたいことがある。またこんな事を起こさないためにもお前の話しを聞きたいんだ」
その子は声にビクっとしたけど顔を上げてはくれなかったよ。
「うーん、どうしよう?」
「顔と名前を知りたいんだけどな。無理やりやったら大泣きされちまうか?」
「そんなことしちゃダメだよー!」
「分かってるぜ、だからこうしてジッとしてるんだ。しかしこうしていてもらちが明かないぜ」
「そうだ、御主人が慰めてあげて」
私は抱っこした御主人を床に下ろしたんだ。
(うん、出来るか分かんないけど、ちょっとやってみるよ)
御主人はトコトコと歩いてその子の顔の前。
優しくニャーと鳴いてほっぺをペロッと舐めたんだ。
そっと顔を上げた子はギュッと御主人を抱きしめて亀みたいになっちゃった。
「あー、御主人が捕まっちゃったー!」
「いいじゃねぇか、もうちょっとぐらい待ってやれ。それで話せるようになってくれれば御の字だぜ」
それからこの子が落ち着いてくれるのを建物を調べながら待ったんだよ。
結局燃えたってことぐらいしか分からなかったけど、上に戻って来た頃には泣いてた子は顔を上げてたんだ。
たぶん、男の子だと思う。
まだ涙は流れているけれど、少しぐらいは立ち直ってくれたのかな?
これも抱っこされてる御主人のお陰かも。
私とディズはその子に目線を合わせるようにしゃがんだんだよ。
「辛いことがあったのかも知れねぇが、できれば知ってることを話してほしい。俺達はまたこんなことが起こらないように調査しているんだ」
「うん、誰かにやられたんなら私がやっつけちゃうよ!」
私とディズが説得してもやっぱり話してはくれなかったんだ。
(ねぇ、君、絶対大丈夫だから。二人に話してあげて。絶対絶対解決するから)
御主人の鳴き声、人にはその声を聞き分けることができないはずなのに、
「……本当に?」
男の子は御主人の目を見ながら小さな声を出してくれたんだ。
(うん、約束するよ。僕達が絶対に仇を討ってあげる! だから話して、ここで何があったのかを!)
その子の目線が私達の方へ。
「あのね、僕は、僕達家族はここで暮らしてたんだ――」
それからここであったことを何度も嗚咽を繰り返しながらがんばって話してくれた。
すごく時間がかかったけれど、要約すると三日前の夜にそれが起こったんだって。
この子とその家族が食事を楽しんでいた時だ。
黒い包帯で顔を隠した男が訪ねて来たんだって。
そいつは男の子の父親と何か話しをしていたそうだ。
この子と母親は二階に居たから内容は聞き取れなかったらしいけれど、気が付いた時には家が燃えていたらしいよ。
その時に小さな何かが家を燃やしているのを見たみたい。
もう窓から出るのも無理になって母親とともに最上階に避難したそうだ。
でもそこも時間の問題だということで、母親が魔力を使って子供だけを近くの建物に飛ばしたんだって。
その母親は父親のことを見に行くと云ってから戻ってはこなかったって。
小さな何かっていうのはたぶん炎の妖精のことだろう。
だったらやっぱりその黒い包帯の男が犯人だということなのかな。
父親の関係者かどうか聞いてみたけど、この子には分からないそうだよ。
「よし、よく話してくれた。後は俺達に任せてくれ」
ディズは早速行動しようとしているけれど、まだ御主人を抱えてジッとしているこの子はこれからどうするんだろう。
私はそれが気になっちゃった。
「ねぇ君、どこか行くところはあるのー?」
男の子は首を横に振ったんだ。
「じゃあ私の部屋に来ていいよー。あそこはご飯も食べられるもん!」
「おい、まさか保護するつもりか? 猫の子をやり取りするんじゃねぇんだぞ。お前一生面倒見れるのかよ?」
ディズは何処かで聞いたことのあるようなセリフを云ってるの。
それでも重要なのは今助かるか助からないかなんだよ。
「そんなの分かんないよー、でも今は助けられるんだもん。だったら助けちゃえばいいんだよー!」
私も死にそうな時に御主人に助けられたんだもん。
「ね、行こー!」
そのまま強引に抱っこして走り出したんだよ。
「おい、何処行く気だおい!」
と、ディズも追ってくる。
「お部屋に帰って御主人とこの子を洗ってくるんだよー! このままじゃ真っ黒だもん!」
「俺は行かねぇからな!」
でも途中で足を止めてしまったみたい。
「うん、じゃあまた後でね!」
私は手を振ってギルドに向かったんだ。
それから三人でお風呂に入って体と服を綺麗にしたんだよ。
男の子は殆んど喋らなかったけど名前と年齢だけは教えてくれたの。
この子はリュネ・トゥリンブル。
まだ十歳になったばかりなんだって。
こんな子が居たのに酷いことをするなんて許せないよ!
絶対に仇を討ってあげるからね!
私はギルドに行って部屋にご飯を持って来てもらうのを約束すると、二人を置いてディズの気配を探ってその場所に向かったんだ。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
王女ルシフェリア
王女イブレーテ(長女)
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ベノム(ブレードバード隊、隊長)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(里帰り中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




