手を繋いでお友達
自室でアリアを待つも一向に姿を現さない。
青鎧のブルースが現れると、アリアが行方不明だと教えてくれた。
私と御主人はアリアを捜す為に昨日のギルドに向かった。
受付のお姉さんに事情を説明すると受付ボードに依頼書が貼り出された。
同行してくれるのは赤髪の槍使いリーズ、桃髪の魔術師カリン、二人のエルフの少女達。
カリンの魔法でアリアの特徴をサーチし、各所を回ってゆく。
そして見つけたのは路地裏の小さな小屋の中。
三人の男に捕まってアリアは震えて涙を流していた。
私は一気に中に入り男達を叩きのめした。
「ねぇカリン、何でこんなことになっているの!?」
「リーズお姉ちゃん、それはモモお姉ちゃんのお手伝いをしたからですね」
アリアを助けた私と御主人、手伝ってくれたリーズとカリンは、シャーンのお母さんの部屋に呼ばれていた。
椅子に座るシャーンのお母さん、横にはアリアが立っている。
私達はその前で座らされていた。別に怒られる雰囲気でもないし私は気にしない。
シャーンは……居ない。忙しいのかな?
(モモ、まだ喋っちゃダメだからね)
私は御主人に云われるままにペタンと座って手で口を押さえたの。
「モモ様、御主人さん、それにリーズ、カリン、アリアを救っていただき誠にありがとうございます。彼女は国にとって重要な人材です。個人としても、この国の王としても感謝いたします」
「も、勿体ないお言葉です!」
「いえ、依頼を受けただけですので」
リーズとカリンは恐縮して頭を下げた。
「それでは報奨金をお渡ししましょう。これはアリアのご両親が用意したものですのでちゃんと受け取ってくださいね」
シャーンのお母さんは手で合図すると、二人の男が両手で皿を持って現れた。
皿の上に大きな袋が乗っている。
動く度にジャラジャラいっているから、きっとお金のようなものだろう。
リーズとカリンはそれぞれの前皿がつき出され、取られるのを待っているの。
「ねえカリン、いいのこれ受け取っちゃって、ギルドからもモモさんからもお金を貰っているんだけど!?」
「王様からの物を受け取らない訳にはいかないよ。断ったら失礼でしょ」
「そ、そうか、じゃあありがたく……」
二人は恐る恐るお金に手を伸ばした。
シャーンのお母さんは嬉しそうに笑っているよ。
「ついでといってはなんですが、人を捜し出す才能、その実力も聞き及んでおります。これからはモモさんと共に、この城で働いてくださると、とてもありがたいのですけど」
「ええええ!?」
「それって……カリン達が国に仕えるってことですか?」
「週に三日、二日でも構いません、冒険者を辞めろとも言いませんからどうでしょうか。もちろん国からお金も支給されますよ。もし国を離れる仕事がある場合は言ってくだされば結構ですので」
「うあ、安定収入!? すごく魅力的な話しだわ!」
「意外と良いかも知れませんね」
『是非お引き受けいたします!』
二人が受け入れて話は終わりかなと思ったんだけど、
「さてモモさん、よくアリアを助けてくださいました。それは感謝しています。でも、あなたが逃げださなければこんなことにはなっていませんよね? 反省してくれますよね?」
シャーンのお母さんの顔が何だか怖くなっているような。
ちょっと危険な雰囲気を感じる。
私は口を押さえたまま慌てて頷いた。
「それは良かった、では今後も勉学に励んでくださいね」
(モモ、口を開けてちゃんと返事して)
御主人に云われるまでもない。
「はーい!」
私は手を挙げて元気に返事をした。
「さあ、今度はアリアの番です。言いたいことを言ってみては?」
「はい、陛下の仰せのままに」
アリアが歩いて進んでくる。
そして私の前でピタッと止まりギンと睨んで見下ろした。
それから思いっきり息を吸って吐いてを繰り返す。
やっぱり怒られるのかな……。
「全く、モモさんってデリカシーがないですし、マナーも覚えてくれませんし、勉強も出来ないし、何で逃げちゃうんですか!」
「ごめんなさーい!」
怒られて私はちょっと反省したの。
謝ったからだろうか、シャーンのお母さんのその顔が怖いものではなくなっていくよ。
「はぁ、もう本当にダメな人ですけど、私の事を助けに来てくれたことには感謝しています。本当に助かりました。あのですね……えっとですね……あーもう、これからはお友達としてやっていけたらいいなって思っています。あの、よろしくお願いします!」
アリアはやけくそ気味に私の前に手を突き出した。
でもこれはどうすればいいんだろう?
(モモ、手を握ってお友達になろう)
この手を掴めばお友達なのか。
「うん!」
私は直ぐにその手を握り返した。
アリアの顔がもっと穏やかに変わっていくよ。
「ありがとう、これからはもっとビシビシやるからね。皆で頑張りましょう!」
「えー!」
(まあ仕方ないね)
そういう感じで解散すると、またお勉強の日常が戻って来たの。
前みたいに怒って追いかけてくるようなことはなくなり、根気よく優しく教え続けてくれている。
そのお陰もあって、私はもうちょっとだけお勉強ができるようになったんだ。
★
シャーンと出会ってほぼ一月。
アリアの云うマナーというものは全てマスターした……とまではいえないけれど、ある程度は大丈夫な感じになっていたよ。
お勉強もまだまだだけど、おトイレはもう完璧だ。
もうアリアのしているのを覗かなくても全く大丈夫!
でも今日のお勉強はお休みで、何時もと違うことが起きるらしい。
「モモ殿、準備はできただろうか?」
「できているよー!」
(うん、昨日ちゃんと準備したからね)
呼びに来たのはシャーンの付き人で爺と呼ばれるグリフだ。
今日はシャーンが町の中をお忍びで周る恒例行事がある。
私と御主人はそれに同行するのだとか。
一緒に行きたがっていたアリアは用事があるから行けないと悔しがっていた。
その代わり、この間知り合ったリーズとカリンが一緒なの。
「では中庭に向かうぞ、そろそろシャーン様がご到着される頃だ。お待たせする訳にはいかんからな」
「はーい!」
移動した中庭には十人ほどの目立たない服を着た人達がいる。
武器は見えないけれど、きっとどこかに隠しているのかも。
「あ、モモさん、おーい!」
「モモお姉ちゃん、お早うございます」
「おはよう、リーズ、カリン!」
その中に二人、私と一緒に護衛の任務を引き受けてくれたリーズとカリンの姿があるよ。
でもまだシャーンは来ていないようだ。
「さて、まずは説明しよう。彼等は今回の見回りでシャーン様の行動を陰ながら見守る者達だ。もし悪意を持つ何者かがシャーン様に接近を試みても全てをガードする。シャーン様の身は絶対安全だから安心してほしい」
「あら、それは結構面倒そうね。明らかに敵意があるならわかるけど、私達は紛れた者を見分けるような目は持っていないわよ」
「カリンの魔法はそういうのに向いていないんですけど」
「大変そー?」
「いいや、お三方にはシャーン様のお傍で護衛をしてほしいのだ。今回は身分を隠して行動される。慰安目的も兼ねているから堅苦しくならないようにとの配慮だな。もちろん、わしも同行するぞ」
(僕達はシャーンと一緒に行動すればいいみたいだね。もし何かあった場合は別だけど、何も無ければ楽しい旅行みたいになるんじゃないかな)
「そっかー!」
シャーンと一緒なのは久しぶりだからちょっと楽しみだ。
「では皆の者、散開せよ!」
グリフの合図で私達以外の全員がこの場からいなくなったよ。
そして数分後。
「お姉ちゃーん! 御主人さーん!」
「あー、シャーンだ!」
(久しぶりに会えたね)
青鎧のブルースを連れたシャーンが一生懸命走って私の胸に飛び込んで来た。
私はその頭にほっぺたをこすりつけるの。
すごく気持ちがいい。
御主人もシャーンの足元でスリスリして挨拶しているよ。
「グリフ殿、護衛の引継ぎはお願いしますぞ」
「うむ、準備は万端だ。このわしに任せておけ」
私がシャーンとじゃれ付いていると、ブルースとグリフの話も終わった。
「あ、あの、シャーン・デルタ・ウィーディア様ですよね? 私達、御同行させていただくリーズ・ストライプです。こっちは妹の」
「カリン・ストライプと申します、ウィーディア様」
リーズは低く頭を下げ、カリンは優雅に御辞儀をし、
「うん、よろしくね」
二人共シャーンに受け入れられたようだ。
「ではそろそろ出発としようか。準備はよろしいですな、シャーン様」
「もっちろん! さあ出発だ!」
『おー!』
シャーンの掛け声で私達五人は城を出て町に移動した。
王子が歩いているのに誰も声をかけないのは変装が完璧だ。
それにシャーンはシャーンと呼んだらダメらしい。
シャルドって偽名を使うとか。
「シャルド、今日は何処に行くのー?」
「えっとね、今日は展示会に行くんだよ」
「展示会って何?」
まだまだ勉強不足なのでそういうことは分からない。
「あ、私、知っているわよ。先の大戦で活躍をした方々の展示よね。今日から始まるって聞いているわ」
「ええ、知り合いも楽しみにしていました」
リーズとカリンは知っているようだ。
「大戦ってなにー?」
一応説明してくれてはいるけど、やっぱり私には分からない。
「え、三年前にあったこのウィーディア王国と憎きザーザメンド帝国との戦いを知らないの!? 遠くの国に響くぐらい凄く有名なのに!」
「モモお姉ちゃん、もしかしてこの辺りの人じゃないんですか?」
だからちょっとした疑問を持たれてしまった。
(モモ、こっちの歴史のことだと僕達には全然分からないから適当に合わせておいて)
「あ、そっかー、やっぱり知ってるー!」
私は御主人の意見を聞き入れることに。
「ははは、モモ殿は忘れっぽいですなぁ」
「別に知らないなら知らないでも全然いいよ。だってモモお姉ちゃんにはあんな想いしてほしくないし」
シャルドは悲しそうだ。
何かあったのかもしれない。
私は小さな手を取り、アリアの時と同じように友達の握手をしてみた。
「モモお姉ちゃん、ありがとう」
その顔が少し明るくなった気がする。
(モモ、よかったね)
「うん!」
「さて、そろそろ見えてきましたな。ほら、あそこの大きな建物ですぞ」
グラスの指さす先には、お城とは違う四角い建物がある。
でっかい階段、大きな丸い柱が並んでいたり、祈るような女の人の像が二体も三体も横に並べられているの。
お勉強では確か神殿と呼ばれるものだったような?
私達以外にも多くの人が集まり、その中に入って行く。
皆その展示会というものに興味があるのかも?
「チケットは買ってありますからな。さあこれを入り口の男に見せてください」
グリフから渡されたチケットを受け取り、皆で神殿の中に入ったよ。
展示会というものは多くの武器や防具が並べられていたり、大戦というところで活躍した者の銅像なんかも飾ってあったりするみたい。
実物大と書かれているけど、とてもそうは見えない三メートル近い鉄巨人。
真っ黒でちょっといけ好かない鳥人間。
あとはシャルドのお母さんと、それからもう一つ。額に角を持った若い男。
「お父さん……」
その像を見てシャーンが呟いた。
これがシャーンの父親なのか。今は声をかけづらい。
「グリフ、あの人がシャルドのお父さんなの?」
私はグリフに声をかけた。
「ああ、先代のメギド様だ。あのお方は別の地にある城におられる。悲しいことだがもう会われることも難しい状態なのだ」
「死んじゃったの?」
「死んではおられない。大戦の勝利も束の間に、あのお方は自らの力の制御ができず暴走されてしまったのだ。その力は強大であり、ついには町までも壊滅してしまった。あれから三年も経つ。飲まず食わずでは死ぬ年月でさえ、あのお方は生き続けておられる。だが、もう意識すら残されていないだろう」
「もう、折角の息抜きなんでしょ。そんな湿っぽい話ししてないで楽しみましょうよ。ね、シャルド様」
「え?」
「そうですよ、あそこに売店もあるみたいですよ。美味しい物もあるみたいですし行ってみましょう」
リーズとカリンはシャルドの手を掴み引っ張った。
「わわわ」
「私も行くー!」
美味しい物となれば私も行くに決まっている!
「おっと、置いて行かれそうですな。御主人殿も急ぎましょう」
(行きます行きます)
二人の気に当てられたのかシャルドも穏やかになり、それからはこの展示会を思う存分楽しんだのだった。
家猫のモモ
異世界に転生して人間となる。
御主人(ヒロ)
人間だったけど異世界に転生して白い猫になる。
エリオ・ジ・エイグストン(モモの従者)
レマ・トマトン(旅の同行者、料理人)
ナヴィア・ドライブズ(旅の同行者、馬車の運転手)
リシェーリア・パラノイア(プリスターの司祭今は味方?)
ゼノン・ハイム・ディラーム(ラヴィーナの従者)
王子シャーン(元気な少年)
王女ルシフェリア(元引きこもり)
王女ラヴィーナ(格闘が得意)
王女イブレーテ(妹弟ラブ)
王子パーズ(恋焦がれる男の子)
王女アンリマイン(泣き虫)
シャーンのお母さんテルナ
ウィーディアの女王。
爺
シャーンやテルナの付き人。
フルール・フレーレ(王女様)
ラヴィーナの師匠で格闘家。
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
モモの教育係。
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
冒険者、エルフの姉妹。
ベノム(ブレードバード隊、隊長)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(里帰り中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




