イブレーテ、愛の重さ
ニャンコパラダイスの誘拐事件がある程度解決し、私達はウィーディアに帰る日になった。
王様であるレオ、ノラやベル達にも見送られてまた長い旅に出たんだ。
すっごい時間がかかってやっと帰って来たウィーディア。
シャーンやルシフェリア、アリアと感動の再開を果たしたのだけど、何故かお勉強が始まってしまう。
そんな時に現れた新たな人物。
イブレーテという王国の王女様(長女)が私達の部屋にやってきた。
なんかシャーンやルシフェリア達と仲が良い私が許せないんだって。
イブレーテといったこの子、怒った顔をしていなければ凄く整った顔をしていると思う。
眉毛も切れ長く、体格もスラッとしててモテそうだ。
まだまだ子供だけれど、大人びた雰囲気も持っている。
「うーん、どうすればいいのー?」
でも、そんな子が私に何を求めるのか?
「お前は母様にも認められているようだからな、私の権限では追い出すことなど不可能。だが貴様が自ら去るというのであれば誰も止めたりはしないはずだ! だから私と勝負しろ、そして負けたらこの城から出て行くがいい!」
「えー!」
「あの、イブレーテ様、モモさんの戦歴を知って言っているのでしょうか? かなり手に負えないぐらいの強さをもっていますよ?」
「ふん、そんなものは噂に尾ひれが付いただけにすぎん! さあ勝負しろ!」
イブレーテは私のお鼻をムギュギュギュギュッと押して来る。
ちょっと嫌だ。
「いえ、噂ではなくて本当なのですけど、聞いてはいませんか」
「御主人、どうしよう?」
指を鼻先から外して御主人に聞いてみた。
(相手は王女様だからね、変に倒したら不味いんじゃないかな?)
「えー、じゃあ私ここを出て行かなきゃいけないのー?」
皆と会えなくなるのはすごく寂しいな。
(うーん、一度シャーンのお母さんに相談してみたらどうかな?)
「そっか、それはいいねー。アリア、私お母さんのところに行ってくるよー」
「テルナ様に御相談されるのですね、それは良い考えかもしれません。イブレーテ様が何か行動を起こす前に早く行って来てください」
「なに、母様の下に行くだと!? そんなことはさせるものか!」
イブレーテは椅子から立ち上がった私を阻止しようとしてくる。
でもそんなのには負けないし、走り出したら追いつかれたりしないんだよ。
お母さんがいつも仕事している部屋に向かって全速力!
到着した頃にはイブレーテの姿は見えなくなっていたんだ。
そしてトントンとノックして、
「モモだよー、入っていい?」
「あらモモさん、扉は開いているからご自由にどうぞ」
「うん、えっとね、イブレーテがね――」
私は部屋に入ってお母さんに説明しようとしたけど、
「わー、わー、わあああああ!」
丁度よくイブレーテが部屋に現れて私の言葉を防ごうとしている。
「あらイブったら、私に聞かれたら困る話でもあるのかしら?」
「ありません! では失礼します!」
っと私の手を掴んでくるけど、絶対動いてあげないよ。
「この子がね、私を町から追い出すんだって」
「……あら、詳しく聞きたいわね」
ニッコリ笑っているお母さんの顔が若干怖いけど、私に向けられたものじゃないから大丈夫!
「あ、少し用事を思い出したので失礼します」
「イブったら一体何処に行く気なのかしら? まだ退出を命じてはいませんよ?」
イブレーテの逃げ場を防ぐように扉がひとりでにバタンと閉まった。
誰も居なかったはずなのに、これも風を操るお母さんの力なのかも?
「イブ、自分の口から説明なさい」
「はい……」
イブレーテは顔を下げ、一度深呼吸すると、
「私はシャーンとルシフェリア、それに他の兄妹達をものすごく愛しています! 私が攫われて奴隷として扱われてから彼等だけが心の支えだったのです。だから絶対誰にも渡したくない、私は七人の兄妹と母様と父様がいれば充分なんです!」
「……ハァ、そんな話をされてもねぇ、別に結婚するわけでもないし、ただのお友達なのだからイブも一緒に遊べばいいじゃないの」
話を聞いたお母さんはちょっとあきれ顔だ。
「ルシフェリアはともかく、シャーンはどうか分かりませんよ! ずっと遊んでいたらコロっといっちゃうかもしれないじゃないですか! 将来そうなったらどうするんですか、こんなでっかいのを妹として扱えません!」
「そんな果てしなく遠い将来のことを云われてもねぇ。いいからもう仲直りしなさいよ」
「嫌です!」
「あらそう、じゃあ女王として命令するわ。今から一週間モモさんと行動しなさい。それで仲良くなること。もし危害を加えたりしたら、分かってるわよね?」
「ど、どうしても……?」
「どうしてもよ。当然だけど、寝る時も一緒だからね」
「ううぅ」
泣きそうな顔をしていてちょっとだけ可哀想に感じる。
もう仲直りしてもいいかな。
「よしよし」
私はイブレーテの頭を優しく撫でた。
「さ、触るな!」
「あらあら、モモさんはイブともお友達になりたい感じよ。イブも意地を張っていないで仲良くしなさい」
「……分かりました、母様の命令ならやります。やればいいんでしょ!」
やけくそ気味ではあるけど、仲良くなれる切っ掛けが掴めるかも?
「じゃあ決まりね、イブはモモさんのお部屋に泊めてもらいなさい。寝具等は用意させるわ」
「お願いします……」
そしてまた落ち込んだみたい?
「じゃあ一緒にいこーね!」
私はイブレーテの手を取った。
「だ、誰が貴様などと!」
「イブ……」
「行かせていただきます……」
お母さんにギャンと睨まれ観念したみたい。
「では退室しなさい。私もそこそこ忙しいのよ」
追い出されるように部屋を出て部屋に帰って行くのだけど、
「おい、そろそろ手をはなせ!」
外に出た瞬間私の手はイブレーテによって振り払われた。
「いいか、母様のてまえ七日間は我慢してやる。だがその先に馴れ馴れしくしてみろ、その時はどうなっても知らんからな!」
イブレーテは演技する気満々みたい。
そんなことをしなくても普通に仲良くなればいいだけなのに。
なんか逆にやる気が出てきたかも。
「今日は一緒に寝ようね!」
「くぅぅ!」
私の言葉にちょっと悔しそうな感じ。
そのまま部屋に戻ると、
「お帰りなさいモモさん、イブレーテ様。その様子だと仲直りはできたみたいですね」
アリアは部屋を片付けながら私達を待っていてくれたみたい。
(モモ、おかえり)
御主人はちょっと眠そうにあくびをしている。
「アリア、御主人、ただいまー!」
「アリア、私達は仲直りなどしていない! 母様の命令で仕方なくこうしているだけだ!」
「あら、どんな事を云われたのですか?」
「……この部屋に泊まって仲良くしろと」
「そうですか、それではモモさんと一緒にお勉強しましょうね」
「べ、勉強!? 私にはもう必要ないものだし、そういうのはちょっと……それにほら、王女の仕事とかあるし!」
「あらあら、遠征から帰還されたばかりでお休み中でしたのでは?」
「いや、その、あの……」
イブレーテってもしかして……。
「お勉強苦手なのー?」
「そ、そんなことはない。私の手にかかればどんな問題であろうとたちどころに解いてみせる!」
っと、拳を握り込んでいるけど、顔は脂汗だらだらだ。
「では何も問題ありませんね。では授業を再開します。イブレーテ様、安心してください。問題の途中からでなく、ちゃんと最初から始めますので。もし分からない場合は聞いてくださいね」
「くうぅ!」
すごいダメージを受けている感じ。
やっぱり授業でも頭を抱えまくっているみたいで勉強は得意じゃないのかも。
ここは私が良いところを見せてあげよう。
「――モモさん、これは幾つだと思いますか?」
丁度よくアリアからの質問が飛んできた。
これは前にやった計算のやつだ。
えっと、あれとあれをこうして、こうなるから……。
「えっと……十八!」
充分に考えて導きだされた答えを伝えた。
「……全然違います。じゃあイブレーテ様応えてもらえませんか?」
でもなんか違ったみたい。
しっかり考えたのになんでだろ?
「ふん、この程度の問題で手こずるとは、貴様もしやバカなのではないか? 代わりにこの私が答えてやろう。十八じゃないとしたら十九だ!」
そうか、一つ数がずれていたのか。
今度は間違えないようにしよう。
「……やはりもう一度基礎の基礎からやり直すしかありませんね」
そしてなぜか私達はみっちりたっぷりと勉強をさせられてしまった。
でもイブレーテとはちょっと心が通じたような気がしたよ。
本当に何でだろう?
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




