導き出せ、真実の一言
アインハルトがニャンコパラダイスに到着し、その顔を見ることが出来た。
とりあえず今日や休むことになっているから私が看板娘を務める(変装)宿でお持て成しをしようとしたけど、何にもしなくて良いと断られてしまう。
ノラがアインハルトに接触したのを観察していると、アインハルトが二重人格なんじゃないのかという感じになる。
まあそれは関係ないし、夜に作戦が開始された。
誘拐犯を捕まえたという声。
犯人はアインハルトが指示したと自白して私達のいる宿にやってきた。
顔を青ざめさせるアインハルト。
自分の状況を理解しているのかもしれない。
「アインハルト・ディ・グライナス、誘拐を主導した罪により貴公を捕縛するニャァ! 大人しく縛につくニャァ!」
「ど、何処にそんな証拠が!?」
「とぼけるな、お前の部下であるこの男が自白したのニャァ。正直に白状するのならば減刑もあり得るが、そんな態度ではどうしようもないのニャァ!」
クロはこれが証拠だと捕まえていた男を前に突き出した。
「わ、私は伯爵だぞ! こんな態度をとってどうなるか分かっているのか! それに私はそんな下っ端の男なんて見たことも聞いたこともないぞ!」
まあやっぱりノラが使っていただけの下っ端であれば顔を知っているはずはないかも?
「ほぉ、こいつが下っ端だと良くお分かりのようだニャァ。それにこれはそちらの国の王もご存じの話しなのですニャァ」
「な、なに、王も知っているだと!? ま、待て、私はその男の顔が下っ端に見えただけで別に知っているという話では!?」
瞬時、うろたえ青ざめていたアインハルトの雰囲気が変化した。
顔は自信が満ち溢れ、背筋をピンと立たせてクロを見下げるように目線を動かしている。
「もうよい、これが芝居であろうとなんであろうと私達を逃がす気などないのだろう。だったら認めてやろうではないか。この私こそ、このアインハルト・ドッペルこそが貴様等の捜していた大ボスだということをな! アインハルトよ、貴様は事が終わるまで引っ込んでいろ! ここは私一人でも充分なのだからな!」
「ようやく認めたかと思えば、この人数相手に抵抗をする気かニャァ! 怪我をしないうちに降伏したらどうだニャァ!」
「ふはははは、どれだけ群がろうと雑魚は雑魚おおお! 宿願と呼ばれた力を見せつけてやろう! 発動せよ、凄惨なる時間!」
「ニャ……ァ!?」
ドッペルの体から八本の光の柱が伸びて町全体に広がっていく。
クロや他の皆は目を見開いた感じで全く動かない。
いや、よーく見るとほんの少しずつ動いている感じだ。
「この魔法に制限時間など存在しない。一人一人ゆっくり刻んでゆっくり脱出してやろう。まずはお前からだ!」
ドッペルがクロの頭に剣を押し当てようとしている。
そんなのは絶対ダメだし、
「にゃあああああ!」
私は開けておいた窓からピョンと飛びだし、その剣を蹴り飛ばした。
「ば、バカな、貴様、なぜそれほど軽やかに身動きが取れているのだ!?」
確かに普通に体を動かそうとしてもあんまり動かないけど、腕を動かす時も足を動かす時も、こうシュっていう感じで素早く動かせばいい感じになるんだよー。
「うーん、気合かなー?」
でも口を動かすのはちょっと顎がつりそうかも。
「魔法が気合で何とかなってたまるかあああ!」
ドッペルは何だか訳の分からない物を見ている感じだ。
「でも動けてるしー」
「……そう、確かにそうだ。この空間の中で動くお前は私の敵に違いない。今後の安心のためにも、ここで必ず倒してやるぞ! 出でよ、究極の力、獄炎の水晶!」
そしてやっぱり戦うことになるみたい。
ドッペルの手の平に球体のような物が出現し、その中で炎が渦巻くように燃えている。
あれで何かしてくるつもりなのだろう。
でもその前に倒しちゃえば問題無いよね!
「行くよー!」
私は胸にあるペンダント(キャットスレイヴ)に手を伸ばし、剣状に変化させようとしたんだけれど、その変化は物凄くゆっくりだ。
「あれー?」
「何をしようとしているのか知らぬが全て無駄だ。私の減速空間に浸食されているのだからな! さあ此方からも行くぞ!」
ドッペルの持つオーブがピカッと輝く。
何か分からないけれどここは危険かも!
急激に体を動かすと、その場所に赤い熱線のようなものが放たれた。
無事に回避はできたけれど、後ろにあった宿が一瞬だけ轟轟と燃え、炎の揺らぎもスローモーションに変わる。
その中に居るのは御主人とリーズとカリン。
三人の身が心配だ。
何だか、何だか背中がゾワっとする!
「おっと、その顔はなんだ? もしかして中の奴等が心配なのか? 飛んだ弱点を見つけてしまったな。だが安心しろ、私がこの空間を解除しなければ炎に浸食されることはない。さあ、助けたいのなら入ってみるといいんじゃないか? 行けよ、ほら、行けよ! 時間を与えてやるって言ってるんだよ!」
これは罠。
入ったらこの魔法を解除する気だ。
でも、それでも三人を放っておけない。
私はドッペルに背を向け宿の中に入って行く。
「バカめ、解除しない訳がないだろうが! 凄惨なる時間解除! そしてぇ、邪魔な奴等が動きだす前にもう一度発動だああああ!」
時間にしてほんの数秒、宿屋は一瞬にして炎の中に呑みこまれた。
すごくすごくチリチリする。
「ははははは、勝った。唯一この空間に入れる存在に勝利したぞ!」
何だろうこの、この怒りは。
野生が解放されるようなこの怒りは。
「シギャアアアアア!」
三人を助け出しても何だか全然収まらない!
「き、貴様、あの短時間でどうやって脱出を!?」
もうこんな奴と話してもあげない。
踏み出した足の指先、地面にかかる感覚。
怒りに呼応したように私の肉体が活性化する。
これは全力超えてた全速力!
「ば、バカな、消えた、だと!?」
このスローな世界でも見えないぐらいのスピードだ。
鋭い爪で切り裂けばもう二度と起き上がることはない。
でもそれは御主人の望みじゃないんだ。
殺さないように、ほんの少しだけブレーキをかけながら、拳を!
「はなーつ!」
「なっ……がはああああ!?」
その衝撃だけでドッペルは高く高く空中に舞い上がる。
落ちたらきっと死んじゃうだろう。
すっごく見守りたいけれど、
「きーっく!」
「ぐぼぶへえええええ!?」
その気持ちを抑えて頭からの落下だけは回避してあげた。
ちょっとスッキリしたから後で回復してあげようかな。
死んじゃったら御主人に怒られちゃうし。
でもまだゾワゾワするし、もうちょっとだけこのままにしておこう。
「これは、一体どうなっているのですかニャァ!? か、火事ですかニャァ!?」
アインハルトが気を失い、クロが普通に喋り出したみたい。
ということはもう変な空間が解除されたのかな?
後ろの宿が全面燃えちゃってる。
凄い熱気で、離れていてもちょっと熱い。
「まさかアインハルトがやったのですかニャァ!? 奴は何処に行ったのですかニャァ!?」
「あそこだよ、もう倒しちゃった」
私は壁にぶつかって倒れている瀕死のアインハルトを指さした。
「それは良い報せですニャァ。ですがこのままでは大火事になってしまいますニャァ。早く消化しなければですニャァ!」
クロがアインハルトを拘束して消火活動を始めようとしている。
「クロ、そいつ変な魔法使うんだよー。気を付けないと動きが止まっちゃうんだ」
「む、それは気を付けねばなりませんニャァ。ですが知ってしまえば問題無いですニャァ。急ぎ制約の首輪と魔術拘束具を使用しますニャァ。付けてしまえばもう二度と勝手なことは出来ませんからニャァ」
「そっか、がんばってね!」
私はクロに手を振って宿から助けた三人の下へ。
「……は? 何これ!? 何でこんな所にいるの? 何で宿が燃えてるのよ!?」
「訳が分かりませんね。ちょっと熱いです」
到着するとリーズとカリンは自分の状況が分からず混乱しているみたい。
でも御主人は案外落ち着いているかな。
(もしかしてモモが助けてくれたの?)
「そうだよ、御主人、誉めてくれてもいいんだよー!」
(それはありがとうね、助かったよモモ)
「わーい、誉められた―!」
御主人に誉められてピョンと飛んで喜んだ。
「……まあよく分からないけど、私達も消火活動を手伝いましょうか」
「そうですね、ボーっと見てるよりはその方がよさそうです」
「うん、そうするよー!」
私達はクロの下に向かい、指示を貰ってバケツリレーに参加したよ。
結構時間がかかったけれど、ちゃんと消火することができたんだ。
他の被害もなかったよ。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




