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ここから始まる私達の新生活

 シャーン達に連れて来られた町。

 私達はデッカイ城の前に到着していた。

 なんとシャーンは王子ということで御馳走も期待が持てそうだ。

 中ではブルースという男と出会い、兵士達の集まる食堂で美味しい料理を御馳走になった。

 それからシャーンのお母さんに会うことになり、私達は城の奥へ。

 部屋に入ると緑髪の女の人が紐の玩具で私達を誘って来た。

 本能が告げる、あれはやらなければならないと。

 私と御主人は思う存分遊ばれたのだった。

 そして何かお城で働くことになるが、その前にお勉強が待ち受けていた。

 ここで暮らす為に私と御主人はお城の中にある広くて綺麗なお部屋を貰ったの。

 大きな窓があって日当たりも良いし、ガラスのテーブル、全身鏡とかも置いてある。

 だから私は自分の姿を初めて見たよ。


 頭の上には耳、銀髪は肩まであるし、まん丸で大きな瞳は黄色く輝いている。

 白くてすべすべな肌は触っていて意外と気持ちいいし、胸のオッパイもそこそこ大きいのかも?


 人の感覚はよく分からないんだけど、これは結構美人さんなのではないだろうか?

 そんな私は今日からお勉強をしなければならない。


「わたくしアリア・ファイリーズと申します、これからモモ様の教育係となりますので、どうぞよろしくお願いしますね」


「よろしくねー!」


(よろしくね)


 部屋にやって来たのは、ふわふわな金髪と青い瞳の、優しい表情をしている女の人だよ。

 たぶん十六、十七、人間ならそのぐらいの年齢かも。

 オッパイはあんまりない。


「モモ様、いったいどこを見ているんですか!」


「アリアのオッパイ」


「えっと……見ないでくれませんか?」


 アリアはオッパイを隠すようにして照れている。


「何で?」


「何でって云われましても……その、恥ずかしいからです!」


(モモ、人のオッパイとかジロジロ見たらダメだからね)


「はーい」


 よく分からないけど、とりあえず手を挙げておいた。


「なるほど、これは手強そうな感じですね。ビシビシいかせてもらいますので覚悟しておいてください!」


 そして私は色々な勉強をすることになった。

 でもその前に。


「待って、私、トイレに行きたい! どこ?」


「ああ、おトイレは部屋の外ですね。案内しましょう」


「御主人、行こう!」


(ごめん、僕は恥ずかしくてやり方を教えてあげられないんだ)


「そーなの?」


(うん、そーなの、女子トイレは覗くのを躊躇っちゃうし、アリアさんに頼んでみたらどうだろう)


「うんわかった、じゃあアリア、トイレの仕方を教えてね」


「え、まさかそんな所まで!?」


 アリアは怖いような恐ろしいような物凄い顔をしている。


「早く、漏れちゃうよ! 出来れば見せてくれると嬉しいな」


「えええええ!?」


 私はアリアを連れてトイレに向かい、色々とやり方を仕込まれた。

 それから何故かすごく疲れたれた表情になったアリアにより色々なことを教わったのだけど、


「ごめんなさーい!」


「こらー、裸で走り回るなー! 待てえええ、モモおおお!」


 数日後、私はアリアに追われて人生最大級に近いピンチを迎えていた。

 これはカラスに襲われた時よりもピンチかもしれない。


 最近はご飯からトイレまで様々な所で私を監視し、ありとあらゆることに対して文句を云ってくるようになっていた。

 マナーだ、お勉強だ、数字がどうだ、と私の頭の中はもうチンプンカンプンだ。


「御主人、助けて―!」


(でも裸はダメだと思うよ。モモ、ちゃんと服は着ようね)


「えー!」


 最初は凄く優しそうだったのに、一体なんでだろう。

 素手でご飯を食べたからか?

 皆がいる廊下で裸になって走り回っていたからか?

 それとも全然勉強ができないからだろうか?

 シャーンを呼び捨てにしたからだろうか?

 おトイレのやり方が分からなくなったから勝手に見せてもらったことだろうか?

 うーん、どれだろう?


 まだシャーンとも遊べないって云うし、これは困った、これは困った!

 いっそ御主人を連れて逃げてもいいかもしれない。

 そう考えた私は、この夜早速御主人に相談したの。


(え、逃げたいって? でも行くところなんてないんだよ。ほら、ここから出て行ったらこの部屋も使えなくなっちゃうし、シャーンとも会えなくなるし、美味しいご飯も食べられなくなるよ?)


 そう、確かにここのご飯はすごく美味しい。

 それにこのフカフカのベッドと綺麗な部屋は意外と気に入っている。

 それでも我慢できないものはできないの。

 でも大丈夫、ちょっと勉強したからある程度のことなら理解できるんだ。

 その事に関してだけはアリアに感謝だよ。


「御主人、私お金持っているし、きっと大丈夫!」


(まあ確かに天使様から貰ったお金はあるけどね)


「じゃー脱出しよー」


 私は御主人をしっかり抱きしめた。


(いや待って、いきなりいなくなったら皆が心配しちゃうから書置きぐらいのこしとこうよ)


「うーん、わかったー!」


 私は羽ペンを使い机にあったノートに『かえる』っと書く。

 これも勉強して覚えた文字なの。


(でも流石にもう遅いし、明日にした方がいいんじゃない?)


「大丈夫、猫は夜の方が得意だし。走ったりしていたし!」


(まあ、それはそうなんだけど。……どうせ僕には止める力はないし、気が済むまで付き合うよ。でも気が済んだら戻って来ようね)


「私は戻らないもん!」


(はいはい)


 私は今まで来ていたパジャマを脱ぎ、ここに来た時に着ていた服に身を包む。


「じゃあ御主人、出発するねー」


(待って、そっちは窓、ここは三階だよ!?)


 私は上に開く窓を動かした。

 下にはかたい地面があるけど、そのぐらいなら普通に着地できる。


「そのぐらい平気だよ。じゃあ行くね」


(うわー、高い高い高い高い!)


「御主人、暴れたら危ないよ!」


 元人間の御主人にはこの高さは恐怖しかないらしい。

 このまま騒がれたら誰かに見つかってしまうし、


(ぎにゃああああ!)


 騒ぐ御主人を手に私は一気に飛びおりた。

 近づく地面に両足を合わせる。

 膝のクッションを使い、着地の衝撃を殺して地面にスタッと着地。


(こ、怖かった。ドキドキする)


「でも大丈夫だったよ。じゃ、どこか行こう御主人!」


 私はもちろん御主人にも痛みのようなものはなく、全然怪我もない。

 前の姿と全く同じ感じで体を扱えている。


(夜の町か、危険なことがないといいけど。モモ、気を付けてね)


「うん、気を付けるー!」


 それから人の気配を探り、誰にも見つからない道を選ぶと、高い塀を乗り越えたのだが、


「侵入者……、いや脱走者が出たぞ! あれは……モモ様だ!」


「直ぐにアリア様にお知らせするのだ!」


 私はいきなり見つかってしまったみたい。

 追いかけて来られない内に町中に走りだした。

 ほぼ真っ暗だけど、所々灯りの付いている建物もある。


 ジョッキに翼が生えた看板。あれは確か、冒険者のギルドとかアリアが云っていたような?

 でもそんなことよりも、中から楽しそうな笑い声や美味しそうな匂いがする。


「御主人、入ってみよう!」


(モモ、お腹減ったんだね)


「うん、すっごく!」


(お金はあるから良いけど、何があるか分からないんだから気を付けるんだよ。襲ってくる人だっているかも知れないんだから)


「はーい、気を付けまーす!」


 私達は冒険者ギルドの中に入っていく。

 無数にあるテーブルの席には美味しい料理を食べ、酒を飲みながらガハハと笑う冒険者達がいたよ。

 私達が入って来たことなんて誰も気にとめていないみたい。

 とにかく何かを食べたいから空いている席に座ると、


「いらっしゃいお客さん、この町は初めて?」


 料理を運んでいたウェイトレスさんに声をかけられた。


「ご飯が食べたいから何か持ってきてー!」


(僕も食べられる物があったらいいな)


「御主人の分も!」


「何処かしらのギルド証を提示していただけたら用意できるけど」


「ギルド証?」


「あー、ギルド自体が初めての方か。受付でお金を払っていただければ発行できるよ。どう、試してみない?」


(あ、ファンタジーで定番のイベントだね。モモ、やってみよう。ご飯も食べられるようになるし)


「うん!」


「じゃこっちに来てね」


 私達は厨房とは別のカウンターの前に。

 案内してくれたウェイトレスさんがその中に入り、何か書類を用意しているよ。


「まずは、これにサインをお願いね」


(モモ、読めるの?)


「大丈夫だよ!」


 アリアの勉強のおかげである程度は読むことができるようになったの。

 このギルドに敵対しないとか、人に迷惑かけないとか、そんな事が書かれていたよ。

 私は自分の名前を書き込み、その紙をウェイトレスさんに手渡したの。


「ん、確かに。では能力値を計るわね、この水晶玉に手を当ててみて」


「うん」


 出された水晶玉に手を当てると、ピカッとオーロラのような輝きが。


「にゃああああ!?」


 体の中に何かが流れ込み、水晶玉を掴んでいる手の中に何かが作られてゆく。


「もう放してもいいわよ」


 云われた通り手を放すと、手の中に私の顔が入っているカードがあった。

 何か色々書いてあるっぽい。


「……これは……すごい。力が五百、スピードが七百!? これは上位職業を十年修行し続けた者を遥かに凌ぐもの凄い数値。上限値が二百を超えるぐらいだといわれているのに、これは正しく超人レベルだ!」


 向う側からも見えるのかな?

 ウェイトレスさんがこのカードに書かれたものと同じ数字を読み上げている。


『な、なにいいいい!?』


 そして座っている皆さんが驚きの声を上げる。

 バカ騒ぎも忘れて近くに寄ってきたの。


「是非俺達のパーティに入ってくれ!」


「まて、こちらが先に目をつけていたんだぞ!」


 これは私を誘っているのかな?

 でもグイグイ来られるとちょっと引いてしまう。


「御主人どうしよう?」


(うん、こういうのは相性だから、簡単に選んじゃダメだよ)


「そっかー」


 どうお断りしようか悩んでいると、


「……しかし何だろうこの猫という職業は? そもそも職業選択もしていないのに。こんな職業は見たことが無いし、もしかしてシステムに不具合が? それなら納得もできるけど」


 ウェイトレスさんがうんうん唸っている。


「ねぇ、もう一度やってもらっても?」


「ご飯作ってくれるならいいよー!」


 と、私はもう一度やってみるのだが、結果は全く同じだった。


「これは本格的な修理が必要なのかも」


 ウェイトレスさんは水晶玉をいじくり回している。


「……なんだ、不具合かよ」


「あー、驚いて損した。そりゃそうだよな、有り得ないよな。悪い、さっきの話は、なしで頼む」


 それを聞いた冒険者は興味をなくしたように私の前から去り、残してあった食事に手を付けた。

 ちょっとだけモヤモヤするけど、それよりこちらも食事だ!

 カードを作ったからご飯が食べられる!

 変な小言を云われなくてもご飯が食べられる!


「じゃあ、ご飯ください!」


「いや不具合が……はぁ、仕方ないか。今回だけ特別に用意するね。次来た時にはカードを作り直すのが条件だから、もちろん料理の代金は頂くよ。あ、代金は先払いね」


「はーい、御主人の分もお願いね!」


 ついに私と御主人は食事にありつくことに成功した。

 これは城で食べていた物と遜色がないぐらいに美味しい。

 食べ続けていると、バーンとギルドの扉が開かれたの。


「緊急で依頼をしてもらいたいことがあります! 猫の獣人さんを捜し出してほしい……見つけたああああ!」


 誰かと思えば、私達が逃げる原因になったアリアだよ。


「御主人、見つかっちゃったよ!」


(モモ、お腹もいっぱいになったし帰っても良いんじゃない?)


「えー!」


「モモさん、帰らないとお仕置きですよ? さあ早く」


 アリアの額に青筋が立っている。

 ちょっと背筋がブルっとしたよ。


「御主人、助けて―!」


(無理無理、無理だから!)


 私は御主人の体を抱きしめて振るえていると、アリアは、ハァっとため息を吐く。


「わたくしも悪かったです。感情的になって何度も怒鳴りつけたりしてすみませんでした。さあ、帰りましょう」


 そして頭を下げて謝ってくれたの。


「御主人……」


(謝ってくれたんだし戻ってあげてもいいんじゃないの?)


「うーん、わかったー! 私帰るー!」


「分かってもらえて嬉しいです。もしもの時は力づくで、と思いましたけど、これは必要ありませんね。それでは戻りましょう」


 アリアは背に隠してあったひも付きの首輪を取り出した。

 何か光っている文字が書かれている。

 あれを私につけようとしていたのか。

 御主人がくれた物以外は着けたくないなー。


「まだご飯あるよ、アリアも一緒に食べよー!」


「はぁ、仕方ありませんね。残して帰るのも勿体ないですし」


 今回はマナーのことは云われずに楽しい食事ができていた。


「さてと、充分な食事も頂きましたしそろそろ城に帰りましょう」


「私もうちょっと食べたいぞ。注文しまーす!」


「あなたはどれだけ食べる気ですか! ブクブクに太ってしまいますよ!」


(僕もそう思うけど)


「大丈夫、私運動するし!」


「はぁ、もう付き合っていられません。私は先に戻っていますから、モモさんは必ず戻って来て下さいね。絶対ですよ!」


「はーい!」


 私は元気に返事をして食事を続け、満腹になってからお城に戻ったよ。

 けれど、朝になってもアリアが現れることはなかったの。

家猫のモモ

御主人ごしゅじん(ヒロ)

王子シャーン

シャーンのお母さんテルナ

グリフ・リスマイヤー

青鎧のブルース・グライブス

教育係アリア・ファイリーズ


剣と魔法の世界 ミドレイス

翼の生えた子供 ウリエリア

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