ドンドコマウンテン
真夜中に起きた事件、私は宿を飛びだしクロの下へ。
事情を聞いて誘拐が起こった知る。
手伝うと声をかけて一気に走り出し、宿で見た男に追いついた。
抱えているのは小さな子供、声も上げることも無くぐったりしている。
私はその子をそっと掴み、男をパシっと叩きのめした。
それから追いついて来たクロにもう一度叩きのめされ男は連れていかれたのだった。
次の日、私は王様に謁見して手伝うと伝え、クロと共に西にあるドンドコマウンテンに向かって行く。
「クロ、ドンドコマウンテンってどこー?」
ドンドコマウンテンに出発する間際。
私はその場所をフェンリルに乗っているクロに聞いてみた。
「あれだ、あの先に見える山がそうだニャァ。かなり大きな山だから奴等の住処を見つけるだけでも一苦労だニャァ」
クロが指をさしたその山は、ここからでも見えるぐらいの大きさみたい。
「そっかー、じゃあ迷わないねー!」
それならいちいち方向を聞かなくても大丈夫。
「うむ、それでは行くとしよう。しかし勇者様はフェンリルに乗らなくてもよろしいのですかニャァ?」
「うん、大丈夫だよー!」
(ほぅ、自信があるようだが、我の本気のスピードについて来られるかな? 置いて行かれて泣くのではないぞ?)
「フェンリル、がんばって。じゃあもう行くねー! 皆、また後でねー!」
私は後に控える皆に手を振った。
「ええ、時間がかかりそうだけど追いかけて行くわよ」
「はい、こちらの準備も整いましたからね」
「心配はいらぬと思いますが、モモ殿、お気をつけて」
(モモ、行ってらっしゃい)
「うん、行ってくるね―!」
私はリーズとカリンとグリフ、それに御主人にもう一度手を振って思いっきり走り出した。
(うおおお、速いいいいいい!?)
フェンリルが遠ざかって行くけど、目的地が分かっているから大丈夫!
ドンドコマウンテンがドンドン近づいて一時間もしない内に到着した。
ここは大樹が多く茂る緑がいっぱいの山。
トゲトゲで肌が切れそうな葉っぱ、服なんかにくっ付いてくる植物、見たことも無いキノコ類なんかも多いみたい。
地面には落ち葉が積もり、あまり雑草などは生えていないかな。
狂暴なモンスターや毒のある生物なんかも潜んでいるかも。
私はフェンリルとクロを待っているけど、その姿は遠くて全然見えない。
……これはまだまだかかりそう。
今のうちに山の気配を探ってみると、動いているものの気配を感じた。
ピョンピョン跳ねる動物、獲物を狙う中型の動物。
捜しているのはそういうのじゃない。
もうちょっと奥、人の気配はどこ?
深く集中して動く気配を見つけた。
十、二十、三十、もうちょっと多いぐらい。
その中には小さな気配もいくつもある。
間違いない、捜していた誘拐犯達だ。
遠ざかって行くからクロを待っていたら探知範囲から出てしまうかも?
うーん、これは追いかけた方がいいっぽい?
悩んでいる間にも一人範囲外に消えて二人範囲外に消えて三人範囲外に消えていく。
待っていたら手掛かりがなくなっちゃいそう。
ここはもう行くしかない。
それにフェンリルだったら私の臭いを追ってくることもできるはず。
やることを決心した私は山の中に足を踏み入れた。
邪魔な植物はキャットスレイヴでヒュンと切り裂く。
落ち葉を踏みしめ山を走り、気配が遠ざかるよりは早く移動できている。
その内追いつくことが出来そうな感じ。
ほらもう少し、もうちょっと、あと一歩!
「見つけた!」
二十人以上の悪者と、縛られ裸足で歩かされているストレイキャットの十人の子供達。
体は汚れて叩かれたような傷もある。
「怖いニャー、助けてニャー!」
「お家、帰りたいニャー……」
「うるせえ黙って歩け、もう一度ぶっ叩かれたいか!」
泣きじゃくって声を出したらもっと叩かれて……酷いよ、こんなのは絶対に許せない!
「にゃあああああ!」
私は直ぐに駆けつけ、縛り上げられていた子供達を一気に解放し、目の前にいる悪者達をギッと睨みつけた。
「お姉ちゃん……誰?」
後ろから子供達の声が。
すごく不安そうな感じ。
「私はモモだよー、皆を助けに来たんだー! だからね、もうちょっと待ってて、直ぐ家に帰してあげるからねー!」
でも私は後ろを見ずに胸にあるペンダント、キャットスレイヴに手を伸ばす。
「クッ、敵だ、敵襲だ! 相手は一人、一気に囲んじまえ!」
二十人余りの敵が私達を囲んでしまう。
でもそんなのは問題じゃない。
これ以上子供達を怖がらせないためにも、出来るだけ血を見せないように!
「倒しちゃうよー!」
キャットスレイヴを変化させ、無数の手の形状を形作る。
それを一人一人にシュパーンと飛ばして、ぶつけてやった。
「ぎゃば!」
「ぐぎゃあ!?」
「ぬはがぁ!?」
グニョグニョ変化しても元々がかたいから当たればすっごく痛いはず。
奴等は吹き飛んで気にぶつかったりしている。
逃しちゃったのは二人かな。
「これは不味いな。おい、ボスを呼べ!」
「へ、へい!」
誰かを呼ぼうとしているみたい。
でもそんな暇は与えてあげない。
「ぐは!?」
「ぐおおお!?」
更に剣を伸ばし、立ち止まった男と逃げ出した男に強烈な一撃を。
これで全員、私の勝ちだ!
「皆、帰ろー!」
私が声をかけると子供達の顔に笑顔が戻った。
でもそれは一瞬みたい。
一気に曇った表情を浮かべ、その目線の先には。
「隊列が乱れたと思えば、何ニャアこりゃああ!? テメェがやったのかあああオイィ!」
気配も感じず現れたそいつ。
頭に三角の耳が二つ、お尻の辺りからヒョウ柄の尻尾が逆立っている。
今度はつけ耳じゃない。
これは本物、私達と同じストレイキャット。
あいつが悪の親玉。
同じ種族なのに何でこんなことをしてるのか知らないけれど、
「倒すよー!」
誰が相手でも結局倒してしまえばいいだけだ。
私は一気に距離を詰め、そいつの目の前に。
「ああん!?」
拳の形状のキャットスレイヴをブンと振るけど、その男は目視でそれを躱してしまった。
ちょっと今までとは違うみたい。
「クソが、邪魔するんニャねええええ!」
男はナイフを飛ばし、腰の剣を抜き放つ。
だったらもうちょっと鋭く、速く攻撃をするだけだ。
「行くよー!」
「は、はや……!」
一撃目はギャンと受け止められたけど、続く二撃目はもっと速く、もっと速く!
私の速さに次第に追いつけなくなり、
「ぎニャああああ!?」
ついに男は吹き飛ばされた。
「参ったかー!」
「くぅぅ、こいつ化物かよ」
だけどまだダメージが足りないっぽい?
男は懐から何かを取り出す。
あれは前に三人組が使った黒い棒。
黒妖の魔業棒とかいったモンスターが出てくるアイテムだ。
先端から真っ黒な煙がモクモクと広がっていく。
「しゃーニャぇ、取って置きをくれてやらああ。出でよ、魔導超兵器グラディマイオス! 薙ぎ払えええええ!」
危険を感じて飛び退くと、そこに鋭い刃が通り過ぎた。
横にあった大木がグラっと揺れて倒れて行く。
スピードもパワーも相当なもの。
「何か出てくる!」
それからゆっくりと煙が固まって全身が現れた。
これは生き物じゃない。
まん丸な体に二つの伸びた筒状の腕。
手も指先もなく、さっき薙ぎ払った剣が取り付けられている。
頭も足もない、たったそれだけの物体だ。
胴体の下から緑色の光を放ち、空中に浮かんでいる。
そいつは予備動作もなく左右に動き、伸びる腕で剣を薙ぐ。
「きゃああああ!?」
「いやああああ!?」
怖がる子供達。
周りにある大木がバタバタと倒れてとても危険だ。
私は皆を守るためにキャットスレイヴで防御に徹した。
飛んで来る大木を切り、枝や鋭い剣を弾くものの、あまり攻撃にまでは手が回らない。
しかも多少の攻撃では相手の体は凄く手弾かれてしまう。
「防戦一方じゃニャいか。そうら、こっちからも行くぜええええ!」
それにこのモンスターを呼び出した男もナイフを投げつけてくる。
子供達を逃がすにしても、何も知らない山の中を歩かせる訳にもいかないし、うーん、どうしよう。
あ、何か気配が近づいてくる。
「うおおおおおお!」
青い何かが目の前を通り過ぎ、飛ばされたナイフを弾き飛ばした。
(やっと追いついたああああ!)
「勇者様、お待たせしました、お助けいたしますニャァ!」
クロとフェンリルが追いついたみたい。
フェンリルの方はちょっとお疲れ気味だ。
ここまで全力で走ってきたのかも。
「クロ、子供達を助けてあげてー! 私はあいつを倒しとくー!」
「む、承ったニャァ!」
(ならば我は……ふぅ、あの男の相手をしておこう)
息を整えたフェンリルも手伝ってくれるって。
じゃあ私は丸いのに集中しよう。
「子供達、こちらについてくるニャァ!」
「させるかああああああ!」
(こっちこそさせぬ!)
男から投げられるナイフはフェンリルが口で受け止めた。
(貴様こそ、生きて帰れると思うなよ! 霊獣と呼ばれるこの力、存分に味合せてやろう!)
「チィッ、邪魔をするなあああ!」
あちらでも戦いが始まり、子供達はクロに連れられ離れて行く。
あとは、この丸いのを倒せばいいだけだ!
「たああああ!」
私はキャットスレイヴの防御を解除し攻撃に転じた。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




