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美味しいごはんの時間だよ!

 不運にも病気により死んでしまった家猫の私。

 同じく私の御主人までもが命を落としてしまった。

 でも天使様が現れ私と御主人は新しい世界へ転生することに。

 そこは剣と魔法の世界ミドレイス、新たな人生を満喫するべく生まれ変わった。

 でも何故か私は人の体に、御主人は猫の体になってしまった。

 どこかへ向かおうというところで、襲われている子供を見つけてしまう。

 私が頑張って助け出すと、その子共に御馳走してくれると言われて町に向かったんだ。

 ウィーディアという国の首都、レッドーマの町に到着した私達。

 向うの世界で見たものとは随分と違う雰囲気がある。

 硬い地面は黒くはなく、大きな石で造られているし、建物も煉瓦と呼ばれる物が多い。


 町の人達は、人間、耳の長い人、顔が動物の人、翼のある人とか相当種類が多い感じ。

 誰もが単色の衣服を組み合わせている。

 その町の中で私達が向かったのは中央にある大きなお城。


「ここだよ、お姉ちゃん、早く早く」


 パシッと敬礼する門番の前でシャーンが手招きしている。


「御主人すごい。でっかいねー!」


(うんそうだね、すごく大きいお城だね。というかここに住んでいるってことは偉い人だったりして?)


「ご飯くれるなら何でもいいー!」


(そう云うと思った)


「ふふふ、モモ様、御主人殿、驚かれましたかな。実はシャーン様はこの国の王子なのです! とても偉いお方なのです!」


 グリフはバーンと手を広げて今更シャーンを紹介したよ。


「それより早くご飯が食べたいな!」


 でも私はそんなことには興味がない。


「お姉ちゃん驚かないんだね」


「折角驚かせようと思いましたのに……」


 二人とも私が驚かなくてちょっと残念がっている感じだ。


(モモ、ここは驚いてあげないと二人が可哀想だよ)


「えー?」


 もしかして驚かないとご飯が食べられないのかな?


「驚いたー!」


 ちょっとわざとらしく驚いたふりをしてみると、シャーンとグリフの顔が輝いた。

 人間も中々大変だ。


「お姉ちゃん、入って入って!」


「どうぞどうぞ」


 シャーンに手を引かれて城の中へ。

 怪我をした人達は自分達で治療を行うと別れ、今は四人だけになったよ。

 大きく広く豪華な城内。

 町の人達と違い、色とりどりの衣服を宝石で飾り立てた偉そうな人や、武装した強そうな人達が頭を下げて挨拶をしていくよ。

 グリフに聞かされた通り本物の王子様ということだろう。


「あそこが食堂だよ」


 そのシャーンは食堂がある場所を指さした。


「シャーン様、御馳走するのならば貴族方がお使いになられている場所の方がよろしいのでは?」


「服装とかマナーとか堅苦しいしこっちの方が好き。味も負けないぐらい美味しいもん」


「私はどっちでも良いから早く食べたいよ!」


「うん、じゃあ入ろう!」


(モモ、招かれているといってもあんまり失礼なことしたらダメだからね。相手は王子様なんだから)


「はーい!」


 ようやく御馳走が食べられそうだと思っていたら、


「殿下、シャーン殿下! 魔物に襲われたと聞いて心配しましたぞ!」


 前方から青髪で青い鎧を着た青マントの男が走り寄って来ている。

 全部青塗れだ。

 男はシャーンに抱き付こうとしているけど、グリフにより回避させられ床に突っ伏した。


「何をするのですかグリフ殿。折角心配して来ましたのに! 酷いのではないですか!?」


「何故シャーン様に抱き付こうとしている。不敬だぞ、ブルース・グライブスよ」


「シャーン殿下が怪我をしていると聞き、急いで救護室に運ばなければと思ったしだいで! これは愛、愛故なのです!」


「ごめんね、ブルース。平気だから」


 それよりご飯はまだだろうか?


「御主人、先に入っていたらダメかな?」


(あー、ダメだと思うよ。もうちょっとだけ待ってようか)


 こんなに待たされるのなら肉を食べとけばよかった。


「ん、その方は?」


「ああ、この人はモモさん。俺達の恩人なんだよ。今から御馳走するために食堂にここに来たんだ」


「うおおおお、それは素晴らしい方だ。是非歓迎しなければ! さあ、どうぞ!」


 私はブルースという男に背中を押されて食堂の中へ。

 大きなテーブルには大勢の腹を空かせた兵士達が食事をしている。

 シャーンの姿を見ると立ち上がって敬礼をしたんだよ。


「皆は食事を続けていいよ。俺達も食べに来ただけだから」


 一度声をかけると一度会釈をして席に座り、もう一度食事を始めた。

 しかし私は何にも気にせずに前に行く。

 美味しそうな匂いが漂ってくる源泉へ。

 あの大きなカウンターの先にそれはある!

 身を乗り出して足をかけようとしたけど、シャーンと御主人に引き止められちゃった。


「御主人、シャーン、何故止める!? 私は御馳走を食べに行きたいんだよ!」


「待ちきれないのは分かるけど、もうちょっとだけ待っていて、すぐ作ってくれるから」


(そうだよモモ。そっちは厨房だから、ご飯はテーブルで待っていないと作ってもらえないよ)


「そうなのー?」


 確かに台所に登ったりするとお母さんが怒っていたりしたかな?

 ご飯を貰えなくなると困るから従っておこう。


「グリフ殿、変わったお方のようですな」


「まあ悪いお方ではないのは確かだろう」


「爺、ブルース、勝手に注文するぞ!」


『いえ、自分で注文いたします、大好きな物があるので!』


「じゃあお姉ちゃんと御主人さんの分は俺が注文するね」


「うん」


(お願いします)


 全員席に着くとシャーン達が注文を始めた。

 カゴ鳥の丸ごと照り焼き。

 ワタライス。

 ムトナトスープ。

 アンジェ貝の蒸し焼き等。

 鳥とか貝とかは知っているけど、味は全然予測できない。

 ワクワクしながら待っていると、


「来たよ、お姉ちゃん」


 意外と早く私の目の前に料理が並べられた。

 ワタライスは、まん丸のご飯。

 ムトナトスープは野菜とかが入ったトロッとしたスープ。

 アンジェ貝の蒸し焼きは手の平ぐらいに大きな貝。

 そしてメインにドーンと置かれたカゴ鳥の丸焼きだ。

 御主人には味付けのしていない蒸したお肉がポンと置かれている。

 それも脂が乗っていて美味しそうだ。


『いただきます』


 どれから行くのか悩みどころだけど、やはりここは……。

 私はものすごい速度でテリテリした鳥に素手を伸ばした。

 そのままガブリ。

 甘くて辛くて皮はパリパリ。

 お肉はジューシーでプリプリだ。


「美味しー!」


 更に一口、もう一口。

 やっぱり全部食べてしまおう。


(モモ、置いてあるナイフとフォークを使わないと、皆が驚いちゃっているよ!)


「えー?」


 皆が食べる手を止めてしまって私を見ている。

 そういえば向うの世界では御主人も箸やフォークを使っていたね。

 あれを真似しろということか。

 私はナイフとフォークをガシッと掴み、


「あーん!」


 ガシッと肉をぶっさして口の中へ。

 思いっきり噛んだら歯が痛かった。

 これは慣れるのが大変そうだ。

 苦戦しながらも、お腹いっぱいになるまで食べ続けた。


「さて、腹も膨れたところで……。いや先ずは口と手を拭いてくださいますかなモモ殿。そのままでは色々汚れてしまいますからな」


 グリフは私を見て何かを感じているようだ。

 確かに手と口の辺りはベタベタしている。


(だよね、そこにあるタオルを使わせてもらおうよ)


「タオル? これかなぁ御主人?」


 テーブルの上に置いてあった白いの。

 たぶんこれがタオルという物だろう。

 手に取ってみるとちょっと濡れている感じがする。


(うん、それそれ)


 タオルを使って手をグニグニと拭いてみる。

 ベタベタした感覚が吸い込まれてなくなっていくの。

 そうか、ベタベタにならないようにあのフォークとかの道具を使っていたのか。

 私は一つ賢くなったよ!


「よし、終わり!」


 全部終わるとスッキリだ。


「うむ、綺麗になりましたな、ではそろそろ陛下に御目通りしてもらうと致しましょう。シャーン様の命の恩人なのですからお会いになられるでしょう」


「そうですな、ささこのブルースが案内します故について来てくださいませ」


「御主人、ヘイカって、何?」


 あのブンブン耳元に飛んで来る小さな虫の事かな?

 痒くなるから好きじゃない。


(モモ。陛下はこの国の一番偉い人のことだよ。変なことしたらダメだからね。もしかしたら首を跳ねられちゃうかもしれないからね)


「えー、首が飛んだら死んじゃうよ! 私、怖い。御主人、帰ろう!」


 それって、一番偉いってボスなのか!?

 首を飛ばされるぐらい怖いボスなのか!?

 私は野良猫時代を思い出してちょっと恐怖した。


「お姉ちゃん大丈夫だよ、俺のお母さんは優しいから、きっと歓迎してくれるって」


「本当かシャーン?」


「うん、本当だよ」


(シャーン王子が云うなら大丈夫なんじゃないのかな)


「そっかー、じゃあ行くー!」


 私達は城の中をもっと奥に進んでゆく。

 長い廊下歩き、階段を上がり、到着したのは扉の前。

 そこには二人の兵士が突っ立っていた。


「さあ、ここでございます」


「これがシャーンのお母さん……?」


 どう見ても男に見えるんだけど、どちらがお母さんなのだろう。

 まさか二人ともお母さんなのか?

 そこまで怖そうじゃないのが救いだ。


(モモ、きっと扉の中だよ)


「そっかー」


 確かに、部屋の中に誰かいる気配を感じる。

 中に居るのは一人かな。


「それじゃあ入ってくるから、お姉ちゃんはちょっと待っていて」


「うん!」


 シャーン達は扉を叩いて中に入って行く。

 ちょっとだけ待っていると、


「モモさん、入って来てください」


 今まで聞いたことのない女の人の声。

 もしかしてこれがシャーンのお母さんか。


(よし、入ってみよう)


「うん、入るー!」


 前に居る人達に扉を開けてもらって部屋の中に。

 シックながら豪勢な部屋の窓際に緑色の髪の女性が椅子に座っている。

 結構若くて美人さんだ。

 でもそんなことより、その手には長い紐のやつがフリフリされていたの。

 本能が行けって言っているよ!


「も、もう我慢できにゃーい!」


(あー、体が勝手にー!)


 私と猫の体の御主人はシャーンのお母さんに突撃したのだけど、全く動じずに紐をフリフリして遊ばれてしまった。


「あらあら、猫さんが居ると聞いていたのですが、まさかこんな大きな猫さんまで釣れるとは、これは面白いですわね」


 わーい、これ楽しい!

 充分に遊ぶと私と御主人はシャーンのお母さんの前でお腹を見せるぐらいには満足しちゃった。


「モモ殿、流石にここで寝転がるのは少々困ります」


「うむ、確かに、王の御前であらせますしな」


「良いのですグリフ、ブルース、この方はシャーンの命の恩人なのでしょう。このぐらいのことは何でもありません」


「殿下がそう云われるのなら……」


「は、御随意に」


 怒られそうな雰囲気をシャーンのお母さんは止めてくれた。

 この人は優しいのかも。


「それでですねモモ様。我が精鋭の兵士を退ける魔物を退治した腕を見込んでお願いしたい事がございます。どうかシャーンの護衛として城で働いてくださいませんか? あなたはとても信用出来る人物のようですからね」


「護衛ってなにー?」


 私はちょっと体を起こす。


「これからもシャーンを護ってくださいと言っているのですよ。もちろん住む場所も美味しい御馳走も用意致しますよ」


「御馳走!? やるー! 御主人、いいよね!?」


(あー、どっちみち王様の頼みを断れないかも。まだ住む場所も決めてなかったしそれでいいんじゃない?)


「わーい、じゃあそうするー! シャーン、よろしくね!」


 私はこれからここで暮らしていくらしい。

 御主人やシャーンと一緒ならすごく楽しくなりそうだ。


「さてと、そうと決まればする事が沢山ありますな、グリフ殿」


「うむ、確かに、この城で働くのならば色々な作法やルールを身に着けてもらわなければ困りますからな。モモ様には色々と勉強して頂きましょう! 殿下、宜しいですかな?」


「……それはまあ、仕方ありませんね」


「御主人、勉強ってなに?」


(躾とかそんな感じかな。ほら、家でもトイレとか覚えたでしょ。これからも色々覚えていくんだよ。……というか、人間のトイレの仕方も覚えないとね……)


「えー、それは大変そー!」


(僕からは頑張ってとしか言えないかな)


 こうして私達はこのお城で働くことに決定しちゃった。

家猫のモモ

御主人ごしゅじん(ヒロ)

王子シャーン

グリフ・リスマイヤー

青鎧のブルース・グライブス



剣と魔法の世界 ミドレイス

翼の生えた子供 ウリエリア

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