盗賊はどこ?
シャーンやルシフェリアに見送られて、私はキャットパラダイスという国に向かうことになった。
ストレイキャットという私と同じ種族が暮す国みたいだけど、そこに到着するには長い長い旅が必要だ。
リーズとカリン、それとグリフや多くの兵隊さんを連れて出発した。
馬車の中で寝てたんだけど、御主人の声で目が覚めてしまう。
日が落ちた頃に今日泊まる村に到着したみたい。
美味しいご飯も御馳走して貰ったけれど、頼み事も聞かされた。
この先の街道に三人の盗賊が出るらしい。
皆で行っても絶対に出て来ないから、私とリーズとカリンで先行したのだった。
二人を抱えながら草原を走り続けると、遠くの方で人の気配を感じた。
それが盗賊団のものなのかは分からないけれど、ちょっと行ってみるしかないかなぁ。
私は飛ぶように走ってその場所へ。
「あ、誰かいるわ!」
「本当ですね。丁度三人組みたいですけど、なんかモンスターに襲われていますよ?」
リーズとカリンにも目視できるぐらいには近寄ったみたい。
『ぎゃあああああ!?』
大きな壁みたいなモンスターに三人が襲われていた。
四角い体、それに見合わない小さな手。
体の中心についた大きなお口で倒れながら呑みこもうとしている。
襲われているのは何か見たことがある顔。
「あー、アリアを誘拐した奴だー!」
大柄で一番偉そうにしていた奴、細身で眼帯をしてる奴、小柄で髪の毛が尖った奴。
私がお仕置きした三人だ。
「あら、まさか脱走して盗賊をやってたとか?」
「恰好で人を判断するものではないですけれど、バンダナとナイフなんて持ってどう見ても盗賊っぽいですね」
「助けるー?」
「まああれが盗賊だって確証もないしね、一応話は聞いておきたいわ」
「そうですね、ではそういうことで」
「うん!」
悠長に話している間にも大柄の奴が食べられそうだ。
私は二人を地面に下ろし、
「てーい!」
四角いモンスターに急いで飛び蹴りを食らわせた。
ドーンと遠くに飛び、そのまま逃げて行ったみたい。
下の男も大丈夫そう。
「お、お前等あああ!?」
「お、親分、こいつらあいつ等ですぜ!」
「何でこんな所にまで、まさか俺らを追って来やがったのか!?」
でも感謝とかされずに凄く驚いている。
「とにかくさ、逃げられないようにしときましょうか」
「そうですね」
「じゃあ縛っちゃうねー!」
『やめろおおおおお!』
嫌がっていても抵抗する力はほぼない。
簡単に縛ってグルグル巻きにした。
「さて、何でここに居るのかどうか知らないけれど、あんた達がここらを騒がせている盗賊かしら? もしそうなら容赦しないんだけど」
「誘拐犯に盗賊、これじゃあ死刑確定ですね。いえ、その前に拷問されるんでしょうか?」
「待て待て待て待て待て待て待て、俺達はもうまっとうに働いているんだ。ほら見てくれあそこ、あそこに売り物が置いてあるんだよ! 俺達あれを売りに行く最中なの! だから見逃してくれないか!? 母ちゃんだって待っているんだよぉ!」
親分と呼ばれた男は泣きながら近くにあった背負いカゴを指さした。
中にはお芋さんがいっぱい詰め込まれている。
盗賊がこんな物をもっているとは思えないし、もしかして本当なのかも?
「それが本当だとしても過去の罪が許される訳じゃないのよ。大人しく縛に就きなさい」
「そこを何とか!」
「お願いします!」
「頼むだよー!」
三人とも私達の前で膝を突いて懇願して来ている。
ちょっと可哀想に思えて来たかも?
「うーん、じゃあ許してあげるー。でももう二度としちゃダメだよー」
私は三人のことを許してあげた。
「うおおおお、あんたは女神様だ。姉御と呼ばせてください!」
「姉御!」
「姉御おおおおおお!」
憧れの眼差しって感じなのかな?
「えー、何かやだなー」
これはちょっと妙な感覚だ。
「モモがいいならいいけどさ。本当に許して良いのね?」
「うん、いいよー!」
「モモさん、一応盗賊のことを聞いてみましょうか。何か知っているかもしれませんよ」
「わかったー、そうしてみるねー」
私はカリンの意見を聞き入れた。
「その前に先ずは自己紹介といきましょう。俺が――」
大柄の奴がビグル、細身の奴がグラミ、小柄の奴がミグリという名前らしい。
でそれで、盗賊のことを聞いてみると。
「ええ、知ってます知ってます。俺達は一応裏の事情に精通していますからね。だからこうして奴等が出ない時間帯に移動してたんですが、このざまでさあ」
「くぅぅ、そもそもあんなモンスターが出るからこの時間帯には出ないんですよね」
「まったく、運が悪い、運が悪いぜ!」
っと、ビグル、グラミ、ミグリが云っている。
「じゃあ奴等の塒とかは分かるのかしら? それが分かれば話が早いんだけど」
「知っているけど、俺達が言ったって絶対に言わないでくれよ。もし知られたら大変なことになっちまう」
「うん、言わないよー!」
「それじゃあ信用して教えるぜ。ここから少し西に向かったところにある洞窟の中に奴等の塒だ。姉御達なら心配は要らねーと思うけどよ、奴等モンスターを飼いならしているぜ」
「ふーん、まあいいけどね。じゃ、案内よろしく」
リーズはこの三人を連れて行く気みたい。
「えぇ!? 俺達も行くのか!?」
「ま、念の為よ。嫌ならここに転がしておくけれど、今度こそモンスターの餌になっても知らないわよ」
『行きまーす!』
説得もできて満場一致で決定した。
これで道に迷わなくても大丈夫かな?
それから草原を西に抜けて行くと小さな丘が見えてくる。
あそこにある洞窟の中が盗賊の塒なんだって。
入り口から灯りが漏れているからやっぱり誰かいるみたい。
人の気配もちゃんと三つ、それとモンスターの気配も感じる。
「それじゃあ俺達はこのへんで」
「姉御、頑張ってください」
「応援しています!」
私達は捕まえていた三人をリリースして、洞窟の近くに身を隠す。
今のところ動く気配はない。
「それじゃあどうしましょうか? このまま攻め込んじゃう?」
「まあたぶん負けないですからね、それでもいいですよ。モモさんはどうですか?」
「私もそれでいいよー!」
「それじゃあ決定ね。じゃ、行くわよ!」
私は頷き戦いの準備をすると洞窟へサッと走った。
一応警戒して侵入したのだけれど……。
「……うにゃ?」
その中は拍子抜けするぐらいの景色みたい。
そこに居たのは男の子一人、女の子二人。
三人ともまだ子供で、青い子犬みたいなモンスターを撫でていた。
あんまりいい身なりもしていないし、武器も持っていない。
これが盗賊なのかなぁ?
「これってもしかして騙された感じ?」
「ですかねぇ?」
私達がどうしようか悩んでいると、
「うわああああ!?」
「いやあああ!?」
「きゃあああ!?」
私達の侵入にようやく気が付き、驚いて洞窟の奥へ入って行く。
下にいた子犬の魔物もだ。
「追い掛けた方がいい?」
「まあ、そうするしかないわよね」
「そうですね、逃げた三人組を追うのも面倒ですから。モモさん、もしどうしても探しだしたいのであれば人捜しの法を使いますので、その時は声をかけてください」
「うん、そうするねー!」
そして私達は洞窟の奥に向かった。
そこまで広くはなく、直ぐに行き止まりになったものの、そこには気が付かなかった気配が一つ。
真っ青な毛を持った大きな犬。
子供達を護りながらウウウっと唸り声をあげて私達を威嚇している。
「わー、でっかい犬だー!」
(誰が犬か、愚か者め。我は狼の王フェンリルぞ! 貴様ら、頭を下げよ!)
しかも人の言葉まで喋れるみたい。
御主人と同じだからちょっと親近感がある。
「これは、まさか霊獣フェンリル!? 何でこんな所に」
「伝説上の生き物ですよ。まさかこの子達が使役しているんですか!?」
(愚かしきエルフ共よ、我が使役されているだと? 笑わせるでない。この子共を使役しているのは我の方よ!)
「なんかすごく怒ってますよ。これは戦闘は避けられませんね」
「ふん、例え相手が伝説だとしても、こっちには英雄のモモがいるんだから負けようがないわよ!」
二人は杖と槍を構えてやる気になっている。
(我に勝てるつもりか、愚か者め! 我がテリトリーに侵入したことを悔いて死ぬがよい!)
フェンリルが飛びかかってくる。
結構速くて二人共動くことができてない、けど。
「てええい!」
私は逆にカウンターで顎を蹴り上げてやった。
(うにゃあああああああ!?)
何か舌を噛んだみたいですごく痛そうだ。
(お、おのれ、もう許さんぞ! 地獄に叩き落としてくれるわ!)
青白いオーラのようなものがフェンリルの体から立ち昇っている。
ビリビリと肌に来る感じ。
でも私は負けないし!
「えー、全然許す気なかったのにー! 二人を食べようとしてたでしょー!」
(な、貴様、我の言葉が分かるのか!?)
「うん、わかるよー」
「モモ、もしかしてフェンリルの云っていることが分るの?」
「御主人さんと同じ感じなんですかね?」
「うん、あの犬が怒ってる」
(だから、狼だって言ってるだろうがあああ!)
遠吠えしても全然怖くない。
まだやる気みたいだから、力の差を見せつけてお腹を上に向けてもらおう。
私はキャットスレイヴを変化させ、お餅みたいにうねうねにした物を数十本創り出した。
(な、なんだそれは。その気持ち悪もので何をしようと!?)
「捕まえるんだよー!」
例えどれだけすばしっこくても、洞窟全部を覆ってしまえば逃げられるものじゃない。
(うおおおおおお!?)
お餅はビョーンと広がりフェンリルの体を覆った。
もう体をねじってもどうやっても絶対に脱出できないよ。
「参った?」
私は顔を近づけて意思を確認してみた。
(誰が参るものか、こんなもの、こんなものおおお!)
それでも暴れるから留めをさしてやるしかない。
でもどうやろうかな?
「あら、こいつ雄ね」
「本当ですね」
ちょっと悩んでいると、リーズとカリンが弱点を見つけたみたい。
私は頭とは逆方向に向かい、股間にあった物体を、
(はううう!?)
かるーく踏みつけたのだった。
このままギューって踏んだらどうなるか、このワンちゃんにも分かったはずだ。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




