激闘、ライオンVS猫
クロノとシャルネリアが部屋に来て約束通り私を誘いに来てしまった。
とりあえずアリアに声をかけに行くけれど、巻き込まないでくださいと言われてしまう。
何度も誘われたら困るから今回の一回限りで終わらせてしまおうと考える。
私は二人と御主人を持って三階から飛び降りて城の中から脱出した。
そのまま北の町へ向かえというから頑張って走り、到着した瓦礫の町。
シャルネリアの思い出の品を回収し、今度はクロノの家のある場所へ。
でもそれは時間がかかる作業で、破壊の獣という奴に気付かれてしまう可能性が高い。
私は一人挑むことを決めたのだった。
まだ遠くにいる私に向かって破壊の獣が剛腕を振るう。
でも相手は素手じゃないみたい。
手の中に握り込んでいるのは落ちていた瓦礫の欠片だ。
ブオンと空気を切り裂くように投げたその弾丸は、
「うわー!」
危機を察して避けた私のほんの隣を通り過ぎた。
遠くにあった瓦礫の山に当たるも、その勢いは落ちないみたい。
全てを爆散させながら町を囲う壁に激突し、更に突き抜けていく。
ただの瓦礫がそんな威力になるのは不自然だ。
投げる時に何かの力を使っているのかも?
避けそこなえばこの体ぐらい簡単に貫かれてしまいそう。
「たあああああ!」
だけど私にも遠くに当てられる武器はある。
キャットスレイヴをニュッと伸ばして破壊の獣にガンと叩きつけた。
一応切れたは切れたんだけど、
「うわー、全然効いてないよー」
その傷も数秒もかからずに完治してしまった。
しかも痛みさえも気にしないし、刃を掴み取ろうとしてくるから厄介さしかない。
もしこの武器が奪われたら、もう手が付けられないぐらいになってしまう。
体力も無尽蔵にありそうな感じだから、これを倒すのは至難の業だ。
「こっちこーい!」
もう短期戦を諦めて場所を変えるように移動した。
破壊の獣は真っ直ぐに私を目指してやってくる。
障害物など物ともしてないみたい。
選んだのは建物が残っていないかなり見晴らしの良い場所。
でもあの破壊力だと遠く離れた場所にも影響がありそうな感じ。
どこかに弱点があればいいんだけれど……。
あ、そうだ、あの子を呼び出そう。
「猫猫召喚、幸せの黒猫ちゃん!」
前に覚えた呪文を唱えて、空中から黒猫ちゃんを呼び出した。
攻撃されないようにパシッと受け止め、破壊の獣を観察を始める。
直ぐにニャーっと鳴いて伝えてくれたけど、
「え、弱点ないのー!?」
全く見抜くことが出来なかったということだった。
自分の役割を果たした黒猫ちゃんはフワッと消えてゆく。
こうなったらやっぱり時間を稼ぐしかなさそうな感じ?
私は振り上げられる腕を躱し、飛び散る破片を躱し、ぶん投げられる弾丸のような瓦礫を躱す。
躱して躱して躱して躱して、躱して躱して躱して躱して……一体どのぐらい躱せばいいんだろう?
やっぱり攻撃した方が良いのかな?
よーし、決めた、じゃあ連続攻撃だー!
「えーい!」
きゅるッと反転、キャットスレイヴの刃を分岐。
二本、四本、六本、八本、十本。
全ての刃が私の意思に同調し、あらゆる方向に分散して伸び縮み。
逃げても近づいても、キャットスレイヴは位置を変えずにひたすら攻撃を繰り返す。
無尽蔵な連撃はずっと続けられているけど、それでも破壊の獣は倒れない。
全く倒れてくれない。
だったらもっと本数を、だったらもっと速度を上げよう。
「今の倍だよー!」
剣の本数が十本から二十本に。
もう自分でも訳が分からないぐらいグチャグチャだけど、相手に当たってるから問題ない。
それに手数が増えた分動きが抑制されているみたいだ。
瓦礫を投げようにも、爆発させようにも、キャットスレイヴの刃が邪魔をして攻撃できていない。
これはいけそうだ。
だったらもっと本数を増やしてしまおう。
もっともっともっともっと!
「えーい!」
でも増やし過ぎて目の前も見えないぐらいにぶっとくなってしまった。
「うーん、やりすぎた? まあ、いっかー!」
それでも私には相手の気配を見極めることができる。
そこに向かってズドドドドっと空から打ち下ろした。
気配は下へ下へと押し下げられ、ついに地面に倒れ伏せたみたい。
だけど攻撃を止めたら起き上がってくるはずだ。
だからずっとずーっと攻撃を続けた。
(モモー、モモ―!)
キャットスレイヴの爆音の中、御主人の叫び声が聞こてくる。
「あー、御主人。こっちに来たら危ないよー!」
(さっき探し終わったんだ。もう二人も避難しているから
僕達も早く逃げてしまおう)
「わーい、やっと終わったー!」
私は攻撃を止めずに呼びに来てくれた御主人に手を伸ばす。
やっぱりモフモフでいい感じだ。
御主人大好き!
「じゃあ私達帰るね。もう攻撃してこないでー!」
破壊の獣にお別れを言うと、攻撃を続けながら超スピードで距離をとった。
あれが二本の足で立ち上がる頃には私の姿は視界から消えているはず。
「お待たせー!」
と壁の向こうに居た二人に手を振って声をかけた。
「姉ちゃん後ろ後ろ後ろ後ろ!」
「きゃあああああ!?」
二人とも凄く慌てている。
振り向くと轟音が鳴って壁の上部に何かが遠ざかって行く。
あれは破壊の獣が投げつけた瓦礫の欠片?
それは少しずつ下の方に修正されてボンボンボンボン近くの壁が破壊され始めた。
見えていないはずだけど、適当に投げてるのかも?
それでも当たったら体が全部なくなってしまう。
そんな事になる前に、私は三人を抱えて急いでここを走り去ったのだった。
「ここまでくれば大丈夫!」
さっきまで瓦礫が落ちて来ていたけれど、もう上を通り過ぎることも落ちてくることもない。
あとはこのまま町に戻れば良いだけだ。
ちょっと油断していた時、キュンっと耳元で何かが通り過ぎて行った。
「ぎゃああああ!」
「いやああああ!」
(危ない、危ないよモモ、ここも絶対ダメだって!)
もう狙っても当てられる距離じゃないし、偶然かもしれないけれど、これはやっぱりダメみたい!
もっともっと急いで倍ぐらいに距離をっとった。
「今度こそ大丈夫!」
(本当かなぁ)
御主人は心配しているけれど、あの瓦礫の町よりレッド―マの町の方が近い。
多分もうすぐ見えてくる頃だ。
「クロノ、欲しい物は手に入ったのー?」
私はようやく落ち着いてクロノに声をかけたのだった。
「ああ、ちゃんと手に入ったぜ。この通りな」
クロノの手には所々破れていてワタの飛びだしているヌイグルミがある。
これが三年間求めていた物かな。
「ええ、これであとは帰って怒られるだけですわね」
「おい、それを今云うな!」
そうだった、帰ったら怒られなきゃいけないんだ。
うーん、それはやっぱり嫌だなぁ。
(まあ、アリアには報せてあるし、意外と怒られなかったり……)
「御主人、きっとそうだよー!」
(モモ、あんまり期待はしない方がいいのかもね)
「えー!」
大丈夫、お友達のアリアだったら分かってくれるはず。
そう信じて町に戻り、お城の中で二人を下ろした。
「姉ちゃん、本当にありがとうな。俺、すっごく感謝しているぜ。もし何か頼み事があるら言ってくれよ。絶対手を貸すからさ!」
「モモ様、私も感謝しております。ありがとうございました。何かあれば何なりとお申し付けくださいませ」
「うん!」
(ふぅ、大変だったね。じゃあ帰ろうか)
そして私と御主人は自分の部屋に。
ガチャッと扉を開けるとプンプン顔のアリアが立っていた。
「モモさん、あろうことか町の外に子供を連れだすとはどういうことですか!」
やっぱり普通に怒られたよ。
ちゃんと報せておいたのにやっぱりダメだったみたい。
「アリア、ごめんなさーい!」
「謝ってもダメです。無事帰ってこれたは良いものの、もし怪我でもさせていたらどう責任を取るつもりだったんですか!? あの子達の親はとても心配していたのですよ。今日の晩御飯抜きです!」
「えー、それはいやー!」
(モモ、仕方ないよ。一日だけ受け入れよう)
「当然御主人さんもですからね」
(あ、はい……)
私と御主人は云われた通りに晩御飯を食べさせては貰えず、グーグーにお腹が鳴る辛い夜を経験しなければならなくなった。
数時間は我慢できたけれど、瓦礫の町でがんばったから、お腹が空き過ぎて目がギンギンだ。
「御主人、私もうダメ、もうがまんできないよー!」
(うぅ、僕ももう無理、何か食べたい。何でも良いから)
お水を飲んでもお腹はふくれてはくれないし、おトイレが近くなるだけみたい。
私と御主人はベッドの上で悶えまくっている。
「御主人、食堂に行ってみよう。まだ何かあるかもー!」
これでは眠れないから改善策を提案した。
(こんな時間じゃ無理だと思うけど。あ、そうだ、ギルドに行こう。あそこなら何か出して貰えるかも!)
確かにあそこの料理も中々だ。
「でもまた外に出たらアリアに心配させちゃうよー? それに明日の朝もご飯抜きにされたらすごく嫌だよー!」
(それもそうか。じゃあどうしよう)
「そうだ、お庭で虫を食べよう!」
(それはダメ、絶対ダメ! 前にも言ったけど寄生虫とか怖いからね!)
「えー、さっき何でもいいって云っていたよー」
(うん、言ったんだけどね。でもダメ!)
虫はダメ。
動物はこのお城にはいないし、鳥は中々捕まえられない。
じゃあどうしよう?
「あー、ルシフェリアなら何か持ってるかもー!」
ルシフェリアにお菓子を御馳走になった事を思い出した。
(そっか、そうかもしれないね。でも起きてるかな? 寝てたら可哀想だよ)
「見てみるー!」
窓からルシフェリアのいる塔を見てみると、まだ灯りが付いている。
ちゃんと起きている気配もするみたいだし大丈夫そう。
ぜひ何か食べさせてほしい!
「御主人、大丈夫みたい!」
(うん、まだ起きてるみたいだね。モモ行ってみようか。でもコッソリとね)
「うん!」
また窓からでるのは目立ちすぎる。
私達はお城の中からルシフェリアのいる塔に向かった。
「ルシフェリア、ルシフェリア、私お腹空いたの、何かちょうだい!」
扉を叩くと開けてくれたけど、
「アリアからモモに頼まれてもご飯を与えるなって云われたんだけど?」
うー、アリアの手がここまで伸びていたみたい。
でもどうしても何か食べたいよ。
「おねがーい!」
(お願いします!)
「仕方ないなぁ、じゃあ私の頼みを聞いてくれるならあげてもいいよ」
「やったー!」
(って待ってモモ、また変なことに巻き込まれるかもしれないし、一度聞いてからにしようよ)
「うん、聞いてみる。ルシフェリア、何をすればいいのー?」
「えっとね、モモはウィンデリアに行ったんだよね? あのね、私も連れて行ってほしいの。あの町にあったお城の中に。どうしても行かなきゃならないんだ」
ルシフェリアは私の顔を真っ直ぐ見つめている。
何か理由があるみたい。
「御主人、ウィンデリアってクロノとシャルネリアを連れて行ったあの町だよね?」
(モモ、ダメだよこれ。王族を連れだすなんて絶対ダメ。これは聞かなかったことにしよう。絶対ダメなパターンだよ!)
「え、じゃあご飯は!?」
(諦めるしかないんじゃないのかな。明日の朝には美味しいご飯が食べられるからそれまで我慢しよう。これを聞いたらもっとご飯が食べられなくなっちゃうよ!)
「それはやだけどー!」
「モモ、連れて行って!」
「ごめんねルシフェリア、もうご飯抜きは嫌なのー。また行ったらアリアに凄く怒られちゃうよー」
「……モモ、別に今日行けとは言ってないよ。また機会があったらでいいから。ね、いいでしょ。美味しいご飯をあげるから」
ルシフェリアの声を聞くと、私のお腹がグウと率先して返事をした。
感情と理性、何方を選ぶのかと聞かれれば、今はお腹が空いたという感情でしか動けない。
「分かった、連れて行くから、だからご飯をお願いします!」
(おーい、モモー!)
「御主人は食べないの?」
(……食べる)
「じゃあ決まりだねー!」
そして私達はルシフェリアと約束を交わし、美味しいご飯を分けてもらえた。
お腹が満腹になったからグッスリ眠れたのだけど、ルシフェリアの頼みを聞いたらまた罰が待っている。
うーん、何とか避けることはできないんだろうか?
そんな事を考えている次の日。
クロノとシャルネリアの親から抗議の手紙が届いた。
お母さんからも呼び出されて、今後やったら英雄であってもこの国を追い出すんだそうだ。
ルシフェリアの頼みをますます聞けなくなっちゃったよ。
もう変な頼みを聞かないように気を付けないと。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




