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脱出しろ、お城の中

 シャーン、ルシフェリアのお母さんにより開かれた食事会。

 長い挨拶が終わりようやく食事が食べられそう。

 私はお魚を狙いお皿に盛りつけた。

 アリアやグリフに声をかけられたりしながらデザートのある場所に向かうと、シャーンとルシフェリアがお友達を連れて現れた。

 男の子クロノ・アークスと、女の子シャルネリア・シャルル・シャリアット。

 二人共良い子みたいで仲良く出来そうな感じ。

 私の活躍を話すと、冒険に付き合ってほしいとクロノから告げられた。

 嫌がっていると、コインを投げる賭けをすることに。

 でも私の身体能力なら簡単に見分けられる。

 そう思っていたけれど、コインが落ちてくる瞬間に新しいお料理が運ばれたと声が聞こえた。

 顔を背けてしまった私は賭けに負けて付き合わなきゃならないらしい。

 そして夜、クロノとシャルネリアが私の部屋にやって来た。

「あのね、もう一人誘っていいー?」


 私はクロノとシャルネリアに頼んでみた。


「おう、協力者は多い方がいいんだぜ!」


「私は構いませんわよ」


 二人とも問題はないみたい。


(モモ、もしかしてそれってアリアのこと?)


「そーだよ御主人、アリアはお友達だもん」


(お友達を悪いことに誘うのはダメだと思うんだ)


「でも勝手に出て行ったら心配させちゃうよー。また追いかけて来ちゃうかもー」


(それはそうなんだけど。まあいいか、話しを通すのは仕方ないかな)


「じゃあ行こー!」


 私達はアリアの部屋に。

 何処かに出掛けていたら困ったけれど、


「アリア、出てきてー、アリア―!」


「なんですのモモさん、まさかお腹が減ったなんて……」


 部屋の中からアリアの声が聞こえてくる。

 でも扉を開けると後に居る二人の姿を見て扉を閉めた。


「何で閉めるの? アリア、アリアー!」


「ルシフェリア様から事情は聞いております! 変なことにわたくしを巻き込まないでくださいませ!」


「えー!」


 どうやら私に協力はしてくれないようだ。


「姉ちゃん、協力者は得られなかったみたいだな。それじゃあ俺達だけでやるしかないぜ!」


「モモ様、ご愁傷様です」


 なら私がクロノとシャルネリアを外に連れ出すしかない。


(これってずっと付き合わされるのかな? いっそのこと一日で終わらせてしまった方がいいのかもね)


 御主人の云う通り、怒られるのは一回でいい。

 私は近くにあった窓を開け、二人をガシッと掴み上げた。


「お、何するんだ?」


「え? これは……モモ様、何をなさるの?」


「御主人、飛ぶよー!」


(ああ、また飛ぶんだね。今回は云ってくれたから覚悟ができたよ、僕がんばるよ!)


「でも両手が塞がってるし、御主人は持てないから自分で引っ付いててね」


(ええ、それはすごく怖いんだけど。部屋で待ってたらダメ?)


「御主人、一緒に行こー!」


(うぅ、わかったよ。やればいいんでしょ)


 御主人は私の服に引っ付いた。

 三人ともギュッと抱えておけばきっと大丈夫。

 私は開いた窓に向かって、


「あれ、姉ちゃん? 飛ぶってなに!? 窓を開けて一体何してるの!? うあああああああ!?」


「きゃああああああ!?」


 思いっきり飛び出した。

 ここは三階、二人の悲鳴が響いてお城の人達には絶対バレていると思う。

 私は三人を抱えて無事に着地したのだった。

 そしてやっぱりお城の見張り台から、


「おい、またモモ様が脱出されたぞ! アリア殿にお知らせしろ!」


「他の奴等にも報せておけ、間違えて攻撃させるなよ! 国の英雄を誤射したでは洒落にならんからな!」


「だが一人ではないみたいだぞ?」


「モモ様のお友達だろう。シャーン様やルシフェリア様でないのなら放っておけ」


 何人かの声が聞こえてくる。

 やっぱり見つかったみたい。


「死ぬかと思ったぜ!」


(はぁ、僕もそう思ったよ。今回は特に)


 クロノと御主人は案外大丈夫そうだけど、シャルネリアは目を見開いて止まっている。


「シャルネリア、大丈夫ー?」


 声をかけてみるとばっと私の顔を見る。


「だ、大丈夫な訳が無いですわ! 何でいきなり飛びおりるのですか!? 怖いですわ、怖いですわ!」


 ちょっと動揺しているみたい?

 でもそろそろ誰か来るかもしれないし、このままお城の外まで行ってしまおう。


「ごめんねシャルネリア、じゃあ走るから!」


 私は三人を抱えたままお城から飛び出した。

 そのまま町を走りだす。

 お城はどうなってるか分からないけど、私達に追いつける人はいない。


「うおおお、もう町か、すっげー早いぜ!」


「ですが、もろバレですわよ? 後々御父様に怒られても知りませんわよ」


「それでもいい、北の町に着けるのなら! 俺達の三年間の悲願た達成できるんだからな! 行け姉ちゃん、このまま直行だ!」


「うん!」


(こんなに行きたいってなると何か理由があるのかもしれないね。二人に事情を聞いてみよう)


「うん御主人、聞いてみるよー。ねぇクロノ、何でそんなに行きたいの?」


 私は足を動かしながらクロノに声をかけてみた。


「……あそこはさ、あの町にはさ。俺の、俺達の家族が眠ってるんだ。死んだお袋と妹がさ。俺はあの町で何でも良いから形見の品を探したいんだ。壊れていても……いいからさ」


 今までの元気な姿とはまるで違う表情。

 きっとすごく悲しい思い出があったのだろう。


「……シャルネリアも?」


「私は……お友達を一人。でもそんな方は大勢居られますわ。この国に住んでいるなら特別なことではないのですよ」


 シャルネリアも悲しそうな笑顔だ。 

 私には想像もできないことがあったのだろう。

 だったら叶えてあげたい。

 私がその願いを叶えてあげたい。

 走ろう、この足で。

 もっと早く、もっと速く!


「にゃああああ!」


 見えている町の景色が揺らぐように遠ざかる。

 町を歩む人々を避けて建物の上に上がり、屋根伝いに北の方向へ。

 大きな門を一気に飛び越え町の外へ飛び出した。

 動物や魔物、鳥だって私には追いつけない。

 北へ北へと一時間。

 人や馬であれ相当な時間を要する距離。

 かなり遠くの方に瓦礫の山のような物体が見えてきた。

 真ん中あたりに古びたお城がまだ現存しているみたい。


「あれだ、あそこが俺達の町だぜ!」


「やっと、帰ってこれた。私達のウィンデリア」


 二人とも昔の住処を見て感慨深そうだ。

 でも近づくにつれて緊張感が増していく。

 あの場所から何か、何か強敵の気配がする。

 それが影響してなのか、獣や魔物の気配が一切しなくなった。

 私は緊張感を持ちながらも進み続け、ボロボロに崩れた壁の前に。


 ここが瓦礫の町の始まりだ。

 壁の隙間から覗いてみると、まだ崩れていない建物もいっぱいあるみたい。

 二人の探し物も見つかるのかも。


「よし、まずはシャルネリアの家に行こう」


「先に行かなくても宜しいのですか?」


「いいんだ。ここまで付き合ってもらってるんだからな」


「クロノ、ありがとうございます」


 と、私の腕の中で二人が話し合っている。


「でも姉ちゃん、充分気を付けてくれよ。この町には恐ろしい獣が潜んでいるんだ」


「獣?」


「ええ、破壊の獣タイタニス、国の大臣にして裏切者ですわ。奴の所為でこの町は……倒してやりたいところですが、勝ち目はないに等しいです。ですからコッソリいきますわ。あちらです、モモ様。あちらに向かってくださいませ!」


 シャルネリアは進む方向を指さした。

 まだ町の中には入らずに壁の外周を東に移動するみたい。

 私は指示通り進み、東側の壁の真ん中あたり。

 壁ごしに大きな木が生えているのが分かった。


「ここですわ。ここが私の屋敷があった場所。モモさん、こっそり中に入りましょう」


「うん!」


 私は二人と御主人を下ろし、壁の隙間から中に入っていく。

 見えたのは人の手が入らない雑草が伸び放題の庭園。

 真っ赤なバラがところどころに咲いているけど、下手に進めば見えないトゲトゲに体を貫かれそうだ。

 近くには半分崩れ落ちた大きな屋敷だったものが。

 ここがシャルネリアの家だったのだろう。

 私は大丈夫だけれど、皆がここに入ったら怪我をしてしまう。

 ペンダントにしてあるキャットスレイヴを取り出して広い範囲を切り開いた。


「もう入っていいよー」


「姉ちゃん、しー!」


(モモー、敵が来ちゃうよー!)


「モモ様、大きな声を出したらダメですわ!」


 三人に小さな声で注意されて私は口をバッと抑えた。

 破壊の獣ってのに見つかったら厄介だったけど、今回は見つからなかったみたい。

 今度からは気を付けよう。


「ふぅ、何とかなったぜ。シャルネリア?」


 クロノが声をかけてもシャルネリアは無言で壊れた屋敷を見つめている。

 何かを思い出しているのかもしれない。


「シャルネリア、今は急ごう」


 でもクロノはその肩に手を置いた。


「……ええ、分かっておりますわ。幸いにも私の部屋はまだ無事みたいですから入ってみましょう」


 屋敷の玄関は潰れている。

 ガラスさえない壊れた窓から皆で中に入ってみた。

 シャルネリアの部屋は小さなヌイグルミや可愛らしい小物で一杯だけど、どれも砂や埃に塗れていて色あせている。

 でもシャルネリアはそんな物には目もくれない。

 自分で使っていた机に向かい、一番上の引き出しを開いた。 


「……ありました。私はこれが欲しかった」


 手に持ったのは小さなペンダント。

 輝かしい宝石も綺麗な飾りもないオモチャのペンダントだ。

 グッと握りしめてお友達のことを思い出しているのだろう。


「他にはいいのか? もう少し持って帰れるんだぜ?」


「私はもうあの頃の子供じゃないんです。ヌイグルミもオモチャもこれ以外の物は必要ありませんわ」


「そっか、じゃあ脱出しよう。ここもいつ崩れるか分からないんだからさ」


「ええ」


 私達が部屋から出ると、屋敷がガラガラと崩れ出した。

 もしかしたらお友達の子が待っていてくれたのかも。


(モモ、音が大きいよ。これは見つかるかも)


 でも感傷に浸っている暇はないみたい。

 御主人の云う通り、瓦礫の町の中央部から恐ろしい気配が。

 破壊音、破壊音。

 連続して何かを壊しながらこちらに向かってくる。

 破壊の獣という奴が崩れた音を聞きつけたのだろう。


「一回逃げるよー」


 私は問答無用で三人を抱きかかえ、壁の向こうに脱出した。

 変な物が来る前に壁伝いに別の場所へ。

 遅れて先ほどの場所から圧倒的な破壊音が。

 埃の煙が上がっている。


「ふぅ、危なかったな。でもあいつは町からは出られないみたいだから安心してくれ。早く俺の家に行って帰ろうぜ」


「そうですわね」


「姉ちゃん、俺の家はあっちだぜ」


 クロノの指さした方向はここよりも北の方。


「うん、わかったー!」


 その場所に向かいまた四人で壁を越えたのだった。


「俺の家はもうちょっと中に入ったところなんだ。気を付けながら進もうぜ」


「ええ、そう致しましょう」


 周りを確認しながら建物や瓦礫に隠れて移動を繰り返す。

 でも真ん中に近づくにつれて壊れた建物も多くなっていく。


「この辺りだと思うんだけど……瓦礫だらけで分からないな」


「クロノ、あそこにパン屋の看板が落ちてるわ。家の近くにあったんじゃないの?」


「そうだ、そこがパン屋だったら、俺の家はあそこだ」


 クロノが見た先、そこはやっぱり瓦礫の山だ。

 二人は私の声も聞こえないぐらいに必死に瓦礫を退けながら何かを探そうとしている。

 でもそれは相当に大変な作業だ。

 ガンと落ちる音、崩れる瓦礫、やっている内に絶対破壊の獣という奴が来てしまう。


「御主人、私、行ってくる。二人のことお願いね」


(モモ、もしかして戦いに行くの!?)


「うん、見つけるまでがんばる!」


(そっか、でもモモが帰ってこないと二人とも町に帰れなくなっちゃうからね。そうなったら二人とも死んじゃうから。絶対に無理はしないで、本当に!)


「うん、じゃあ行ってくるー!」


(気を付けてね!)


「うん!」


 私は瓦礫の山を飛び越えて破壊の獣の気配を探る。

 見つけた、あれがその敵みたい。

 まるでオスライオンのようなたてがみ

 白目すらなく赤く輝く瞳は狂っている証なのか?

 隆々の肉体には細かい体毛がビッシリ生えそろっている。

 鋼鉄の胸当てと腰当をしたこいつがタイタニス。

 破壊の獣と呼ばれる奴だ。

 グルルと喉を鳴らして私を睨みつけている。

 でもそれは一瞬、大きな右の手をガッと広げて飛びかかって来た。


「グオオオオオ!」


「にゃああああああ!」


 相手がパワーならば私はスピードでかく乱してやるからね。

家猫のモモ

御主人ごしゅじん(ヒロ)

王子シャーン

シャーンのお母さんテルナ

グリフ・リスマイヤー

青鎧のブルース・グライブス

教育係アリア・ファイリーズ

赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)

桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)

ルーカ(孤児)

プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)

ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)

クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)

シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)


剣と魔法の世界 ミドレイス

翼の生えた子供 ウリエリア

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