御褒美タイム
グリマンの屋敷の牢獄から脱出した私達。
でも屋敷の中は化け物だらけになっていた。
町に出るのは不味いから殲滅し、私は御主人とアリアをグリフに任せ、一人でお城に向かった。
大量のドレッド・デーモン群がる中、兵士達は必死に戦っている。
私はその手伝いをして玉座の間へ急いだ。
ドレッド・デーモンとグリマンに囲まれているシャーンとルシフェリア、そしてそのお母さんと護衛の人々。
お母さんの魔法は封じられてピンチのようだ。
私はドレッド・デーモンを片っ端から倒し尽くし、グリマンを捕らえたのだけど、人の身を破り出るように魔物と化してしまう。
攻撃も魔法も利かなかったけれど、猫の魔法で弱点をサーチすると一気に倒して勝利を得た。
お母さんにより用意された大広間での食事会。
今回活躍した人達や、私のお友達も参加している。
シャーンやルシフェリアも一緒だ。
皆とお喋りもしたいけど、山盛りの料理の数々が私に食べろと語りかけてくる。
お肉、お魚、果物、お野菜、美味しそうな物いっぱいだし!
それにどれでも幾らでも食べて良いんだって。
けど、その前にお母さんの長いお話が続いている。
私のことを紹介してくれたり、他の人に声をかけたりと、御馳走が目の前にあるのにけっこう拷問だ。
「――今回の国の危機、内部からの裏切りがあったことを残念に思います。しかし誰一人死することがなく勝利を収めたのは我々の努力のたまものでしょう。これからも皆の精進に期待しております。また今後も起こる可能性も考慮し、一層厳しく警備を強めねばなりません。その為にもこの宴を用意致しました。さあ皆よ、存分に食べて飲み、体力を回復するのです! 宴を始めなさい!」
『おおおおお!』
でも長いお話がようやく終わり、皆が一斉に食事を始めた。
私も目をつけていたお魚料理の前に行こうとしたんだけれど、
「モモさん、今回もありがとうございました。あなたのお陰でこの国は救われました。今一度、皆を代表してお礼を言わせていただきます。ですがこの事件はまだ終わってはいないでしょう。人が簡単に魔物になるはずはありませんから。これは世界を滅ぼそうとする意志によるもの。相手は悪神王、ヴァルグラムの仕業と見て間違いないでしょう――」
まだまだ続くお母さんのお話。
私のお腹はもう限界だ。
「私、ご飯食べたい!」
だから思い切って自分の意思を示す。
(こらモモ、王様に対してそれはダメ! まだ話の途中でしょ!)
でも御主人から怒られてしまった。
「えー、御主人、私もう限界だよー」
「あらまあ、それはごめんなさい。私の話しが長かったですね。気にせずにお食事を存分に愉しんで行ってください」
「うん、食べる―!」
お母さんの許しを得た私はダッと走り、狙っていたお魚が置いてある場所に。
渡してもらったお皿にお魚をいっぱい積み上げた。
(モモ、許してもらえたけど次はダメだからね。それとお野菜も食べないと健康に悪いよ)
「御主人、美味しいから大丈夫だよー!」
「あらモモさん、お皿に山積みにしたらダメって教えませんでしたっけ? わたくし何時も言っていますよね?」
近くに来たアリアは怒っているけれど、ちょっとだけ優しい顔だ。
今日は機嫌がいいのかな?
「アリアごめんねー。じゃあ戻すー!」
「こら、取ったお皿の物を戻そうとしたらダメです! もう良いですから食べちゃってください!」
「はーい!」
私は元気にモリモリ食事を続けた。
何時も食べる食堂の物よりも、もう少し上品な味わいだ。
ガッツリくる物もいいけど、これも中々いい感じ。
「おおモモ殿、素晴らしい食いっぷりですな。見ているだけで胸やけがしそうですわい」
夢中で食べているとグリフが私に近づいてくる。
「グリフは食べないのー?」
「いやいや、頂いておりますぞ。多くの料理がありますからな、色々見て周りながら摘まんでいくのも乙なものですぞ」
「美味しいのあったー?」
「そうですなぁ。あちらにあった焼き菓子やクリームの類などは絶品でしたな。とても美味なデザートでした」
「お菓子!」
それは絶対に行かなくてはダメだ。
私はキョロキョロと辺りを見回し、お菓子の置いてある場所を探し始めた。
あった、あそこだ!
「モモさん、ちゃんと残さず食べてからですからね」
「うん、アリア、これ食べてからにするね!」
「そうしてくださいませ。わたくしは他の方にご挨拶してきますから、モモさんは出来る限り大人しくしてくださいね」
「うん!」
そう返事をして私は急いでお魚を平らげると、デザートのある場所に急いだ。
サクサクのクッキー、生クリームの甘い奴、シャリシャリのシャーベット、飴細工なんかもあったりする。
温かいパイの様な物とかも、どれもこれも美味しそう。
目移りしてしまうけど、最初はクリームの甘い奴にしよう。
……うん、やっぱりすごく美味しい。
(モモは食いしん坊だなぁ)
「だって美味しいんだもん! 御主人も食べていいよ?」
(味が濃い物はちょっと、たぶん体が受け付けないんだよね。ササミとかが食べたいかな)
「ふーん?」
私も猫だったからササミの美味しさは知っている。
あとで御主人を連れて行ってあげよう。
そんな感じでまだまだ食事を楽しんでいると。
「あ、モモお姉ちゃん!」
「モモ、見つけた」
シャーンとルシフェリアが手を振ってやって来た。
二人とも綺麗な衣装で飾り立てている。
それと後ろには同じぐらいの歳の子が二人。
お友達なのかな?
「モモお姉ちゃん、すっごい活躍だったんだってね! 俺、二人に自慢していたんだよ!」
「シャーンたら、モモが活躍するのは当たり前。すごく強いのは知っているでしょ」
「ルシフェリア、俺だってそんなの知っているよ。でもさ、嬉しいじゃん! わーって感じ!」
シャーンはすごく嬉しそうだ。
「それでね、お友達が会いたいって云うから連れて来たんだ」
そして後ろの二人に目一杯手を広げた。
先ず一人、茶色い髪を長く伸ばした右の目元に小さな黒子がある女の子が私の前に。
「初めましてモモ様、私はシャルネリア・シャルル・シャリアットと申します。シャーン殿下、ルシフェリア皇女殿下とは親しくさせていただいています。今後とも、よしなにお願いいたします」
サッとスカートの裾を広げる仕草は、アリアが教えてくれたものと同じだ。
「よろしくね、シャルネリア、私はモモ、こっちは御主人だよ!」
「よろしくお願い致します」
(よろしくー)
一人挨拶をし終えると、
「じゃあ次は俺だな!」
次に出て来たのはシャーンよりも随分やんちゃそうな雰囲気のある男の子だ。
「漆黒の鴉、ブレードバード隊所属、リカルド・アークスの息子、クロノ・アークスだぜ! よろしくな、姉ちゃん!」
すごく短い金髪で、毛が倒れずほぼ逆立っている。
剣とか持っているし、結構鍛えているのかも?
「クロノ、よろしくー!」
(よろしくね)
「おう!」
挨拶をしてくれるし、結構いい感じの子達。
二人とも仲良くできそうだ。
「ねぇモモ、昨日のお話してくれる?」
「うん、いいよー!」
私はルシフェリアの頼みを聞いて昨日戦ったお話をした。
皆楽しそうに聞いていて、特にクロノがすごく熱心だ。
「うおおおお、姉ちゃん強いんだな! 俺と一緒に冒険してくれないか!? 俺一人じゃ無理でも姉ちゃんが居たらきっとすっごいことが出来ると思うんだ! な、いいだろ!?」
「冒険?」
「ああ、血沸き肉躍る冒険の数々、ワクワクすると思わないか!?」
クロノは凄く興奮して私を誘ってくる。
冒険って外でうろうろして何か倒したりするやつだっけ?
「モモお姉ちゃん、クロノの話しは聞かなくても良いから。絶対後で怒られるやつだし!」
「うん、お母さんに怒られちゃうよね」
「クロノったら、わざわざ危険な場所に向かおうなどと理解ができませんわ」
シャーン、ルシフェリア、シャルネリアも全然乗り気じゃないみたい。
「そっか、やめとくー」
「待ってくれ、じゃあ俺と勝負して俺が勝ったら一緒にきてくれるってことで!」
クロノは全然諦める気配がない。
「勝負って?」
「ああ、コインを投げて裏表を当てるんだ。受けてくれるよな!?」
「モモお姉ちゃん、受けなくても良いからね」
「そうそう、やめとこうモモ」
「そうですわそうですわ」
三人とも止めているし、やっぱり止めといた方がいいのかも?
私がちょっと悩んでいると、
「じゃあオマケにこの最後のフルーツセットをつけてやるぜ!」
クロノはお皿に乗せてあったフルーツの盛り合わせ(最後の一つ)を私の前に!
「やるー!」
(ちょっとモモ、負けたらどうするの!?)
「モモお姉ちゃん大丈夫なの!?」
「モモったら食いしん坊」
「はぁ、困りましたわね。やっぱり止めといた方がよいのでは?」
「大丈夫、私、目がいいから当てられるよー」
素早い敵の攻撃を避けることができるのだから、コインぐらいなんでもない。
「もう取り消しなんて無しだからな。じゃあ早速やるぜ!」
クロノは金色のコインを取り出し、表裏の確認をすると、ポーンと高く投げ上げた。
クルクルと回転してクロノの手の平の上に落ちて――。
「皆様、追加の料理が出来ましたのでどうぞお楽しみください」
使用人から突然の声。
美味しそうな匂いに私の顔は明後日の方向へ向けられてしまった。
(モモー!)
御主人、今更叫んでもどうにもならないよ。
コインはパシッと落ちて、もうどっちがどっちか分からないし。
でも結局は二つに一つ。
当ててしまえばいいだけだ。
「姉ちゃん、さあどっちだ」
「えーっと、裏!」
私はもう適当に裏だと決めつけた。
クロノがコインに乗せていた手を退けると、爽やかな笑みが。
「ふっ、残念、俺の勝ちだ! じゃあまた連絡するぜ、姉ちゃん、ぜーったいに約束は守ってくれよな!」
勝って嬉しかったのか、そのままどこかに行ってしまった。
「あら、行ってしまいましたわね。どうするのですかモモ様、クロノは目的を達成するまで絶対止まりませんわよ」
「俺もそう思う。きっとそうなるだろうね。モモお姉ちゃん、ご愁傷様」
「モモ、叱られるの決定。可哀想」
(これはどうにもならないね)
「えー!」
私は怒られてしまうのか。
でも約束しちゃったから仕方ない。
後のことは後で考えればいいし、まずはこのデザートをお腹いっぱい食べてしまおう。
私はパシッと自分の頬を叩き、気合を入れて皆で一緒にご飯を食べた。
★
とても美味しくて満足する食事会を終えて、自室に戻った私。
今日はもうのんびりしようとベッドにダイブしてフカフカのお布団を楽しんでいると、扉からノック音が聞こえてくる。
「だれー?」
「俺だよ姉ちゃん、さあ冒険に出掛けよう!」
これはクロノの声。
ついに約束したことが始まるみたい。
(ああ、ついに来てしまったね。モモ、何があっても怒られるから覚悟して行くんだよ)
「うーん、わかったー」
でも約束は守らないと。
私は部屋の扉を開く。
「ここまで来るのに苦労したけど準備は完璧だぜ。この通りな!」
自分の身なりにあった皮の鎧を装着したクロノの姿と、もう一人、食事会で知り合ったシャルネリアが居た。
「あー、シャルネリアもいるー!」
今はドレスじゃなくて動きやすいスラックスと、上には制服のような物を合せている。
腰には細い剣もあるから、これが冒険仕様なのかも。
「幼少よりの仲ですからね、強引に付き合わされましたわ。モモ様、か弱い私を護ってくださいませ」
「うん、いいよー」
「よーし、まずは作戦会議だぜ!」
クロノは机の上に大きな地図を広げた。
所々歪んでいるこれは自分で作ったものなのかも?
この形はお城の見取り図っぽい。
「俺達が向かうのは町の北にある廃虚。三年前に俺達が住んでいた町だ。俺はそこにどうしても行きたい。だからその為にもこの城を脱出しなければならないんだ。今日はそのための第一歩、誰にも見つからない通路を見つけるんだ!」
望んだ冒険でワクワクしているというよりも、とても真剣な表情だ。
もしかしたら、やらなきゃいけないことがあるのかも知れない。
「この間のこともあって城の警備は鉄壁だぜ。特に外周り! 妙な動きをしたら即見つかっちゃうんだ! でも英雄の姉ちゃんが居れば平気だろ!」
「そーかなー?」
前に脱出した時は大騒ぎになったんだけど。
またアリアに心配させないように声をかけておこうかな?
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




