ブレイズバトル決勝
大会は残り二戦。
……だったんだけど、準決勝は私とトレーシアの相手が二人とも棄権しちゃったんだ。
だから次に行われるのが決勝なんだけど、グチャグチャになった会場の整備をするからって休憩時間が設けられたの。
その間にトレーシアと戦っていたブラッディが目を覚まし、ちょっと事情を聞いてみたんだ。
あのトレーシアが本物なのかもしれないっていっていてね、でも剣を持ったことがないんだって。
絶対おかしいってことで王城に文を出して欲しいんだって。
それにはエリオが指名されて北の門にある詰め所に走っていったよ。
そしてお昼を回った頃に決勝戦が始まったよ。
私の相手は勿論トレーシア。
ゼノンに貰った剣を手に、打ち合いが開始されたの。
「あー、もう壊れちゃった」
トレーシアの速くて強い攻撃に剣が耐えられなくなったんだ。
根元からポッキリと折れちゃった。
それでも受け止めるだけならまだ大丈夫。
かたい鍔の部分で何とか出来るの。
それにね、私の武器は他にもあるんだ。
左手の指から鋭い爪を飛びださせたよ。
でも、あの剣を受け止めるのはちょっと自信がないかなぁ。
攻撃する時専門だね。
「こっちからも行くよー!」
攻撃をすり抜けながらシュパッと手をふるう。
切れたのはトレーシアの顔を覆ったフードの端。
隙間から綺麗な金髪と素顔が見えるよ。
でもそれは人の顔とは思えない。
グチャグチャに赤や緑でボコボコした皮膚。
瞳は真っ赤に光っているの。
ブラッディは美しくて可愛いって云っていたけど、これじゃあ怖くて不気味だよ。
やっぱり偽物?
でも、その首にあるペンダントは本物を示しているって。
何かの病気かそれとも呪い?
ブラッディの感覚がおかしいってことはないよね?
何にしろ、倒してからじゃないと治療は無理そう。
「たああああ!」
私はトレーシアと戦いを繰り広げたの。
相手も並じゃない。
簡単にはいかないけれど、私も負けたりしないんだ。
ピョ―ンと跳ねて距離を取り、待ち構えてカウンター。
それも当たらなかったから、当てられそうな方法を考えたよ。
ジャンプ、ステップ、フェイント、鍔の持ち換え、色々なことを試したけれど、中々隙は見当たらない。
もっと変わったことをしないとダメなのかも。
「それじゃあ、こうしてみるよー!」
私は相手の前から消失したよ。
じつは寝転がっただけだけど、予測不能な行動にトレーシアの剣が空を切ったんだ。
ほんの一瞬の隙。
だけど、それでも充分なの!
するっと股の間を抜けながら爪で太腿をザックリ。
かなりかたかったけど、傷がついて血が出ているよ。
その色はちゃんと赤。
元々はやっぱり人間だったのかなぁ。
これで止まってくれれば……。
「がああああああ!」
そんなに甘くはなかったね。
傷なんて全く気にしてなくてさっきまでと変わらない。
ちょっと逃げてれば有利にはなりそうだけど、ここは正面から行っちゃうよ!
「にゃあああああん!」
剣の柄を振り上げて相手の剣めがけてガチンとぶつけたの。
そのダメージはトレーシアの剣を通して傷のある太腿に。
一発打つごとにブシュっと血が噴き出ているよ。
逆にこっちが受け止めた時も同じなの。
じゃあもう一回、もう一回!
観客席から歓声と罵倒の言葉。
それは何時も通りだね。
別に皆の為に戦うつもりはないけれど、ちょっとだけ勇気が湧いてくるかな。
よーし、このまま続けるよ!
「てえええい!」
数十回の打ち合い。
かすり傷は無数に受けて深い傷も数か所はある。
でもね、もうその時間を終わらせたいの。
「たああああああああ!」
グッと力を込めて全力の一撃を。
やっぱり受け止められちゃったけど、トレーシアはついに地面に膝を突いたんだ。
グッと体を起こそうとしても立ち上がれないみたい。
剣を振っても、もう私には届かないよ。
「これで勝ちだね!」
剣の切っ先を真っ直ぐ向けてその判定を待ったんだ。
でも解説の人から声がかからないの。
まだちゃんと倒していないから?
王女様を叩き伏せるのは気が引けるけど、今なら簡単にできそうだよ。
サッと背後に移動して、振り向く前に首筋にバチ―ンって一撃。
地面に倒れて一瞬だけ止まったけれど、直ぐにまた動きだしてしまうんだ。
私はトレーシアの背中に飛び乗って立てないように押さえたよ。
相手の力が強くたって流石にもう無理だから。
そしてついに……。
「これは流石に、決着ううう! ブレイズバトル決勝戦、決着ううう! まさかトレーシア様が打ち負かされるとは予想外の結末です!」
「そんなバカなあああ!?」
勝利判定とグレゴリーに悔しそうな声が同時に響く。
私の勝利に今まで以上の盛大な歓声が上がるんだ。
それと同時かな。
「モモ師匠、おめでとうございます! 優勝ですよ優勝! 最強が証明されたんですよ!」
入場口からはとても嬉しそうなラヴィーナが御主人を抱えて走って来るの。
ついでに慌てたゼノンや護衛の皆もだよ。
いっぱいいっぱい喜び合って飛び跳ねたりしていたけれど、それも長くは続かなかったの。
ここに雪崩れ込んで来たのが仲間達だけじゃなかったから。
武装した兵隊達数百人。
これはウィーディアの物じゃない。
剣を手に、私達全員を囲むんだ。
どう見ても友好的な雰囲気じゃないよ。
その波の中心から現れるのは大会主催者にして悪人のグレゴリー。
「一体これはなにごとだ!? こちらに居られるのはウィーディアの姫君であらせられるぞ!」
と、ラヴィーナの前に立つゼノンが声を上げたんだ。
「それを云うのならば、そちらに御座すお方は我が国の姫君ぞ。まあ、そんなことはどうでもいい。簡単に言えば貴様達はやり過ぎた。観衆の目の前で断罪してくれるわ!」
「とうとう我慢しきれなくなったか。しかし、こんな所でそんなことをして大丈夫なのか? お前が云う通り大観衆の目の前だぞ?」
「何もかまうことはない。これはこの国の王が許可されたことなのだからな! ウィーディアは隣国ですらない関わりの無い国だ。外交問題になったところで痛くもかゆくもないわ。さあ皆殺しだああああ!」
『おおおおおおおおお!』
兵隊の突撃。
会場全部がどよめいて入り乱れるような混戦が始まりそう。
「モモ師匠、ブレイズバトルは終わってしまいましたけど、ここからは私の時間ですから! フォローしてください!」
「うん、いいよー!」
(ラヴィーナに怪我させたら不味いもんね、頑張って守ろうね!)
「はーい!」
私はキャットスレイヴを手に持ったの。
全方向から迫る敵の兵士達。
でもこっちだってただやられる訳じゃないんだよ。
「全方向を正面に、腕を組むように円になれえええ! お前達、今までの訓練を忘れるな! 敵を中に入れるなよおおお!」
『おおおおおお!』
ゼノンの指示でまとまりを得たの。
ガッチリとした円形態。
中には回復と攻撃魔法を使える人が陣取っているよ。
私とラヴィーナも護ってもらえているんだ。
でもそれも何時まで持つのか分からない。
切り抜けるにはこの大軍を退けないとだね。
私は白猫ちゃんを呼び出して自分の傷を回復させたの。
「それじゃあ行きますよモモ師匠!」
「がんばろー!」
もう大丈夫。
まだ私は元気だし、まだ私は動けるよ!
「御主人はここで待っていてね」
(うん、負けないでね)
「大丈夫、あんなのに負けないもん! すぐ倒して来るねー!」
私は御主人に手を振って円陣の中から飛び出したの。
今まで使用を禁止されていたキャットスレイヴだけど、こういう時には便利だよ。
無数に分岐させてほぼ全員に攻撃するんだ。
一回で数十人。
致命傷は負わせないけど武器を持てないぐらいには無力化するの。
「お前達、あの愚かしいあいつから先にやるんだ!」
ってグレゴリーが私を指さしたけど、狙っても無理だから。
魔法も弓も槍だってぜーんぶまとめて防いじゃう。
反撃は倍返しだよ。
キャットスレイヴは無数に分岐し続けて敵を一気に貫いたんだ。
「モモ師匠、ズルいです! 私の出番は!?」
「云っている場合ですか! 東の入場口に逃げますよ!」
ゼノンの指示で仲間達は皆そっちに向かっていくけど、そんな時にもう一波乱あるみたい。
さっき倒したトレーシアが暴れ始めたんだ。
「やめろトレーシア! 命令だぞ!」
グレゴリーが叫んでいるけど、もう敵味方なんて判断がついていない。
むしろその場所に向かって、眼に見えたものを手あたり次第に薙ぎ払っているよ。
家猫のモモ
異世界に転生して人間となる。
御主人(ヒロ)
人間だったけど異世界に転生して白い猫になる。
エリオ・ジ・エイグストン(モモの従者)
ゼノン・ハイム・ディラーム(ラヴィーナの従者)
王子シャーン
王女ルシフェリア
王女ラヴィーナ(格闘が得意)
王女イブレーテ(長女)
シャーンのお母さんテルナ
ウィーディアの女王。
爺
シャーンやテルナの付き人。
フルール・フレーレ
ラヴィーナの師匠で格闘家。
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
モモの教育係。
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
冒険者、エルフの姉妹。
ベノム(ブレードバード隊、隊長)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(里帰り中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




