決勝に向ける
対戦相手は手を握り潰そうとしてきたジジ。
さっきの握手の時に弱体化の魔法をかけられてしまったみたい。
それでも私の方が強かったの。
ジジは遠距離から魔法を使うようになって空に浮かんだよ。
だから岩を投げて攻撃したけど、もっと高く上がっていく。
私は相手の魔法を利用し、竜巻に乗って高い空へ。
ちょっとピンチだったけど、ギリギリのところで勝利できたみたい。
ジジに勝って試合は残り二回。
あとは準決勝と決勝を残すのみだったんだけど、準決勝は行われないんだって。
私の相手だった毛皮の大男は、さっきの戦いで思った以上の怪我をしていたの。
治してあげるって言ったけど、対戦相手に施しを受けるつもりはないって云われちゃった。
そしてトレーシアの相手は自らの実力を察して辞退したみたい。
だから、残りは決勝戦だけなんだ。
でも、今はジジとの戦いでグチャグチャになった闘技場内の整備をしているから、もうちょっとかかるかなぁ?
そんな時に……。
「モモ師匠、こっちに来てください! ブラッディが目を覚ましたみたいですよ!」
休ませていたブラッディが目を覚ましたみたい。
(だって、ちょっと話を聞いてみようよ)
「うん、そうしてみるよー」
トレーシアと戦っている時に偽物じゃないかって疑っていたんだよね。
昔から知っているみたいなことを云っていたし、聞いてみたいことはあるかも。
サッと駆け寄るとブラッディは座り込んでいてまだ気分が悪そうだったよ。
あの時すごくいっぱい血が抜けちゃったもんね。
「大丈夫?」
「あ、ああ。治療をしていただいて感謝する。この恩は何れ返そう。しかし今はやることがあるのでご勘弁願いたい。グッ……」
ブラッディが立ち上がろうとしているけれど、まだ力が入らないみたい。
やることってなんだろう?
「うーんと、まだ無理だと思うよー?」
血が足りていないんだよね。
いっぱいご飯を食べて回復しなきゃ。
「そのようだ。治療をしてくださったお二人に、まして他国の姫君や決勝を控える選手であられるあなたに頼みにくいのだが、無理を承知でお願いしたいことがある。この町の北門にある兵士の詰め所まで届け物をしていただけないだろうか? これはこの国の存亡にかかわるかも知れない事態なのだ。どうか、この通り」
そして事情を話してくれて頭を下げてくれている。
「はい、分かりました! では私が行って来てあげますよ!」
ラヴィーナが自分の胸を叩くけど、
「姫、それは部下に走らせればいいです。勝手に走り回ろうとしないでください!」
やっぱりゼノンや護衛の皆が行く手を塞いでいるの。
「くっ、うやむやの内に行ってしまおうと思っていたのに、見破られましたか」
「当たり前でしょう。我等は常に監視しているのですよ。それと、手を貸すにしろちゃんと理由を聞くべきでしょう。万が一にでもウィーディアが巻き込まれてはかないませんから」
「えー、もう大体巻き込まれているよー?」
さっき戦ったジジも、大会主催者のグレゴリーも私達を目の仇にしてくるもんね。
「云わないでくださいモモ様、考えないようにしているんですから。それでどうなのですかブラッディ殿、理由をお話してくださるのでしょうか」
「分かりました、知り得ることは全て話しましょう」
ブラッディは覚悟を決めたような表情に。
「私は幼き日よりトレーシア様の護りてとして日々を過ごしていました。あの方は美しく、そしてとても優雅で可愛らしく成長なされて、最近はショッピングなどに興味を持たれて、一緒に同行することもしばしばで……」
「あー、つまり何を言いたいのですか?」
昔話をさせられている気分。
すごく長くなりそうなのを危険視したようにゼノンが話しを遮ったよ。
「つまり、トレーシア様は剣など握ったことがないのです。しかもあれほどの実力を持っているなど考えられません。……ですが私と対戦したあの方は、まぎれもなく本人でした。あの一瞬にトレーシア様しか持っていないペンダントを見てしまったのですから」
「ふーん、似ている物じゃないのー?」
(うん、一瞬だったもんね)
見間違いとか結構あるよね?
「有り得ません。あれは昔、自らの手で作った物なのですから。あの色、形、世界中を探してもトレーシア様しか持っておられません。きっと何かがあったに決まっています。ですから王に報せを出していただきたいのです。もし何かあったならば対応していただきたいと!」
幼馴染のお姫様を助けたいって気持ちがビンビン伝わってくる。
ゼノンもそれを感じ取ったみたい。
「その想い確かに感じとりました。良いでしょう。このゼノンが、と言いたいところですが、私には姫の護衛という大役がありますので、ここはお前に任せるぞエリオ・ジ・エイグストン。安心しろ、モモ殿のことはこちらで御守りする全力で行って来い!」
「ハッ!」
それでエリオが指名されちゃった。
すごく張りきっているみたいだから頑張ってほしいな。
それからブラッディはゼノンの持っていた真っ白な紙とインクなどを受け取り、事情を書き記しているよ。
ウィーディアの押し印をギューッとして完成したんだ。
印は違うけど、ちゃんとした物だから無下にはされないんだって。
「確かに受け取りました。しかしこれを届けるにしても城までには相当な日数がかかるのでは?」
それをエリオが受け取ったよ。
「確かに城までは遠いですが問題はないです。北の門には転送術式が設置されておりますので。人や物を問わず城まで送ることが出来るのです」
「なるほど、それならば安心ですね。では直ぐに行って参ります!」
そして北の門に走って行っちゃった。
「ねぇねぇ、エリオ一人で大丈夫なのー?」
私はゼノンに聞いてみたよ。
「ええ、エリオはああ見えてエリートなのです。剣も体術もそうそうな相手には負けますまい。安心して待っていてください。ま、ここの出場者のような強者と出会えば別ですがね」
「そーなんだー?」
だったら大丈夫かな?
それで大会の準備が終わるまで休憩して、お昼ご飯を食べ終わっちゃった。
大会が再開したのはそれから一時間後ぐらいかなぁ。
決勝戦ってこともあってお客さんは超満員なの。
エリオはまだ戻って来ないけど、そろそろ決勝戦が始まりそう。
今、解説の人が戦いを振り返ったりしているんだ。
「――素晴らしい戦いも次で最後。ついに決勝を迎えました! 東より現れよ、ウィーディアの勇者、モモオオオオオ!」
「はーい!」
ようやく呼ばれたから入場口を通って行くの。
会場からは、まばらな拍手が聞こえてくる。
そして向こう側。
「西より出現なされます。我が国の姫であり、美しく華麗でありそして強い! トーレシア・アグルバイト・リ・オール姫殿下!」
私の時とは違い大声援とコールが巻き起こったの。
相変わらず覆面だけど、顔が見えないにもかかわらず前と変わらない圧力を感じるよ。
それとね、キャットスレイヴの代わりに今回だけは普通の剣を使ってもいいって。
だからゼノンが貸してくれた予備の剣を使うんだ。
そこそこ重くて、そこそこ切れ味もよくて、そこそこ扱いやすい普通の剣だよ。
名剣ではないけれど、良剣の部類なの。
これで何処までやれるか分からないけど、やれるだけやってみるしかないよね。
「さあ、両名がコロッセオの中央で睨み合う。どんなドラマが繰り広げられるのか。熱いのか、冷たいのか、それとも!? 今、この舞台で、最強の英雄が誕生するぞ。会場の皆、舞台上の二人、準備は良いか!? さあ試合……開始いいいいいいいいいいい!」
解説の人から告げられた合図。
ドーンと響く始まりの鐘。
瞬間、トレーシアが急速に接近してきたの。
当然私も前に出て、剣と剣がぶつかり合ったんだ。
ギィンと響く金属音が耳に突き刺さるほどで、力比べはほぼ互角だよ。
ただ、この剣はそうはいかないみたい。
ガッツリと欠けちゃって長く続けていたら折れちゃいそう。
それを分かった上でか、トレーシアの斬撃が激しさを増していくよ。
切っ先は殆んど見えないけれど、体の動きから何とか判断して躱せるものは躱して受けなきゃいけないものだけを受け止めたの。
しっかりした剣だったのに、もう壊れちゃいそうだよ。
家猫のモモ
異世界に転生して人間となる。
御主人(ヒロ)
人間だったけど異世界に転生して白い猫になる。
エリオ・ジ・エイグストン(モモの従者)
ゼノン・ハイム・ディラーム(ラヴィーナの従者)
王子シャーン
王女ルシフェリア
王女ラヴィーナ(格闘が得意)
王女イブレーテ(長女)
シャーンのお母さんテルナ
ウィーディアの女王。
爺
シャーンやテルナの付き人。
フルール・フレーレ
ラヴィーナの師匠で格闘家。
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
モモの教育係。
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
冒険者、エルフの姉妹。
ベノム(ブレードバード隊、隊長)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(里帰り中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




