これがお見合い?
私とプラムは玉座の間に呼ばれていた。
前に進み、プラムが褒美を拒否したりしたけれど、それでも圧に負けて受け取ったりしている。
そして私にもピカピカ光るキャットスレイヴという剣と騎士の勲章を渡して貰えた。
で、そんな騎士になった私にグリフがお見合いの話しをもってきた。
どうも私ではなくて御主人にということだけど、あんまり乗り気じゃないみたい。
でもグリフにどうしてもと頼まれ、御主人は行くことに決めたのだった。
「おお、よく来てくださいましたグリフ老、それにモモ殿とアリア殿ですな。よくおいで下さいました」
私達を出迎えたのはゴリラという生物に似た目つきの悪い男だ。
白髪交じりの髪の毛をオールバックにしていて体格もそれらしい。
立派な服装がまるで似合っていないような感じがするこの人がグリマン・アーツ・ラグルトンかな?
ルシフェリアが云っていたように少し警戒感を持つぐらいに圧力がある。
でも私は負けない!
「こんにちは、モモだよ!」
飛び上がる様に元気な挨拶をした。
(こんにちは)
「グリマン様、お呼びがかけられていないのに失礼します。アリア・ファイリーズ、ご友人の連れとして参りました。今日はよろしくお願いしますわ」
「ははは、挨拶痛み入る。アリア殿も、これ程可愛いお連れならば構いませんとも。是非当家でお寛ぎください」
相変わらず圧力をビンビンに感じるものの、酷い対応はされないみたいだ。
それに、なぜかお見合いをするはずの御主人のことはまるで眼中にないみたい。
「グリマンよ、お前とは長い付き合いであるが、そろそろ老というのをやめないか。お前ももういい歳だろう。老人が老人と呼んでいては恰好もつくまい。わしのことは呼び捨てでも構わんぞ」
「確かに、俺も歳を取ったものよ。だが今更変えるのもなんだ、死ぬまではこのままでいかせてもらおう」
「ふぅ、まあ仕方あるまい」
「ま、立ち話もなんだ、客室に案内しよう。さあ着いて来てください、お二人とも」
私とアリアは頷き客室に案内された。
踝ぐらいまで埋まるぐらいフカフカの絨毯。
天井一面に広がって落ちてきそうなぐらいに近いシャンデリア。
物凄く大きく威厳があるように描かれた自画像。
一見熊みたいに見える角のある動物のはく製。
何だかよく分からない置物の数々。
そんな感じの部屋で金のテーブルをはさんで金の椅子に座らされた。
出てくるお菓子とお茶も結構良いもののようで、私の目や鼻が引きつけられる。
「さて、お見合いということでしたが、まあその前にお茶でもどうぞ。こちらも用意がありますのでな」
「うむ、そうさせてもらおう」
これは食べて良いということだろう。
「ではいただきますわ」
「いただきまーす!」
私はガシッと山盛りでお菓子を握りしめた。
そのまま口の中に放り込もうとしたんだけれど、
「あらモモさん、何時も教えているマナーはどうしましたか?」
アリアの想像以上な迫力に恐れをなして一つだけにしておいた。
でも充分に美味しいからもう一つ。
やっぱりもう一つ、やっぱりもう一つ!
私はそれを超高速で繰り返した。
そして締めにお茶をごく。
満足だけど、アリアはちょっと呆れた顔になっている。
「まだまだ教えが足りませんわ。もっとビシビシいかなければ」
皆がお茶を楽しみ少しだけ落ち着いていると、
「さて、そろそろ準備が出来た頃ですかな」
グリマンは自分のカップをテーブルに置いた。
「眠気が……」
「こ、これは……何だ……まさか、グリマン、わしを謀ったのか……」
隣に座っていたアリアとグリフが突然眠気を覚えてテーブルに倒れてゆく。
まさか食べて眠くなったのか。
二人ともずるい、私も寝よう。
同じように目を閉じていると、
(モモ、大丈夫、モモ!?)
耳元で御主人の声が。
「御主人うるさい、眠れないよー」
「ふむ、入れる分量を間違えましたかな。少し効きが甘いようですな。それとも獣人には効き辛いのでしょうか?」
(お前、もしかして何か入れたのか!)
御主人がグリマンと云い合っている。
でも言葉は通じないよ?
「おや、御主人の危機を感じ取ったのですかな。猫が少々うるさいですな。まあ安心しろ、友人と厄介そうな相手には少々閉じこもって頂こうと……説明したところで意味はないな。おい、例の部屋に連れていけ」
目を閉じている私の体が持ち上げられた。
ベッドに運んでくれるのかな。
(ちょっとモモ、起きて、起きてって!)
「えー、もうちょっと寝ていたーい。皆寝ているしー」
今はゴロゴロしたい気分。
そのまま連れていかれると、結構かたい場所にポンと置かれた。
そしてガシャンと何かの音が。
まあ良いか、静かになったし……。
(モモー!)
ってなってないみたい。
御主人が耳元で叫んでいてやっぱりうるさい。
それに床はかたいし寝心地は悪い。
もうちょっと良い場所を見つけるまで眠るのはやめておこう。
「御主人、せっかく睡眠チャンスだったのに」
私はヒョイっと立ち上がる。
周りを見てみるとここは牢屋? みたいな場所だった。
小さな空気窓が付いているだけで、あとはトイレが一つ置いてあるだけの何も無い部屋だ。
前に見える全く飾りっけのない通路の手前には通せんぼするように鉄の格子がある。
部屋についている窓も小さくて出られそうもない。
(よかった、無事だったんだね)
御主人が心配そうに見ているけれど、
「え、私二人が寝ちゃったから普通に寝ていただけだよー」
私は二人に便乗しただけだ。
(ええ、そうなの!? でも危なかったんだから、あの場合は起きなって!)
「そうなんだ?」
圧は感じたけれど、敵意は感じなかった。
じつはいい人……という風でもないかなぁ?
(とにかく二人を起こそうよ。モモ、できるかな?)
「叩いて?」
(じゃなくて、前に使った魔法みたいなやつとかで)
「やってみるー!」
私は魔法で白い猫ちゃんを呼び出した。
その猫ちゃんはペロッと二人を舐めるとピクっと反応している。
でも目を覚ます気配はない。
ニャーと猫ちゃんが云うには二人とも怪我はしていないそうだ。
別の猫ちゃんを呼んでくれと云っている。
「御主人、起きないよ?」
(……仕方ない、ここはたたき起こすしかないかな)
でもアリアは叩きたくないからグリフの方を叩いてみよう。
前にも思いっきり叩いても平気だったし、きっと大丈夫!
「グリフ、起きて―、起きて―!」
私はある程度力強くグリフの頬を引っぱたいた。
「ブフォオオオ!?」
目玉が飛び出るぐらいに見開いてありえないような表情をしている。
ちゃんと起きたみたいだ。
「あ、起きたー!」
「起きたじゃありませんわ。首が吹き飛んだかと思いましたぞ! モモ殿はわしを殺す気ですか全く! はぁ、ですがようやく目が覚めました。グリマンめ、一体何を企んでいるのか」
そう云いながらも瞼が重そう。
「もう一発?」
(ないって、それはないって!)
「いやいやこのぐらい全然平気なのですよ。ほらこの通り!」
御主人も止めるし、私の親切を遮るように血走った目を手でこじ開けるようにしてグリフが仁王立ちしている。
もう眠気は消えたようだ。
「とにかく、アリア殿を連れてここから出なければなりませんな」
私達がそんな感じで話していると、
「おや、もうお目覚めですか。やはり独学では上手くいかないものですな。こうして書いた手紙も無駄になってしまったではないか」
グリマンが使用人を引き連れてこの場所へ。
手に持っていた手紙をポイっと投げ捨てた。
「グリマン、何故こんな事をした!」
グリフは物凄く怒っている。
「なになに?」
全く理解できていない私は首をひねるしかないけれど。
(モモ、ここは大人しく聞いておこう。何か情報が聞けるかもだし)
「うん、そうする!」
御主人の言いつけ通りに大人しく見守ることに。
「グリフ、慌てなくても説明してあげますよ。三年前の戦争、それによって起こってしまった王の交代。あれは仕方ないことだった。だが、何故あんな小娘が王なのだ、王の血族ですらないあんな娘が! それにあのガキ共もだ! あんな物はただの奴隷だろう、そんなものが王族面しているなんて耐えられるか!」
「なるほど、王に不満があっての謀反か。陛下を決められたのは前王であらせられるぞ。それでも許せぬか!」
「当たり前だ、それだけは絶対に許せるものか、あんな小娘が王であり続けるのならば、俺がこの国を変えてやる!」
「ならばお前はただの敵だ。慈悲も無く斬り倒すのみ!」
グリフは腰に手を伸ばす。
でもそこに剣は見当たらない。
「武器は此方で没収させてもらっている。お前達はここで見ているがいい。この国の行く末をな」
「待て、グリマン、お前一人で勝ち目があると思っているのか! こちらには魔戦将軍もいるのだぞ!」
「フハハハハ、そんなものは対策済みだ。一人は他国へ遠征中、一人はただの木偶、もう一人は未だに暴走の最中。残されたのは王のみよ。それに、こちらにはドレッド・デーモンを筆頭に数多くの悪魔どもが手を貸してくれているのだ。これで負けるはずがあるまい!」
「まさかプラム殿を襲ったドレッド・デーモンも貴様が!?」
「それはまあご想像にお任せするよ。ではそろそろ失礼させて頂こう。俺が王になった時、気が変わってくれることを期待しているぞグリフ老。今度は親友ではなく部下として一緒に暴れてくれ、フハハハハ!」
グリマンは笑い声を上げながらさってゆく。
「おのれ、奴の好きにさせてなるものか! ここから早く脱出しなければ!」
グリフが鉄の格子を揺らそうとしているけれどビクともしていない。
私もこんな居心地が悪い場所に長く居たいとは思わないし、そろそろ脱出するのもいいだろう。
自慢の爪を引き出して鉄の格子に切りかかった。
ザシュっと切り裂いたのは良いものの、一瞬で復元して元の状態に戻ってしまう。
こうなったら復元する前に全部壊してしまうしかない。
フッと構え飛びかかるも、結果はやっぱり同じだった。
周りの壁も同じような感じだ。
「モモ殿、修復の魔法がかけられているようです。これでは何度やっても無駄ですぞ」
「じゃあ出られないのー?」
「仕方ありませんな、モモ殿、他の方法を考えましょう」
(鍵さえあれば出られそうなんだけどね。流石に近くには置いてないかな)
「御主人なら出られるんじゃないのー?」
この格子の隙間ならギリギリでいけそうな感じがする。
(無理無理、絶対無理!)
「ちょっと押してみていい?」
(ダメダメダメダメダメ、ダメだからダメ! 頭ぐらいはいけても体は無理だから。挟まったらどうするの、ずっと抜けなくなっちゃうよ!)
「猫って結構いけるんだよー?」
「猫といえば、そうだモモ殿、キャットスレイヴは手元にありますかな?」
キャットスレイヴといえば何にでもなるという変幻自在の剣だ。
普通に持ち運ぶのは邪魔だから今はペンダントにして首にかけてある。
御主人の提案だ。
「うん、ここにあるよ」
私はペンダントを取り外し剣の形状に変化させた。
「グリフ、これでどうするのー?」
「鍵にして牢を開けるというのはどうでしょう。この牢の鍵はそう難しい形状ではないかと。少しずつ修正していけば何れ出られるはずです!」
「うん、やってみるね」
手で鍵穴を探し、その大きさになるように剣を鍵に変化させていく。
もうグリマンが居なくなってから大分時間が経っている。
「モモ殿、もう少しこう歯が四角く平たい感じはどうでしょうか」
「それ結構前にやったよー? ねー御主人」
(たぶんやったね。じゃあこういう感じで歯が二つ付いた感じはどうだろう)
「うん、ためしてみるー!」
私は休みなく調整を続けていると、ついに確かな手応えを感じた。
ガチャッと開く牢の扉。
誰かがやってくる気配もない。
「おお、やりましたなモモ殿、これで外に出られますな!」
(モモ、お疲れ様)
「ふー、ちょっと大変だったよー」
それからアリアを運び出して私達は牢から脱出したのだった。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




