激突
酒場の中グチャグチャになるぐらいの戦いが続く。
二対一でも相手は相当強いんだ。
奇襲をしかけたけど外されちゃった。
でも、相手の蹴りに合わせた蹴りは私の方が強かったよ。
このまま長引くかなって思ったけれど、兵士達が雪崩れ込んで来ちゃった。
ブランジェはやる気を無くしたように逃げていく。
それから事情説明とかして開放されたけど、酒場のマスターに怒られちゃったよ。
弁償するってことで今日泊めて貰ったんだ。
ご飯は食べた、お腹は充分。
今は何時でも来いって感じだよ。
何所から来る?
あっちかな、それともあっちかな?
……来た!
まだその姿は見えないけれど、ちゃんとわかるよ。
強い風、葉鳴りの音にも負けないぐらいの気配が、一歩、また一歩と近づいてくるの。
これはモンスター何かじゃなくて間違いなくブランジェのものだ。
「フルール、来たよ」
「ええ、感じているわ。気を引き締めて行きましょう。奴はきっと正面から……」
「反応が遅いぞ!」
さっきまで遠かったブランジェの気配が一気に近づいて私達の目の前に。
これは酒場で会った時にしてきた顔掴み。
私は回避することが出来たけど、フルールは真面に食らい、
「がはッ!」
地面に頭を叩きつけられてしまったの。
止まらずに二撃目が顔面に、三撃目が振りかぶられて……。
「それ以上させないから!」
私は走ってブランジェに迫る。
強烈な蹴り、続けてもう一回、それでも手を止めてはくれないの。
「良い攻撃だ、だがもう少し待っていろ。邪魔な奴はこの場で叩き伏せてくれる!」
「やめろ、やめろ!」
私もガンガン攻撃を続けるけれど、フレーレはそのまま強く強く打ち付けられて動けなくなったんだ。
意識を失った、それとも死んじゃった!?
早く回復しなきゃ!
「猫猫召喚……」
私は心の光に集中して……。
「遅いわああああ!」
ブランジェに邪魔されて発動が出来ない。
早くしないとフルールが死んじゃう。
早くしないと!
「どうやら戦いに集中できないようだな。ならばこいつを先にいいいい!」
どうにか回復をしないとと藻掻いていると、ブランジェからあまりにも無慈悲な一撃が。
フルールの気配が……完全に、消えちゃった……。
「ふん、馬鹿娘が。もう邪魔者は居ない、さあ存分に高め殺し合おうではないか!」
私は目の前に居たのに、フルールはお友達って云ってくれたのに、こいつはお父さんなのに、どうしても許せない……。
絶対に許せない!
気持ちが昂って感情が抑えきれない。
「シャアアアアアアア!」
私は威嚇するように声を出した。
「ようやく本気を出すのか、面白い! 俺を萎えさせるなよ!」
ブランジェが今まで以上の速度で迫ってくる。
きっと途轍もない威力がある攻撃が来るのだろう。
「ぐげぇ!?」
けど、そんなのもうどうでもいい。
それより先に、もっと速く、もっと鋭く、もっともっともっと強く、私のパンチが炸裂したの。
ブランジェが遠くに吹き飛ぶけど、私はまだ止まりたくない。
フルールが感じた痛みも全部、あいつに返してあげなくちゃ。
馬乗りになってその顔を叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて叩いて……。
「シャアアアアアア!」
こいつには止めを刺さなくちゃ!
爪をジャキんと引き出して、喉元に振り払った……。
「調子に……乗るなあああ!」
思ったよりも活きが良い。
爪を引き出す一瞬の隙をつかれて片腕で投げ飛ばされてしまった。
「思った以上に化物だったか。だが、面白い! そろそろ決着をつけてやろう。そこに転がる屑のようにな!」
「フシャアアアアア!」
着地は万全、もう一度!
今度はちゃんと殺さなきゃ!
強烈な激突は、
「馬鹿な、こんな奴に負けるだと。……この俺が!? ふふふ、それもまた良しだな。……ガハァ!?」
思ったよりもあっさりと私の勝利で終わったよ。
下に転がるのは笑っている残骸だけ。
フレーレは……。
「ああああああああ、ああああああああん」
この戦いに得るものなんて何にもなかった。
ただ友達をなくして人を殺してしまっただけだ。
悲しくて、とても悲しくて、この草原で一人涙を流し続けたの。
御主人、ごめんなさい。
「あーん、ああああああん!」
ずっとずっと後悔して泣き続けていると、天から光が伸びてきた。
天使様が慰めてくれているのかもしれないけれど、それでも悲しさは収まらない。
そんな私の前に小さな生物が横切った。
こんなに悲しくなければ遊びたくもなるけれど、今はそんな気分にはならないの。
とめどない涙に押しつぶされそうな私の耳元に、
(モモ様、助けに参りましたです。天使様のお蔭で時の精霊として生まれた私の力をお使いくださいです)
囁くような声が聞こえて来た。
フッと顔を上げると、妖精のように小さくてタキシードを着た男の子が浮かんでいたの。
全く知らないのに何故だか知っている。
この口調、聞いたことがあるよ。
もしかしてラビッシュなの?
「……どうするの?」
それは嬉しいけれど、今はそれよりフルールを助けたい。
(時の精霊となった私は、生涯に一度だけ時間を巻き戻すことができるのです。この力を使えばフルール様も助けることができるですよ。ですが、そこで助けられるかどうかはモモ様次第です。チャンスは一度、準備はよろしいですか?)
「うん、大丈夫! 絶対助けて来るから! お願い、ラビッシュ!」
私は流れる涙を服の袖で振り切った。
(では、参りますです!)
ラビッシュが祈る様に手を組み合わせるとキュンッと景色が歪み、今までの時が戻っていく。
ブランジェに止めを刺す景色、戦いの最中、フルールが殺される瞬間、そして、ブランジェが到着する手前。
立ち尽くす私と、隣にはフルールの姿。
「――気を引き締めて行きましょう。奴はきっと正面から……」
「反応が遅い!」
ここが到着地点。
私は気を抜かないよ。
相手が来る場所も、やってくる事も分かっているんだ!
「にゃああああ!」
お友達を救うために、タイミングよく手を突き出した。
あまりにも強烈に入ったのは、全速全開で放ったカウンターパンチ。
「うぐぁ!?」
フルールの体には触れさせてあげないんだ。
吹き飛ぶブランジェ、未来が変わったよ!
ここからの行動が分からないけど、
「フルール、油断しちゃダメだからね!」
「ええ、もうしないわ! 一秒たりとも、絶対に!」
絶対に油断はしない、ここから全部全部こっちのターン!
「じゃあ行くよー!」
「ええ!」
「かかって来いよ、愚か者共よおおおお!」
両手を広げるブランシュに、私とフルールは一気に駆けだした。
蹴り、拳、その動きも癖だって今の私にはハッキリわかる。
全てをいなし、全てを返す、そして反撃の一撃を。
バーンと顎のところにクリーンヒット!
「ば、馬鹿な、この俺の攻撃が何も通じないだと!? そんなはずは、そんなはずはない。俺は、世界最強だああああああ!」
何もかもが通じずに狼狽え始めるブランジェ。
身を竦ませて一歩後ろに下がるけれど、それでも前に出てきたの。
「キャットスレイヴ!」
私は必中の斬撃を繰り出した。
全方向に伸びる刃に逃げ場はないよ。
「何だこれは、こんなもの……。こんなものおおおお!」
振り払えば振り払っただけブランジェを絡め取る。
もう逃げられない、逃がさない!
「終わらせるよ!」
「もちろん、これまでの運命を全てここで断ち切るわ!」
『てえええええええええい!』
「ぐああああああ!?」
私とフルールの攻撃は、動けないブランジェに強烈にヒットしたんだ。
流石に耐えきれずに白目をむいているよ。
後はこれをどうするかだよね。
「モモ、ありがとう。あなたのお蔭でようやくブランジェを倒すことが出来たわ。これでお母さんの無念を晴らすことも出来たでしょう。本当にお世話になったけど、後は私に任せてくれないかしら? これ以上お世話になったら恩が返せなくなっちゃうしね。ね、それでいいでしょ?」
フルールはとても穏やかにそう云っているの。
でも私、分かるよ。
二人にさせたらブランジェを殺すんだよね。
「大丈夫、まだ疲れてないんだもん。悪い奴を捕まえて皆にいっぱいいっぱい誉めてもらうんだ! だからね、こいつは私が運んじゃうよー!」
私はブランジェを捕まえたまま、フルールを置いて走って行ったんだ。
振り返ってみると、フルールは手を伸ばしたまま追いかけてはこないみたい。
一人で置いて来ちゃったけど、そこら辺のモンスター何かに負けないよね?
私は気にせずお城に戻って行ったんだ。
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
王女ルシフェリア
王女イブレーテ(長女)
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ベノム(ブレードバード隊、隊長)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(里帰り中)
ジャック・スロー (天狼ジャックスロー隊長、白い狼男)
クロノ・アークス (シャーンとルシフェリアのお友達)
シャルネリア・シャルル・シャリアット(同上)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




