犯人と対決だ!
私はアリアに事情を話すと一緒に行動することに。
トーナメント優勝者が泊まる部屋を見つけて内部を探す。
グチャグチャに荒らされて血とかが飛んでる惨状だ。
私は目撃者がいないかと気配を探り、窓の外にある隣の塔を指さした。
そこはシャーンの妹であるルシフェリアという子が引きこもった部屋だという。
アリアは入れてはくれないと云うから窓からの侵入しすることに。
高いバルコニーにジャンプし、御主人と一緒に入って行く。
突然の侵入に驚くルシフェリア。
御主人を向かわせたり色々しながら信頼を得て、私はルシフェリアとお友達になったのだった。
ここにやってきたアリアと一緒に話を聞くと、天狼ジャックスロー隊の金髪女が関わっているということを知ることが出来た。
ルシフェリアも一緒に連れ出し、その隊舎へ向かうのだった。
「着きました、ここが天狼ジャックスロー隊の隊舎です」
アリアが案内したのは城の裏手にある庭の一角。
そこにあった結構立派な建物。
屋根には狼の模様がついた旗が掲げられているから間違いようがない。
灯りはなくてもう寝静まっている感じがする。
「じゃあ突撃ー!」
(行っちゃえー!)
「ええ、行きますわよ!」
「う、うん……」
でも関係無い。
私達はドンドンバンバンと扉を叩く。
そんな騒がしさを聞けば中の人はビックリして飛び起きるはず。
「な、なんだ、襲撃か!?」
「いや訓練だろ、たぶん」
「でも隊長は奥で寝ているはずなのでは!?」
ほら、こんな感じ。
急いで扉が開けられたけど、私達の顔を見て面食らっている。
準決勝で戦っていたグローの姿もあるの。
「おい、悪戯なら許さんぞ」
「そーだ、そーだ、俺達は気持ちよく眠っていたんだからな!」
シャーンの妹であるルシフェリアがいるけれど、誰も気にした様子はない。
やっぱり三年間も閉じこもっていたら顔が知られていないのかも。
まあそれはいい。
目的は金髪の女だ。
見回してみると二人ほど金髪の女性が見えた。
片方はショート、片方はセミロング。
何方かが犯人?
それとも、もう一人いたりして?
「ルシフェリア様、分かりますか?」
「……ごめん、わからない」
アリアの質問にも首を振っている。
(これは困ったね、金髪ってだけじゃ見分けようが無いよ)
「御主人、プラムは血を流していたし、私、分かるかも」
「モモさん分かるのですか!?」
「うん、やってみるー!」
私の嗅覚は人間よりも優れているのだ。
例え拭いたり洗ったりしても血の臭いぐらい簡単に見分けてみせる。
無造作に二人の女に近づいて臭いを嗅いでみた。
「あー、この人から血の臭いを感じるよー!」
指さす先はショートのパンツ。
「な、なにいいいい!?」
「はああああ!?」
驚く皆とショートの人。
そして私の後頭部にアリアの手が振り下ろされた。
ちょっと痛い。
(モモ、たぶんそれ違うから! 謝っとこう、うん、そうしよう!)
「え、そうなんだ? ごめんなさい」
ほぼ全員が並び、よく分からない雰囲気になっている。
でも違うなら犯人は別の人?
「これは一体何事だ!」
顔じゅうが白い毛で覆われた犬人間……違う、狼かな?
そんな顔の人が私達の前に現れた。
もう剣も鎧も身に着けているし、明らかに他の人達とはオーラが違っている。
その人は私達――というかルシフェリアの顔を見るとバッと膝をついた。
「ルシフェリア様、お元気そうで何より。このジャック・スロー、御帰還を心よりお待ちしておりました」
「う、うん」
ルシフェリアが本物の王女だと分かって他の人達もザワザワとして同じように膝を突いていく。
「それで何用でこちらに?」
狼男ジャックが私達の顔をジロっと一睨み。
「それは、わたくしから説明しましょう。ですがその前に御人払いをお願いしたいですわ。出来れば、あまり公言したくないお話ですので」
それに怯まずアリアが説明をしてくれた。
「よろしいでしょう。お前達、城内を一周回って来い。寝ている者もいるのだ、声出しはしなくていい。ゆっくりと回ってこい」
ジャックの言葉で兵士達が着の身着のままで走っていく。
残っている私達とジャックの四人だけだ。
「……それではご説明いたします。今回のトーナメント優勝者、プラム・オデッセイが寝ているところを襲われました。酷い怪我をして賞金まで奪われたそうです。その容疑者として、この隊にいる金髪の女に容疑がかかっているのです」
「な、なんと、それは何かの間違いなのでは!? 我が隊にそのような卑怯者が居るはずは……」
仲間が疑われているから庇おうとしている?
「これはルシフェリア様が目撃された情報です。その犯人はルシフェリア様が引きこもられているのをいいことに目の前で罪を犯したのです。これが許されて良いことなのでしょうか!?」
「た、確かに、ルシフェリア様の言葉を疑うことは致しません……」
でもルシフェリアの名前を出したら納得はしてもらえたみたい。
「それで金髪の女は何人なのー?」
私は率直に聞いてみた。
「隊には三人、隊舎に眠っていた二人と、夜間見回りに駆り出された一人がおります」
「モモさん、あの二人ではなかったんですよね?」
「うん、血の臭いはパンツからしか感じなかったよ」
「それは云わなくてよろしい! 明日からもう少しデリカシーのお勉強をさせますからね!」
またアリアからパシッと頭を叩かれた。
「えー!」
私はなんで罰を与えられたのだろうか?
うーん、謎だ。
「はぁ、とにかく、その人の特徴と名前を教えてください」
「金髪、赤目、背はそちらの獣人、ストレイキャットと同じぐらいでしょうか。トーナメントで決勝を戦ったグローとは仲が良く、名を、カーミラ・デモンズといいます。仲間からは悪魔などと呼ばれている血の気の多い奴です」
「なるほど、グロー様に恋心でも持っていたのでしょう。それで血が上って止まらなくなったのでしょうね。それで、今はどの辺りにいらっしゃるのでしょうか?」
「月の位置から察するに、正規の巡回ルートを辿っているとするなら、今は食堂の辺りに向かっているはずです」
「食堂!? 私分かるよ、行ってくる―!」
食堂にはいつもお世話になっている。
場所はインプット済みだ。
「ちょっと、モモさん」
「アリアは御主人とルシフェリアをお願いね!」
私は皆に背を向けた。
「分かりました。でもまだ興奮している可能性があります、モモさん、お気をつけて」
「い、行ってらっしゃい」
(モモ、行ってらっしゃい)
「はーい!」
三人に手を振りながら食堂へ。
中は暗いけれど私の目はほぼ昼間と変らず城内を見通している。
人の気配はそこら中から漂っているけれど、動いているのはほぼ数人。
私が見つけ出したいのはプラムを襲ったカミーラという奴だ。
「臭いがする……血の臭い」
これは間違いない。
プラムの血の香り。
かなり近いけど、これは何処から?
……食堂の中からだ。
一気に扉を開けてその中に。
ご飯を食べるテーブルの奥。
皆が入らせてくれなかった厨房の中。
金髪の女はランタンをテーブルに置き、水場で剣や体の返り血を洗い流していた。
これはもう確定だ。
絶対に許さない!
「カミーラ―!」
グッと足を踏みしめて、音を置き去りにするような俊足で迫る。
問答無用、足を前に、今必殺の……。
「にゃんこキイイイイイック!」
凶悪無敵、誰にも止められない強烈なキック。
カーミラを巻き込み、厨房を大破し、奥の壁を突き破ってお城の庭に飛びだし滑って行く。
倒れた女はカーミラで間違いないけれど……ちょっとやり過ぎてたかも。
ぼっこりと鎧が凹んでいるし、もしかして死んでいる?
ああ、皆に怒られたらどうしよう。
そんな風に悩んでいる間にも、爆音を聞いて見回りの兵士達が集まってくる。
困った、これは困った!
こうなったら逃げるしかないかも。
「何なのだ貴様、この恐ろしい打撃は! いきなり何をするのだ!」
心配するぐらいの威力だったはずなのに、カーミラは赤い目をギラギラに光らせダメージを受けながらも起き上がった。
そうとうな怒りがあるのか、口から見える犬歯がグッと伸びていく。
でも変化はそれだけじゃないようだ。
着ていた鎧も服を引き裂くような感じで脱ぎ捨て、その体が大きく太く変っていく。
この世界に来て色々な人間を見て来たけれど、何だろうこの感じは。
まるで人種ではないような、そんな感覚だ。
……いや、これは違う。
絶対に違う。
これも魔物という存在だと天使様がくれた知識がそう告げている。
「何の騒ぎ……うッ……ドレッド・デーモンだと!? バカな、何故災害級の魔物が城の中に入っているだと!?」
「人を集めろ、師団長もだ、早く!」
集まった人達は仲間を呼ぶように声を上げる。
これが脅威なことらしく更に騒ぎが大きくなっていく。
でもなんか私が怒られる雰囲気はないから助かったのかも?
それに倒してもいいみたいだ。
でもキックはあんまり効かなかったから、
「今度は引っ掻いてやる!」
指先から爪を引き延ばした。
「バカめ、例えどれ程の力を持っていようと、その程度の爪がこの我に効くものか! この肉体は伝説の武器の一撃しか効かないのだよ、フハハハハ!」
と、何か喋っているけど関係無い。
相手を見据えて右足を踏み出した。
ダッと着地したのは遥か前方に見えていた場所。
「フハハハハ、傷みすら感じぬわ! 愚かしき者よ、さあ死ぬが……ん、待て、なぜそこに我の足がある? 何故我が体が目の前にあるのだ!? おかしい、そんなはずは。そんなはず……は……ぁぁ……」
言葉を発している上半身は地面の上だ。
徐々に喋る事すらできなくなってゆく。
完全に沈黙すると、残された下半身が倒れ、灰のように散らばり消えて行った。
「うおおおおお!」
「あれを倒すとは、モモ殿は師団長並みの強さか!」
何か周りの兵隊が色々盛り上がっている。
ちょっと照れてしまう。
そこに白い狼男、ジャック・スローがアリアとルシフェリア、御主人を抱っこしながらこちらに走ってきた。
「この騒ぎは一体?」
ジャックは周りの兵士に説明を求めている。
その間にも三人は腕から下ろされ私の下へ。
「モモさん、カーミラは!?」
「モモ、大丈夫?」
(モモ!)
「うん、大丈夫だよ、私が倒しといたー!」
「それでカーミラは何処に!?」
「……うーん、消しちゃった?」
私は簡潔に事情を伝えた。
「え、まさか殺しちゃったんですか!?」
(モモ、人殺しはダメだって言ったよね!?)
「モモ、強いんだね」
ルシフェリアはちょっとだけ憧れの眼差しを向けてくれるけど、他の二人は怒っているようだ。
「でも、アリア、御主人、皆が倒さなきゃって云っていたし。あれ人じゃなかったしー!」
あわあわと説明していると、
「待ってくださいお二人とも、モモ殿は悪くはない。追っていたカーミラはドレッド・デーモンが化けたものだったからです」
ジャックのフォローがあり、
「何ですってえええ!?」
(えええ、そうだったのおおお!?)
「やっぱりモモは強いね。すごい」
何とか罰は回避できたようだ。
「しかしそんな魔物が我が隊に侵入していたとは、一生の不覚です。この罪は償わなければなりませんな……」
ジャックは相当落ち込んでいる。
ちょっと協力してくれたし慰めてあげよう。
「悪いのはカーミラだし、ジャックは悪くないよー!」
「そう云ってくださると助かります……」
「それにしても、なぜ魔物がプラム様を、まさか魔物がグロー様に恋心を抱くはずもありませんし」
「いや、それは分からん。もしかしたらグローの奴が飼いならしていたという可能性だってあるからな。まあこれ以上我が隊の恥を考えたくないものだが……」
ジャックは自分で言ってまた頭を抱えている。
「私、許してもらえるように、お母さんにお願いしてみるね」
「ありがとうございます、ルシフェリア様」
大騒ぎになったこの事件は、結局明るみに出ることになった。
まだ何者かが潜んでいる可能性があるとして、城内や町の徹底的な捜査が行われていく。
その過程で分かったのは、カーミラがグローに大金を賭けて勝負していたということだった。
たぶん賭けに負けたのが悔しくてプラムを襲ってしまったのだろう。
でも、魔物が大金を得て何をしようとしていたのだろうか?
まだ盗まれた賞金は見つかっていないし、全く分からないままだよね?
家猫のモモ
御主人(ヒロ)
王子シャーン
シャーンのお母さんテルナ
爺
青鎧のブルース・グライブス
教育係アリア・ファイリーズ
赤髪の槍使い、リーズ・ストライプ(エルフ)
桃髪の魔術師、カリン・ストライプ(エルフ)
ルーカ(孤児)
プラム・オデッセイ(ブルースに頼まれて特訓中)
剣と魔法の世界 ミドレイス
翼の生えた子供 ウリエリア




