きっかけ
「もしかして俺たち……」
「……入れ替わってる!?」
2人の中年男性、清水と塚本はひょんなことからお互いの体に魂が乗り移った。
「はあ……どうせなら美少女と入れ替わりたかったなあ」
「ははは、全く同感です
でも、それだと女の子がかわいそうですよ」
「ですよねえ
それで、これからどうしますか塚本さん?
家族や会社にバレないようにしないとですよ」
「いやあ、清水さん
実は私、10年前に離婚してから独身貴族の生活を謳歌しております
それと半年前に会社が倒産して以来、まだ仕事が見つかってないんですよ」
「あら、奇遇ですね
私も似たような状況です
これなら身近な人間にバレるリスクは少なそうですね」
「ええ、安心しました
ちなみにお住まいはどちらなんですか? 私、練馬ですけど」
「おや、私も練馬です
これなら何か問題が起きてもすぐに駆けつけられそうですね
連絡先を交換しておきま……あっ」
「どうしました清水さん?」
「いや、ごめんなさい塚本さん!
自分のだと思ってつい、スマホ開けちゃいました!」
「スマホ……ああっ! 指紋認証!
ってことは見られてしまったんですね……ホーム画面……
ドン引きですよね……ええ、お察しの通り、私、ケモナーなんですよ」
「安心してください塚本さん!
私のスマホを見てください!
同じく指紋認証で開きますから、どうぞ!」
「……あっ!
清水さんも同じ趣味だったんですか!?
よかったあ〜〜〜 命拾いした〜〜〜!」
「しかも傾向まで似てるっぽいですね
私はヒト3:ケモ7くらいの割合が主食なんですが、
そのへんのこだわりはお持ちですか?」
「ええ、ええ、わかりますとも
人間の顔にケモ耳がついてるだけでは物足りないですよね」
「さすがはわかってらっしゃる
……っと、おや?
『おとぎ三国志』のアプリがありますね
実は私、サービス開始初日からプレイしてるんですよ
無課金勢なんで全キャラは持ってませんがね」
「なんと、私もそうなんですよ
クリアしてないのは『ガラスの城』だけです
あそこだけは全然進めなくて諦めちゃいましたよ」
「ああ、初見殺しのステージですね
あそこは親指姫を使うといいですよ
体重が軽いので、足元のガラスが割れないんです」
「ああなるほど、そういうギミックだったんですね」
「私は『毒リンゴ園』で行き詰まってますねえ
攻略サイトを見れば一発なんでしょうけど、
なんというか、ゲーマーの意地みたいなものがあって……
まあ、それほど上手くはないんですけどね」
「ええ、その気持ちわかります
ちなみにそのステージで活躍するのはブリキの兵士ですね
生物ではないので毒を無効化……って、ああ、しまった
答えを言っちゃったら楽しみが半減しますよね」
「あ、いえいえ、大丈夫ですよ
先にネタバレしたのはこちらですし、
自分自身から教えられた情報ですから」
「はは、どうりで他人の気がしないはずだ」
こうして彼らは友人となり、その後も入れ替わったままだったが、
特に問題も起こらず、50年にも及ぶ親交を深めるのであった。