プロローグ
東京都私立上野動物高校には校庭にある古い大きな桜の木のしたで結ばれた恋人は永遠に幸せになるという伝説がある。この伝説がいつから語り継がれているのかは誰にもわからない。また本当に幸せになれるかどうかもわからない。だが、この伝説があることだけは事実である。
今日もまた桜が咲いた木の下で二人の男女が向き合っている。
「委員長、いや、若月さん俺と付き合ってください!!」
「ごめんなさい」
しかし、ここで告白した男女が必ず結ばれるとは誰も言っていない。
伊達定治と若月レイナは伝説の桜の木の下でお互いに頭を下げ合っていた。
こんな気まずい雰囲気のなかで、定治はそれでも諦めきれないとレイナに詰め寄った。
「待ってくれ委員長、あんたのことが本当に好きなんだ!」
「いや…ちょっと…」
言いにくそうに口籠るレイナにお構いなく、定治は胸に秘めていた熱い愛を伝える。
「俺にダメなところがあるならはっきり言ってくれ!」
「別に伊達君が悪いわけじゃ———」
「なんでも言ってくれ、絶対になおしてみせるから!」
「伊達君は真面目だし、いい人だとは思ってるけど」
「ならなんで!」
レイナが一歩後ろに下がった。
それが定治の熱量に気圧されたのか、声の大きさに驚いたのか分からない。
数秒の沈黙。その後レイナは何か決心をした表情で定治のことを見つめた。
「……顔がゴリラみたいでタイプじゃないの」
定治は最初言われたことがわからなかった。
だが、時間が過ぎると嫌でも理解できてしまう。
レイナの真剣な眼差しからこれが嘘偽りない本心だと気付いて——
「ウホ?」
こうして伊達定治の一世一代の告白は見事なまでの失敗で終わった。