最初で最後の夏祭り
隣の彼の手が止まったのに気づいて、私は残りの焼きそばを急いで食べようとした。綺麗に割れなかった割り箸のせいで、なかなか進まない。
一瞬目をやると、彼はそっぽを向いている。
彼の見ている先の何かに嫉妬しながら、私は最後の麺を丁寧につまんで口へ運ぶ。
ハンカチで口を拭いて、リップを塗りなおして、それからやっと彼の方を向いた。彼はまだ、どこかを見ていた。
「少し歩く?」
私は問いかける。彼は私を見て、また少し目を逸らす。
「もう少し座ってよう。ここ、涼しいし」
「うん、そうだね」
それきり、私たちは何も話さない。
笛の音と太鼓の音、人びとの賑わいが私たちの気まずさをなんとかしている。そんな感じだった。
「足の日焼け、すごいね」
彼は私の靴下の日焼け跡を見て言った。
「……ああ、これ? すごいでしょう」
私は苦笑した。
お気に入りのサンダルを履いてた。ピンクのペディキュアもしてた。お洒落なミサンガもしてた。
そのどれも、彼には気づいてもらえない。
彼はまたそっぽを向く。私も下を向く。
暑いけど冷たい、夏の夜だった。