黄金
わかった。
俺は力強く頷いた。
「半分やる」
「たわけ。その手に持っているかぼちゃの煮つけをすべて寄こせ」
「半分やる」
「おい、くそがき」
「わかっている。吸血鬼は食べないんだろ。でも、俺はやっぱり、食べてほしいんだ。口があるなら、なおさら」
「あれはただの飾りだ。言葉もあそこから発しているように見せかけているだけだ」
「だって、娘さん。吸血鬼に直接食べさせた事がないだろう?」
「私たち死神がどれだけの幾年をあやつら吸血鬼と相対していると思っている?仔細を知っている。食わないのだ。あやつらは」
「でもさ。知っていると思っているだけで、食べないと思っているだけで、実際は食べるかもしれないだろ」
「………どれだけ食べさせたいのだ」
「すんごく食べさせたい」
「………致し方ない。おまえには力をもらい続けているわけだしな」
「娘さん」
「おまえが直接食べさせるのだな?」
「ああ」
「危険は承知の上だな?」
「ああ」
「力はもらい続けたままだが、いいな?」
そうでなければ、吸血鬼を抑え続ける事はできぬ。
娘さんに言われた俺は、全身に力を込めて頷くと、娘さんに近づいて、持っていた箸でかぼちゃの煮つけを一切れ掴んでは、娘さんの口元に運んで、あーんと言ったのであった。
(2023.10.23)