憲房
『おまえの肉体に流れるかぼちゃの味を、おまえの心に流れるかぼちゃへの想いを、おまえの魂に流れるかぼちゃの轍を、余す事なくすべて喰わせろ!!!』
なんて言われたもんだから。
吸血鬼を追い祓うまで、俺は脳を動かす事も身体を動かす事も叶わないただの屍と成り果てるものだと思っていたのだけれど。
もしかしたら、娘さんが力を残しておいてくれたのかもしれない。
俺に、じいちゃんのかぼちゃの煮つけを作る力を。
かぼちゃ色のアフロカツラを被ったままの俺は、廊下に倒れていたじいちゃんをじいちゃんの自室のベッドに寝かせてから、台所に向かってフラフラの身体で歩き出した。
かぼちゃの煮つけを吸血鬼に食べてもらう為に。
じいちゃんに及第点はもらえなかったけど。
じいちゃんに及第点をもらったかぼちゃのどら焼きの方がいいかな。
いや、俺はじいちゃんのかぼちゃの煮つけを食べてほしいんだから。
うん、愛情を注げば、料理は愛情が大事だって言うし、ね。
あ~~~、でも。
じいちゃんが無事だったらなあ、絶対じいちゃんに作ってもらうのに。
俺のかぼちゃの煮つけじゃ。吸血鬼の虚ろを少しも埋められない、かも、しれない、し。
娘さんが一人で戦っているから、作るなら早くしないと。
だめだめ、迷いを、焦りを持ったまま料理をしちゃ。
集中しろ。
食べてほしいのは。
「かぼちゃの煮つけ作った………娘さん!」
娘さんと吸血鬼が戦っているかぼちゃの保管室に駆け込んだ俺の心臓は、強くねじり絞られた。
この光景を理解するよりも早く、反射的に身体が悲鳴を上げたのだ。
娘さんの日本刀が胸に突き刺さっている娘さんを目の当たりにして。
(2023.10.20)