伽羅
ぼくは空ろだ。
一つなのか無数なのか、大きいのか小さいのか、どこにあるのかすら判明ができないが、身体に穴が開いていることだけはわかっていて、そこから常に風が吹き荒れて全身を、心を凍らせていた。
どうしてこんな身体で生まれ落ちてしまったのか。
この世を恨めしく呪う日々が続いたが、そこから免れる瞬間があることはどうしてか、生まれながらに知っていた。
一年に一回、現世に訪れることができる日。
かぼちゃの味を吸い取り形骸を作った時だけ。
風は止み、僅かな温もりを感じることができるのだ。
吸味は最初、順調に進んでいた。
もしかしてこのまま穴が塞がるのではと希望を抱くくらいに。
順調だったのだ。
やつらが、
死神が出現するまでは。
ぼくの吸味を邪魔するまでは。
ぼくは、
ぼくの吸味を邪魔する死神が憎い。
ぼくが唯一生を感じられる瞬間を。
ぼくが唯一安堵できる瞬間を。
「奪ってくれるなよ。死神」
「私は私の任務を全うするだけだ。吸血鬼」
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
これまで。
しかし、これからも繰り返すのだろう。
永遠に。
吸血鬼を滅するまでは。
『そうか。俺、そんなに吸血鬼にじいちゃんのかぼちゃの煮つけを食べてほしかったんだな』
もしも。
僅かな期待が頭を擡げる。
もしも。
(何をたわけた事を)
吸血鬼と対峙する死神の少女は、苦々しく笑った。
こんな能天気でおめでたい思考が自分の中で生まれてしまったのはきっと、この刀の所為だ。
あのくそがきをこの手の持つ刀に注いでしまった所為だ。
(2023.10.16)