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城には、従者と騎士。それ以外の人は見当たらなかった。ある程度探しても見つからずどういう事だと思っていると、一番上の部屋にいるのかと言う考えに至った。一番下か地下にいるものだと思っていたから。最上階よりも、地上階や地下の階の方が逃げやすい。臆する事なく、待っていたのは褒めるべきか。
最上階は一つの部屋しかなかった。大きな扉を開けると、そこには一人の男しかいなかった。他にはいないのかと探したが、誰もいなかった。バルコニーで外を眺めている男に問いかける「この国の王は貴方か」と。
男は振り返り、微笑む。
「王の顔も知らずに侵略とは。皇国の軍師殿は人間には興味がないようだ」
目で語られる、「気に障ったか?」と。背後にいる側近たちへの挑発。片手を上げ前に乗り出してくるのを止める。
「失礼しました。仮面をつけている顔しか知らず、お顔を拝見したことはなかったので」
表に出る時は顔の半分が隠れる仮面をかけていた。顔にアザがあるため、それを隠すために仮面をつけていると聞いていた。だが、目の前の男はアザ一つない顔。事前情報は嘘だったかと結論づけた。目の前の男が偽物の可能性はないと本能が告げている。
「私は貴方に交渉しにここまで来ました」
崩れゆく国を眼下に交渉とはよく言ったものだ。これは交渉ではなく一方的な要求だ。そして、相手はそれを断ることができない。この戦争に勝ったのはこちらであって、相手ではない。男もそれがわかっているからこそ、微笑むばかりで何も言わない。
「合併しましょう。要求を呑んでいただけるのであれば、これ以上兵を動かさないと約束します」
「……ペンを」
こちらが誓約書を用意していることを見越した上で、ペンを要求してきた。誓約書とペンを出させ、男はそれを受け取り誓約書を読んだ上で署名した。誓約書の中には、皇国の支配下には置くが文化や風習はそのまま。民には国は亡くなるが今まで通りの生活を保証する旨が書かれている。そして、誓約書を差し出す。
「寛大なお心、感謝する」
「ここには貴方のことが書かれていません。その話をしましょう」
「私のことはいかようにも」
男はどこか諦めたような、関心がないような、感情のない目をしていた。命乞いの一つでもしてくるかと思ったが、どうやら興味がないようだ。少し残念に思いながら、一つの考えが頭に浮かぶ。これを言ったら、側近たちにまた睨まれるだろう。が睨まれる程度では止める要因にはならなかった。
「貴方には、──」
男は目を見開き、後ろからは視線が刺さったが考えを変える気はなかった。